You lovely of me









『ユーリは男で、コンラッドも男だから、グレタに母上は出来ないんだね・・・』


「ってさー、グレタが言う夢を見たんだよ。さびしそーにさ。そりゃ、夢だけど。
やっぱりさ、グレタも女の子だし、母親って大事だと思うんだよね。
でも・・俺は、その、コンラッドいるし。ね、アニシナさん。なんかいい案ないかな?」
「陛下、私に出来ないことはございません。どうぞお任せください!」

アニシナさんがそう言った。

そうアニシナに相談したのが、朝、目が覚めてすぐ。
朝、5時だった。
思い立ったら!と、駆け出していた。

あぁ。どうして、コンラッドは今日に限って仕事で出ていたんだろう。
どうして、たかだか夢であんなに慌てていたんだろう。
どうして、アニシナさんに会いに行くときに誰にも会わなかったんだろう。
止めてくれる、誰かに。
俺はどうして、よりによってアニシナさんに相談してしまったんだろう。
むしろ、どうしてそんな早い時間に俺は起きて、都合よくアニシナさんも起きていたんだろう。

なんで、なんで、なんで・・・・。

後悔先に立たず。よく言ったものだと思う。

少なくとも、アニシナさんじゃなかったら。
俺は今、こんな目には合っていなかったはずだ。

・・・・・・・あぁ、俺のバカ・・・・。

















それは、アニシナさんに相談しに行ったその日の昼だった。
廊下でアニシナさんに呼ばれて近づくと、思いっきり、何かをかけられた。
それはもう、ばっさりと。気持ちいいほどに。
思わずむせてしまった。

「な、なに!?アニシナさんっ!?」
「陛下の悩みを解決して差し上げようと思いまして」
「な、悩み?」
「グレタに母親を、と言っていたではありませんか。もうお忘れですか?
ですから、かなえて差し上げようと思ったのです」
「へ?・・・え!?まっ、て、えぇっ!?」
「あぁ、ほら。もう変化が」
「変化っ!?」

怖かった。それはもう、とてつもなく。
マンガのように一瞬じゃなくて、寝て起きたらじゃ無くて。
目の前で、ゆっくりと、自分の体が作りかえられてゆく様を目の当たりにするのは、
それはもう恐ろしかった。まるでホラーだ。

「これは、成功作ですねっ!」

アニシナさんが嬉しそうに、自慢気にそう言う。

「・・・・・・・・おれ・・・・・」

俺、渋谷有利、16歳。
人生まだたったの16年しか生きてないのに、公園の水洗トイレから流されたり、
急に魔王になったり、娘が出来たり、男の恋人ができたり、色々と初体験をしてきました、が!!!

まさか、女になってしまうなんていう、人体構造を根本から覆す出来事に遭遇するなんて、
思ってもいませんでした。

















広すぎる自分の部屋にダッシュで戻って、びしょびしょに濡れた服を脱ぎ捨てた。
そして、姿見の前に立ち、俺は唖然と呟いた。

「う、そだぁ・・・・・・・・・・・」

鏡に映る俺は、どう見ても女だった。
顔は大して変わっていないのが、なんだか素で女顔だと言われているようで悲しい。
髪の毛は少し伸びていて、体もなんだかちっちゃくなった気がする。
なにより、無かった物がある。あったモノがない。



一体何時戻るのかとアニシナさんにきいたら「試作品なので1週間ほどで」と答えが返ってきた。
一週間も、このまま・・?
マジ勘弁して欲しい。
でもでもでも、アニシナさんに悪気はなかったんだし、この場合、俺の自業自得だ。

俺は、自分の裸なのに恥ずかしくて、シーツを体にまとってまた鏡の前に立った。
女の体に見慣れていない俺には、今の自分の体を直視することが出来ない。

「はぁ・・これからどうしよう」

唯一の信頼できる相談者、コンラッドはまだ城には帰ってきていないらしい。
今日はツェリ様がお城にいて、そのツェリ様に連れ去られたせいで、ヴォルフラムが俺の部屋にいなかったのが救いだ。
だけど、何時までもこんな格好で部屋に篭っているわけにもいかない。


「うーうーうー・・・」

まるでモルギフ・・じゃなくて。

こうしている間にも時間は進んでるわけで。
いつドアがノックされるか分からない。
もちろん、急に入られないように、部屋には鍵をかけたけど。

「コンラッドー・・どうしよぅ・・・」

そう呟いたとき、

コンコン。部屋のドアがノックされた。

びっくぅっと、大げさなくらい、体が跳ねた。
心臓がバクバクと音を立てる。
びっくりしたぁ・・・。

「だ、だだだ・・誰っ」
「あ、へーか。起きてらっしゃるんですか。俺です、グリエです。
隊長に頼まれまして、起こしに来ました」
「ヨザック!あ、ちょ、ちょっと待ってっ!」

どうしよう、このままでもヨザックなら平気か?
俺が着てた服は濡れてるし。
他の服もない。探したけれど見つからなかった。
どうして、ロードワーク用のジャージも見つからないのか不思議だ。
どうしてないんだ?とは思ったけど、見つからないものは仕方がない、とシーツに包まってるんだけど。

あ、パジャマがあるじゃん!何で気付かなかった俺。
俺はちょっと大きくなってしまった自分のパジャマに腕を通した。
胸がちょっとキツイけど仕方ない。

「陛下?ぼっちゃん?どうかしましたか?」
「ちが、なんでもっ!あ、いや・・・あるといえばあるって言うかー・・・」

俺はパジャマの上からシーツを被って体を隠し、そっと部屋の鍵を空けた。

「ヨザックだけ、だよな?」
「えぇ、はい。俺だけですよー」

そっと部屋のドアを開く。

「あのな、驚かないでくれよ?」

そう言って、ヨザックを招き入れた。

「って、陛下。なんですか、その格好は」
「いや、着てた服がびしょ濡れで。・・・で、あのな?俺見て、変わったとこ、ない?」
「そんな、隊長じゃないんですからわかりませんって」
「ちょっとじゃなくって、すっごい大きな変化なんだけど・・」
「えー・・・そうですね・・・。あぁ、ちょっと小さくなりました?髪も伸びましたね」
「うんうん、他は?」
「そーですね、ぇ・・・・」

ヨザックが固まった。

「どうした?ヨザック・・?」
「いえ、えっとぉ・・」

「なにをしている」

聞こえたのはよく知っていて、なによりも願っていた人物の声だった。


「コンラッド!」

俺は、ドアをと閉めてこっちにくるコンラッドを笑顔で迎えた。
だけど、コンラッドは笑顔でヨザックを見ている。

「ヨザック?どういうことだ?」
「誤解です!誤解ですって、隊長!!」

五回?じゃなくて、誤解??

俺はシーツ一枚、に見えなくも無い姿。至近距離で俺を見るヨザック。
朝。脱ぎ散らかした俺の服。
かぁっと顔が赤くなった。

「コンラッド!違うって、コレには、色々と訳がっ!!」

ワタワタと俺は手を降る。
そして、ハラリと。むしろ、バサリと。ストンと。
俺を隠していたシーツが落ちた。

「・・・・・・・・・・・・・・・ぁ」


2人が、俺をみて固まる。
俺も固まってしまった。






やっぱりというか、コンラッドがすばやく俺をシーツで包み、抱きしめた。
そして、ヨザックを睨む。剣をヨザックに向けた。

ココまで、約三秒足らず。凄い早業だ。

「全て忘れろ」

ヨザックは両手を小さく挙げて頷いた。

「出て行け」

剣をしまいながらコンラッドがそう言った。
ヨザックは逃がしてくれるなら!と速攻で俺の部屋を出て行った。
それを見送って、コンラッドがドアに近づき、鍵をかけた。
俺は、大きく息を吐き出して、そのまま座り込んだ。

コンラッドを見上げる。

「コンラッド・・・」
「何でこんなことに?」

絶対怒ってる。

「あ、あの・・・・」
「ユーリ?俺がいない間に何が?」

にっこりと、笑っているはずなのに、どうしてこんなに怖いんだ・・・。

「じつ、は・・・」

俺は事の次第をコンラッドに話した。

「つまり、コレはアニシナの薬のせいだと」
「そーです・・・」
「で、困っていたところにヨザックが来たから、助けて貰おうとした、と」
「はい・・・」
「まったく」

コンラッドはため息をついて前髪を掻き上げた。
疲れてる・・?その仕草を見てそう思った。
そして、思い至って、俺は盛大に落ち込んだ。

そーだよな。疲れてるよな。
だって、コンラッドが今日の朝のことをヨザックに頼んでたってことは、
朝に帰れる予定じゃなかったってことで。
ってことは、急いで帰ってきてくれたってことで。
なのに、あんな風に誤解させて、俺は面倒なことになってて・・・。


「陛下・・ユーリ、顔を上げて?」
「・・・・ごめん、コンラッド・・・」
「いいですから。別に、迷惑とか全然思ってませんから。もう、怒ってませんから」

俺は首を振った。
あぁ、こうしてまた、コンラッドに気を使わせてる。
俺って、ホントダメダメじゃん・・。

「大体、グレタのために、したことでしょう?いいじゃないですか。
なっちゃったんですから、母親やってあげれば」

別に、なりたくて女になったわけじゃないんだけど・・・。
確かに、グレタに母親をって言う計画は成功する。たった一週間だけど。

「ぇ・・・?」

コンラッドの言葉に驚いて、俺は顔を上げた。

「一週間ほどで戻るらしいですし、体に害もないみたいですし。
命に危険が無くて、ちゃんと元に戻れる保証があるのなら、さほど悲観することもないでしょう」

それに、とコンラッドが言う。

「俺が父親なんでしょう?」

コンラッドはイタズラっぽく笑って俺を見ていた。
あぁ、こうやって、コンラッドはいっつも俺を許してくれる。
そんなコンラッドのセリフに、俺は笑顔を浮かべた。

「当然だろ」

コンラッドはいつも通りの優しい笑顔を浮かべてくれた。










「さ、服を着替えないといけませんね。下着も必要だ」
「とりあえずは、いつもの服を・・。あぁ、濡れていましたっけ。では、こちらを。
そして、朝ごはんを食べてから、俺では女性の服はわかりませんので、母上のところに行きましょう」
「うん、ありがとうコンラッド」

やっぱり、コンラッドは頼りになる。
ってか、俺が探しても服なかったのに・・。
そうか、あそこにあるのか。覚えておこう。

俺はすっかり安心して、コンラッドに任せっきりだ。
そして、安心したせいか、すっかり忘れていたことを思い出した。

「あ、コンラッド」
「なんですか?」

俺を脱衣所に促しながらコンラッドが返事をする。

「おかえりなさい」

そう言って、俺は大きく背伸びして、コンラッドの頬にキスをした。

「ただいま、ユーリ。でも、ちょっとくっつくのは避けたいな。凄く刺激的な格好をしていますからね」
「刺激的って・・・」
「それに、ギリギリでなんとか出そうになる手を押さえてるんですから、あまり煽らないで?」

そういいながら、それでも、俺の頬に小さくキスをくれた。



俺は赤くなった顔を隠すように、服を持って脱衣所に引っ込んだ。


一度はやってみたかった、女体化ネタ。 えぇ、もちろん続きます。 改正:2006/03/13