好きな人の好きな人




「はぁ・・」

またため息を付く。それも、本人は無意識らしい。
一日中ボーっとしている渋谷を、みんな見ていた。
しかし、その視線に気付かないくらい、渋谷有利の心は此処にあらずだった。

「渋谷・・どうしたんだと思う?」
「さぁ?」
「最近、ずーっとあぁじゃねぇ?」

場所はマクドナルド。時は夕方。
学校帰りに皆で寄った。

「おーい、渋谷」
「んー?」
「お前、どしたの?最近、ずーっとボーっとしてさ」
「別に・・・。どうしたって、こともないけど・・・」

そうして、また1つ、はぁ・・とため息を付く。
その横顔は、元気な渋谷らしくなく、なんていうか・・・。

「恋?」
「恋煩いか?」
「あの渋谷がついに女子に目を向けたのか?」

どちらかというと、渋谷のほうが恋する乙女っぽいけどな。

「おい、渋谷。好きな奴でも出来たのか?」

その台詞に、分かりやすすぎる反応を返す渋谷。

「な、なんで!?」

明らかにうろたえている。分かりやすすぎる。
おまえ、隠す気ないだろう。と思われても無理はない。

「だって、明らかに変だし」
「最近、ずっと上の空だし」
「あ、う・・・」

え、なにか?渋谷、マジに好きな奴が出来たのか?
・・・で、俺は何でちょっとショックを受けてるんだよ。
まてまてまて、俺の心。冷静なれ。

他の奴らが楽しそうに渋谷に問い詰める。
ってか、そうだよな。渋谷ってこういう話滅多にしないもんなぁ。

「で?誰だよ、お前の好きな奴」
「もしかして、もう付き合ってたり?」
「バカ。付き合ってたら、あんなため息ついて悩んだりするかよ」
「ってことは片想いか」

渋谷を見ると、困っているらしい。
ちょっと可愛い。・・・じゃないだろう、俺!

「で?渋谷、その片想いの相手って?」

俺が言うと、赤くなった顔がこちらを向く。

「い、言わないとダメ・・なのか?」
「ってか、気になるじゃんかよ!」
「そうそう。渋谷の色恋ネタなんて滅多にねぇんだから」

皆、渋谷の口を割らせるまで引かないつもりだな。
まぁ、確かに気になるけど。
渋谷は諦めのため息を付いて、口を開いた。

「別に・・・片想い、って訳じゃ、ないんだけど・・・」

え?片想いじゃない?ってことは、両思い?付き合ってる・・のか?

「え、マジ?なに、付き合ってんの?」

あぁ、俺が聞けなかったことをあっさりと口にしないでくれ。

「うん・・。一応は・・」
「一応って・・」
「あー、でも!わかんねぇし。俺が、勝手にそう思ってるだけかも」
「なんだ、それ?」
「告白とかしてねぇの?」
「いや。した・・した、よ。うん」
「じゃ、付き合ってるんじゃね?」
「何をそんなに悩んでるんだよ」
「ホントに付き合ってんのかなー?とか悩んでんの?」

渋谷が、困ったように視線を彷徨わせる。

「悩んでるわけじゃねぇよ」
「じゃあなんだよ」
「笑わねぇ?」

みんなうんうん、と首を縦に振る。
渋谷は絶対だな!と念を押して、呟いた。

「・・・あいたいなぁ・・って・・」

は?

みんなも同じような顔をしている。
乙女だ。普段、外見とは裏腹にあんなに男前な渋谷が、乙女だ。

「え、遠距離・・なのか?」
「まぁ・・」
「そんなに?」
「もう・・一ヵ月半?くらい、会ってないかな?」
「連絡とるとか・・」
「いや。日本にいないから」

留学?いや、外人なのか?
って言うか。

「そんなに好きなんだ?」

俺は気が付けばそんなことを口にしていた。

「うん・・好きだよ。凄く」

はっきり、きっぱり。
そして、ふと思う。

「それって、もしかしてそのペンダントと関係あったり?」

その場の皆の目が渋谷の胸元にいく。
皆知っている。渋谷が青いペンダントをしていることを。

「うん。そいつから貰ったんだ。宝物だよ。お守りだし」
「男だろ」
「えっ」

あぁ、この口はなんで持ち主の意思を無視して勝手に動くんだっ!

「な、なんでっ?」
「え、マジで?」
「女じゃなくて、男!?」
「へー・・男かぁ」

渋谷はなんでわかったのか、と慌てている。
なんでわかった、って言ってる時点で認めてるから、渋谷。

「まぁ、いいんじゃね?」
「渋谷だしなぁ」
「どんな男だよ」

渋谷がまた口ごもった。そして。

「・・・すっげー男前」

ぶすっとした物言いだ。なんだ?好きな奴じゃないのか?

「むかつくんだよな、完璧すぎて。爽やか好青年で、顔いいし、性格いいし。気も利くし。
 なんでも卒なくこなすし、頭いいし。背も高いし、足も長いし、羨ましいくらいいい体してるし。
 俺なんか腕ん中にすっぽり収まっちゃうし。簡単に抱き上げられちゃうし。
 ただちょっと絵とギャグが寒いけど。アレだけはマジ勘弁して欲しいけど」

「それが、渋谷の恋人?」

それを言うとすぐに赤くなる。なるほど、恋人って言われるのが恥ずかしいのか。

「えーっと・・。俺の名付け親で、野球仲間で、保護者で・・・・恋人・・かな」

なんだか、肩書きがいっぱいだな。つか、名付け親。・・そんなに歳が離れてるのか?

「もういいだろっ!」

皆が口を開く前に渋谷が言った。

「えー?もっと聞きたいっ」

声を発したのは俺たちじゃない。
いつのまにか、俺たちの隣の席には女子が陣取っていた。

「もう、俺は何も話さないぞっ!今日は夜、約束があるんだっ!もう行くからなっ」

此処まで暴露しといて、なにを今更。という感じがしないでもない。
渋谷は鞄を掴むと引き止める声を無視してさっさと店を出て行った。
そこで偶然なのか約束していたのか、人と話している。
あれは、確か中学が一緒だった村田健?
渋谷の顔が嬉しそうだ。でも、アイツじゃない。渋谷の好きな奴は。
二人は歩きながら話し出し、そして見えなくなった。

はー・・失恋か、俺は・・。ん?失恋?

ここまでくると、もう俺自身も誤魔化せない。
そうかー・・渋谷が好きだったんだな、俺。はぁ・・。

誰にもばれないように、封印しておこう。渋谷とはこれからも友達でいよう。
まぁ、今気づいた訳だし?どっちにしろ言う気もない。それに、俺も渋谷も男だしな。
こいつらは理解あるみたいだけど、でもそれは渋谷の人柄のせいかもしれないし。



こうして俺の恋は終わった。




こーいうのはじめて書いた。 有利に失恋した子の名前さえ出てないしね! だって、なんも考えてなかったし。書き終わったらこんなだったし(笑)