さくら 「…春だなぁ」 部屋で仕事をしながら、俺、渋谷有利はそう呟いた。 開け放たれた窓から気持ちのいい風が入ってくる。 その風と共に花びらが何枚かふって来た。 「・・・これ、桜の花びら?」 「そうですね」 独り言のつもりで呟いたセリフに返事が返って来て、俺はビックリして顔を上げた。 ・・・上げなくても、その声の主が誰かなんて、わかるけれど。 「びっくりしたぁ、いつの間にいたのさ。コンラッド」 「たった今。ちゃんとノックしましたが?」 「え、マジ?ごめん、気付かなかった。」 春だぁと思いながらボーっとしてたらしい。 コンラッドが来たのにも気付かないなんて。 「かまいません。それより、その花びら、どうしたんです?」 「ん?うん。入ってきたんだ。こっちにも桜、あるんだぁ」 「えぇ、今は満開の時期じゃないかな。綺麗ですよ」 「へー・・・」 全然知らなかった。ずっと部屋に篭りっぱなしだもんなぁ。 あれ?でも・・・。 「朝、走りに行ったときは全然なかったよ?」 「桜並木は通っていないから。・・・お花見、行きますか?陛下」 「ホントに!?行く行く!行くけど、陛下じゃないだろ、名付け親。」 「はい、ユーリ」 コンラッドはにっこりと微笑んだ。 花見に行くことになったんだけど、今までサボり過ぎていたせいで これ以上は放置してはおけない。 なんで今、俺は一生懸命、コンラッドと花見に行くために頑張っていた。 ・・・いたんだけど・・・・。 「おわっ、たぁ〜〜!」 「お疲れ様です、ユーリ」 ぐーっと伸びた俺にコンラッドが労いの言葉をくれる。 そして、そっと肩に触れて軽く揉んでくれた。 「ありがと、コンラッド〜。あ、でも・・・こんな時間じゃお花見に行くのは無理、かな・・・」 ちょっと、いや・・かなり?残念に思いながら、俺は窓の外を見た。 もう、日が暮れる。 「大丈夫ですよ。行きたいんでしょう?・・・お疲れでしたら明日でもいいですけど。」 「え!今から行っていいの?」 「もちろん。俺がついてますから」 「じゃ、早く行こう!」 「行くんですか?」 「当たり前。ね、早く。コンラッド」 俺が急かすとコンラッドは笑って、わかりましたから、と言った。 なんだか子供みたいで恥ずかしかったけど、久しぶりに二人でいられる時間があると思うと嬉しかった。 だって、俺はいつ向こうに戻っちゃうかわかんないから。 なるべくコンラッドと一緒にいたいんだ。 ・・・コンラッドも、そう思ってくれてたら嬉しいな。 まだ夜は風が冷たいから、と上着を羽織って。 俺とコンラッドは二人で花見に来た。 と言うか、今向かっている真っ最中だ。 もちろん、みんなには内緒で。 「コンラッド〜、まだぁ?」 「もう少しです」 繋いだ手を引かれながら、森の奥へ進んでいく。 俺は足元ばかり気にしていたから、立ち止まったコンラッドに気付かずに背中にぶつかった。 「わっ、と。・・コンラッド?」 「陛下、着きましたよ」 「え、ホントに?って、また陛下って・・・、っ」 顔を上げて文句を言おうとしたんだけど、続きは出て来なかった。 人間、ホントに凄いと思ったら声が出ないのな。 そこは、ぐるりと円を描くように開けていて。 その場所を創っているのは、桜の木だった。 「桜並木より、こっちを見せてあげたくて。」 「・・・・・・・・・」 桜に囲まれた真ん中で、俺はぐるりと見渡した。 空はもう暗くて、月と星がよく見える。 桜は、それ事態が発光しているかのように白く輝いて見えて。 幻想的な、ホントにそんな言葉がぴったりな世界だった。 思わずコンラッドの手を握り締めてしまう。 「ユーリ?」 「す、ごい。なんか、俺、感動してる、かも。」 息をするのも、忘れていたことに気がついた。 「そんなに喜んで貰えてよかった」 「こんなとこ、どうして今まで知らなかったんだろう・・・」 「今だけの特別な景色ですから」 コンラッドが後ろから抱きしめてくる。 俺はあったかな腕の中に大人しくおさまって、桜を見上げていた。 「ユーリ・・」 「ん?」 そのまま首を反らして上を見上げるようにコンラッドを見る。 ニッコリ笑ったコンラッドの顔がすぐそこにあると思ったら、目を閉じる暇もなく、唇を塞がれた。 「ん・・っ、コン・・・」 「桜にヤキモチ妬きました」 「なっ・・」 「ユーリがあまりにも桜を見つめるから。」 「そんな・・桜を見にきたのに」 「それでも、です」 本当に、どうしてこう、恥ずかしいことをサラッと言うんだよ! 俺は恥ずかしくてうつむいた。 ザァッと風が吹く。桜が舞う。 うつむいていた俺にも、それはわかった。 「あ・・・」 顔を上げると、桜吹雪。まるで雪のように。 「コンラッド・・」 「なんですか?」 「ありがとう」 「・・・どういたしまして」 抱きしめてくるコンラッドの腕に手を添えて、少し力をこめる。 上で、コンラッドが笑ったのがわかった。 「明日は、昼間、桜並木にお花見に行きましょうか」 「え?」 「みんなで、お弁当でも持って」 「うん、行く!!」 「では、そろそろ帰って寝ましょうか・・・。明日に備えて」 「うん。コンラッド、ありがとな。・・・大好き、だよ・・・」 「ユーリ・・・」 再びキスされて。 それはとても心地よくて。コンラッドに身を任せて。 息が上がるまでキスをした。 「ん・・はぁ・・・。コン、ラッド・・」 「これ以上は、俺が我慢できなくなりそうなので、帰りましょうか」 離れて行ったぬくもりに寂しさを感じて、コンラッドの服を掴んでしまった。 「ぁ・・・」 「ユーリ」 ニッコリとした笑顔とともに手を差し出されて、俺はその手をとった。 「へへ・・・」 コンラッドと一緒だったら、どこにいても、何をしてても楽しい。 こうして一緒に歩いているだけで楽しい。 「明日楽しみだな!」 「そうですね」
ラブラブ? 戻