コンラッドと俺は、とっても微妙な関係だ。
付き合っているのか、いないのか。


いつも一緒にいるし、二人きりで出かけたりもする。
守ってくれるし、凄く優しいし。
でも、それは今更だ。自分でも贅沢だと思うケドさ、心の底から。

えっと・・キスも、する。たまに、だけど。
俺も嫌じゃないし。つーか、だって、俺はコンラッドが好きだし。
でも、コンラッドは?って思うと。凄く不安になるって言うか。
だって、俺はまだ・・・コンラッドから、言葉を貰っていない。
まだ、何も貰っていない。



ほしいことば。



「なぁ、コンラッド」
「なんですか?」

朝のロードワークが終わって。
風呂で汗を流して、学ランに腕を通しながら後ろにいるコンラッドに話し掛ける。

「あの・・さ」
「なんですか?」

いつもも「今日こそは!」と思って声をかけるけど、実際どういう風に聞いたらいいのか全然わからない。
恋愛初心者と笑うがいいさ!
けど、こんなことがしばらく続けは、コンラッドだって変だと思うのは当然で。

「ごめん、なんでもない!飯食いに行こう」

俺は振り返って笑いながらコンラドを促した。
けど、コンラッドは俺を見つめて、動こうとはしなかった。

「コンラッド・・・?」
「どうか、したんですか」
「へ?」
「最近、ずっとそうだ。言いかけて、やめる。
 いつまでも誤魔化されてあげるほど、俺は優しくないんです」
「コンラッド」
「俺に、言いたいことがあるんでしょう?言って下さい」
「ホントに!何でもないってばっ!腹減っちゃった。な、行こう?」
「ユーリ・・!」
「俺!もう行くからっ」

俺はコンラッドの横をすり抜けて食事をとる部屋に向かった。
コンラッドも、ちゃんと後ろからついてきている。
そのことに、俺はほっとしていた。その時は。


その日は一日中ぎくしゃくしていた。
俺もコンラッドも。
会話も少ないし。遠慮っていうか、やっぱりコンラッドは護衛だから傍にはいてくれるんだけど、
距離を置かれてるって言うか。笑顔もなんだか作り物っぽくて。
そんなのいやで。
好きな人と、ぎくしゃくなんかしたくないわけで。

俺が、本当のことをちゃんと言えば・・いいんだろうけど。

「はー・・・。どうしよぅ・・」

夜、部屋で。
ヴォルフラムはとっとと寝てて。
俺は一人、膝を抱えて溜め息をついた。
つかヴォルフラムってば寝るの早すぎ。まだ11時過ぎじゃん。
まぁ、早く寝てくれたほうがいいけどさ。

そして、また1つ溜め息。
どうしよう・・。明日もこんなんだったら、耐えられない。

よし!

俺はベッドを降りた。
男だろっ!ウジウジしてるのは俺らしくない。

俺は部屋を抜け出し、コンラッドの部屋へ向かった。













ノックするとコンコンといい音がする。
すぐにドアが開いてコンラッドが顔を出した。
凄く、驚いた顔をしている。

「陛下・・」
「こんばんわ、名付け親」
「すいません。どうぞ、中へ。ユーリ」
「ん・・。ありがとう」

コンラッドに促されて、俺は部屋の中に足を入れた。


ベッドの縁に腰かける。
コンラッドが飲み物を差し出してくれた。暖かいココア。

「ありがと・・」

受け取って、ふーふーと息を吹きかけるとそっと口をつけた。

「どうしたんです?こんな時間に。城の中とはいえ、危険ですよ」
「うん・・。でも、どうしても、その。コンラッドと話したくて・・・」
「なんですか?」

コンラッドが椅子を持ってきて、俺の向かいに座る。
うぅ、すっげぇ心臓がバクバクしてるっ!

「あの、あのなっ?」
「はい」
「最近、の俺・・・変だった?」

カップに口をつけたまま小さく問うと、きっぱりと肯定された。
まぁ、そうだよな・・。ぎくしゃくした原因は俺にあるんだし。

「えぇ、そうですね。けど、その理由を急に言う気になったんですか?」
「だって、いやだったんだ。コンラッドと、ぎくしゃくするのは」

カップを両手でもって膝の上におく。
緊張でどうにかなりそうだ。

「俺のことを、嫌いになったんじゃなかったんですか」
「なっ何でっ!?」
「言いかけては何も言わないで、気まずそうに避けられたら、誰だってそう勘繰りますよ。
 別れを言われるんだとばかり思っていましたが。違うんですか?」
「違うっ!そんな、そんなことっ」

ってか、別れを言われるんだと思ってて、なんでコンラッドはそんな冷静なわけ?

「では、なんでしょう?」
「コンラッドは・・、俺がサヨナラしに来たんだったらどうするつもりだったのさ」
「そうですね。どうしたでしょう」
「なに、それ・・。結局さ、コンラッドは、俺のこと本気で好きじゃないんだよな」
「何を言ってるんですか」
「もてるし、付き合う人に困ったりしないだろ?それこそ、女の人が大挙して押しかけてくるんじゃない?
 俺、男だしさ。守ってもらわないとダメな奴だし。特別カッコいいわけでも綺麗な顔してるわけでもないし。
 俺なんかすぐ捨てちゃってさ。美人の女の人と付き合えたりするんだよな」

俯いたまま、必死に言葉を紡いでいたから、コンラッドのことなんか気にもしてなくて。
怒ってる?と思ったのは言い終わった後だった。

「怒りますよ?いくら俺でも」
「っ・・」

怖い声だ。

「言いたいことは、それだったんですか?そんなことを言うために来たんですか」
「ち、ちがっ・・」
「どうぞ、お部屋にお帰りください。今は、平気で話していられそうも無い。御送りします」
「違うっ!コンラッド、待って!違うんだっ、聞いて・・」
「なんですか」
「あの、あのなっ?」

上手く言えないことと、俺の言葉がコンラッドを本気で怒らせてしまったことで。
俺は、目の奥が熱くなってきた。

「う・・っ」
「ユーリ?」
「っ、ごめっ、コンラッド・・」
「ユーリ・・」

思わずこぼれた涙を拭う。

「あのなっ、俺が言いたかったのは、ぅ・・」
「ユーリ、すいません。泣かないで」

コンラッドが俺を抱きしめてくる。
背中を撫でられて、あぁ、ホントに好きだなって思う。
この手がなくなるなんて、この人がいなくなるなんて、俺には絶えられない。

「っ、コンラッドは・・俺のこと、好き・・?」

抱きしめられたまま、勇気を出して、俺は今まで訊けなかったことを訊いていた。

「え?」
「コンラッドは、俺のこと好き?ずっと、訊きたくて・・でも、訊けなくて。
 俺のせいでぎくしゃくしてるのわかってたから、それが嫌だったから、ちゃんと訊こうって。そう思って。」
「ユーリ・・」
「俺が、コンラッドを嫌いになるなんて。そんなわけないんだよ。だって、・・だって、俺はこんなに
 コンラッドのことが好きなんだから!さよなら、なんて。そんなの嫌だっ、絶対に!」
「俺は、そんなに貴方を不安にさせていましたか。泣かせてしまうくらい。すいません。気づかなくて」
「違うよ、コンラッドは・・きっと悪くない。好きだって思ってくれてるってわかってた。
 けど、言葉がないと不安な、俺が悪いんだよ」
「言って、いませんでしたか。好きだと」

コンラッドの言葉に、俺はこくりと1つ、頷いた。

「すいみません。いつも、いつも。四六時中、貴方を好きだと思っているから。付き合うようになって、
 すっかり貴方に気持ちを告げた気でいました。不安にさせてしまって、本当にすみません」
「ううん・・。コンラッドは、ちゃんと、俺のこと・・好きでいてくれてるんだよな?」
「もちろんです。好きですよ、貴方が。・・ユーリ、愛しています」

ぐっと俺を抱きしめるコンラッドの腕に力が入って。きつく、抱きしめられる。
上から降りてくる声が、耳元をくすぐって、優しく、確実に、俺の中にコンラッドの告白が入ってくる。

凄く恥ずかしくて、でも嬉しくて。
俺はコンラッドにしがみついた。

不安になっていたのが嘘みたいに、俺は幸せだった。






もともと、こんな予定じゃなかったんですけど。 長くなりすぎちゃったんで前後編に分けます。 そんな大層なもんでもないくせに(爆)