6 はつこい



「ねぇ、コンラッドの初恋っていつだった?」

「なんですか、突然」

「いいじゃん、教えてよ!まさか、100年生きてて好きな人が一人もいなかったわけじゃないだろ
う?」

「さぁ、どうでしょうね」

昼下がりの城の裏手にある広場で、俺は芝生の上に寝転がりながら、コンラッドに尋ねた。

「教えろよー?別に、気にしないぞ、俺は」

「嫌です」

「俺も、教えるから!」

「ユーリの初恋、ですか?」

「そっ!な?だから、コンラッドの初恋も、教えて?」

「ユーリが話してくれたらね」

そう言って、俺の隣に座ってるコンラッドが俺の顔を見下ろしてきた。

コンラッドの顔が反対に見える。

そのまま、陰が降りてきて、唇が重なった。

「ん、もう・・。誤魔化されないからな。ホントに、言うんだな?」

「えぇ」

「俺の初恋の人はー・・・」

この話を聞いたら、コンラッドはどんな顔をするんだろう。

楽しくて、顔が緩んでしまう。

すこし、コンラッドの眉間に皺が寄ったのがわかった。

その理由はわからないけれど。

俺はもそもそと動いて、コンラッドの膝に頭を乗せた。

「へへ〜」

「ユーリ・・」

コンラッドが頭を撫でてくるから、俺は目を閉じた。

とても、気持ちがいいから。

「あのなー、俺の初恋はな・・」

「はい」

「んー・・最初はさ、全然、わかんなくて・・。自分の気持ち。でも、すっごく好きだとは思ってたんだ。
 恋愛感情じゃなくて、仲間として。すっげー好感持てる奴だったから」

「いつ頃の話なんですか?」

「まだナイショ。・・・んでな?そいつも、野球するんだ。野球が好きな奴なんだって知って、もっと
 身近に感じて、嬉しくなった」

コンラッドは俺の髪を説きながら、静かに話を聞いてくれていた。

「歳は、離れてるんだ。年上。で、いつも傍にいてくれんの。危ないことから、守ってくれる。絡まれ
 たりしても全然安心!俺は、そんなに弱いつもりはないんだけど、まぁ・・怪我して迷惑かけたくな
 いし」

「そうですか・・・。素敵な方、なんですね。それに、男の人なんですか」

「おう!すっげー素敵。カッコいいし頼りになるし?」

「・・・それで?」

「それでー、いつも一緒にいて、遊ぶのも付き合ってくれて。俺、男同士なんて!って思ってたけ
 ど、段々とな?この気持ちはただの友情じゃないんじゃないかって。好きなんだってわかって。戸
 惑ったけど、それでも凄く嬉しい気持ちになれた。・・・ちょっとだけ、離れてたことがあるんだけど、
 その時は凄く辛かった。んで、今はさ、そいつと一緒にいるんだけど。告白して、そしたら、同じ気
 持ちだったってわかって。俺、嬉しくて泣いちゃって」

「ユーリ・・・・」

「へへ、好きだよ。コンラッド・・・大好き」

「俺、のことだったんですか・・・。貴方の初恋の人は、俺?」

「んー。まぁ、ぶっちゃけ言うとさ。幼稚園の時の先生とか、小学校の時の同じクラスの学校でも
 人気のある女の子とか色々いるけどさ。憧れと、恋って違うんだよな」

「ユーリ」

「だから、間違いなく、俺の初恋はコンラッドだよ・・・」

「ユーリ・・・」

目を開けたら、そこには俺の大好きな顔があった。

優しい目が俺を見つめていた。

「コンラッド・・・」

名前を呼んで顔に手を伸ばす。

そっと、顔が降りてきた。

俺は目を閉じて、そしたら、唇の合わさった感触がして。

くすぐったかった。

「好きですよ、貴方が。とても・・・愛している」

「ん、俺も・・。な、コンラッドの初恋、は?」

「俺も、ユーリだと言えば信じてくれます?」

「えー?もてるのに。無理があるだろう、それはさー。ジュリアさんはどうなのさー」

「・・・そうですね。今まで付き合った女性は確かにいますが。好きだったのか、と聞かれれば微妙
 です」

「うわ、アンタって意外と最低?」

「大人の事情ですよ」

爽やかな笑顔でそんなこと言わないで欲しい。

「俺の初恋も、貴方ですよ」

「んー・・納得いかないけど、嬉しいからいいや」

そういうと、コンラッドがカッコよく笑ってくれて。

思わず見惚れたって言うのはナイショだ。・・・ばれてると思うけど。

初恋より、大事なのは今。

今、お互いに好きだから、問題ない。

気持ちいい風が、俺たちを撫ぜて行った。





□あとがき■
風に吹かれるコンラッドもきっと男前だと思います。