You lovely of me
先に朝ごはんを、と思ってたけど、そうするとギュンターとかヴォルフラムとか煩そうだし、
ってことで、先にツェリ様に会いに行くことにした。
コンラッドがツェリ様の部屋のドアをノックする。
「母上、失礼しますよ」
「はぁい、どうぞ」
ドアをあけて、コンラッドがお辞儀する。
そして、部屋に入るようにと俺を促した。
「あ、おはようございます、ツェリ様」
「あらぁ、陛下!コンラッドと2人でどうなさったの?」
にこにこと笑って、ツェリ様は俺たちを部屋に入れてくれた。
「実はですね・・・」
俺は事の次第をツェリ様に話した。
「ということは、今の陛下は女性って、そういうこと?」
「はい・・」
「なので、母上に手を貸していただきたくて」
コンラッドがそう言った。
本当に楽しそうに笑って、手を合わせた。
「喜んで協力するわ!ささ、陛下。服も下着もお貸しするわ。
あ、コンラート、何時までそこにいるつもり?女性の着替えを見るの?」
「それは、失礼。では、ユーリ。俺は部屋の外で待ってますから」
「あ、うん。コンラッド、ありがとう」
「それでは、失礼します。よろしくお願いしますね、母上」
「任せて」
ツェリ様はコンラッドにウインクして、コンラッドはそれに苦笑して、部屋を出て行った。
「さ、陛下、着替えましょう? んもう、楽しみだわぁ」
あぁ、ツェリ様、本当に楽しそうだ・・・。
「ツェリ様、あの・・・出来たら露出は少なくて動きやすい格好の方が・・・」
「あら、嫌だわ、陛下。おしゃれは女性の特権よ?思いっきり綺麗にしなくてはだめよ」
「や、でも・・」
「そ・れ・に」
ツェリ様がその顔を俺に近づけて、イタズラっぽく囁いた。
あぁ、親子だ・・。(誰と、とは言うまい)
「うんと綺麗にしたら、コンラートはビックリして陛下に惚れ直すわ」
言われて俺は、きっと、絶対に、顔が真っ赤になったに違いない。
ツェリ様が、くすくすと笑って俺の服を選ぶ。
うぅ・・・恥ずかしい・・・。
俺は、服を脱がされて、女物の下着をつけさせられて、ツェリ様の服を着せられた。
パンツは新しいのをわざわざ出してくれたし、ブラジャーはわざわざサイズの小さいのを探してきてくれた。
服も、俺の強い要求で大人しめの物を選んでくれたし、靴もヒールの低いのを選んでくれた。
・・・ツェリ様の持ってるものの中で、の話だけど。
ツェリ様が選んでくれたのは、黒のドレスだった。
胸元にちょっと飾りがついてて、ヒラヒラしてて、前の方が後ろよりもスカートの長さが短くなってる。
足くらい見られたって別に困らないからいいけど、スリットが入ってなくて本当に良かった。
「陛下、ね。少しだけお化粧もしない?」
「えぇっ!?」
「ねぇ、いいでしょう?ちょっと、口紅を塗るだけだから」
「・・・・口紅だけだったら・・・」
「ふふ」
ツェリ様の指が顎にかかって、口紅を塗られる。
「さ、出来たわ、陛下。唇を合わせて? そう。まぁ、素敵!」
大きな鏡の前に立たされる。
そこにはすっかり女の子になった俺がいた。
髪の毛も梳かれて、整えられる。
「素敵だわ、陛下。きっとコンラートも見惚れてよ」
「も、もう!ツェリ様っ!」
「さぁ、コンラート、入ってきてもいいわよ」
「えっ!ちょ・・」
ちょっと待って!心の準備がっ!
だけど、コンラッドは待ってくれることなく、失礼します、とドアをあけて入ってきた。
思わずツェリ様の後ろに隠れてしまう。
「ほら、陛下。せっかく可愛らしくなったんだから、コンラートに見せてあげないと」
あぁ、もう語尾にハートマークが見えるようですよ、ツェリ様・・・。
俺は赤い顔が引くのも待ってもらえず、コンラッドの前に差し出された。
「・・・・・陛下・・・」
「・・陛下、言うな・・」
「あ、あぁ・・・すみません。ユーリ・・・これは・・」
「なに?やっぱり変?」
「まさか、とんでもない!とても可愛いよ、ユーリ」
サラサラの黒い髪。目元を赤く染め、恥ずかしそうに伏せられた大きな瞳。
綺麗な項。赤い唇。細い腕、足・・・。
少年のときとはどこか違う、色気のような物が、今のユーリには漂っていた。
これは・・。
「コンラッド・・?」
ちらりと見上げると、コンラッドが困ったように俺を見ていた。
「いや、なんでもないよ。ユーリ・・・俺の傍を離れないで下さいね」
「へ?なんで?」
「なんでも」
「まぁ・・離れるつもりなんてないけどさ」
特に、こんな格好になった今、コンラッドが傍にいなかったら心細すぎて死んでしまいそうだ。
「ツェリ様、ありがとうございました」
「いいえ、いいのよ陛下。とても楽しかったわ」
「あぁ、母上。陛下の服や下着の手配をお願いできますか?」
「もちろん、喜んでさせていただくわ」
俺はもう一度ツェリ様にお礼を言って、部屋を後にした。コンラッドの隣に並んで廊下を歩く。
「な、コンラッド?俺・・ほんとに変じゃない?」
「全然。とても素敵ですよ。誰にも見せたくないくらい」
コンラッドが俺の耳元でそんなことを囁くもんだから、俺はまた真っ赤になってしまった。
みんながもう集まってるだろう部屋。
きっと、イスに座って朝食を前にして俺を待ってる。
あぁ、緊張する。
隣のコンラッドを見上げた。
コンラッドはいつもと同じ優しい笑顔を浮かべて俺を見ていてくれてる。
俺は、なんだかそれだけで安心して、にっこりと笑顔を返すと、大きな扉を思い切って開けた。
「遅いぞ!ユー・・・・リ・・・」
遅れてきた俺とコンラッドに視線が集まり、そして、みんな絶句していた。
「お、おはよ・・・?」
ビックリしすぎて声が出ないらしいヴォルフラムとギュンターに変わって、グウェンダルが、なんとか低い声を発した。
「どういう、ことだ・・・」
「えーっと・・・女になっちゃって」
ここでヴォルフラムが復活。
「どういうことだ!?」
「いやー・・・なんていうか・・・」
「アニシナか・・・」
「そーです」
「・・・あいつは・・・っ」
グウェンダルが低い声を更に低く呟く。
「あ、違うんだ!今回のは、アニシナさん悪くないから!俺のためにしてくれたことだからっ」
「どういうことだっ」
「えっと、だからぁ・・・」
俺は、事の次第を話した。
今日3回目だ。結構めんどくさい。
「なるほど・・・」
「な?俺、女になったこと以外困ったことないし!仕事も普通に出来るしさ?アニシナさんは悪くないから!」
そして、珍しく静かにしていたヴォルフラムが口を開いた。
「よし、ユーリ。結婚式をあげるぞ」
「はぁぁぁ?」
「これで、お前のこだわっていた男同士、という問題は解決されたわけだ。問題ないだろう」
「大有りだ!俺は、一週間経ったら男に戻るんだよ!」
「だから、今のうちに結婚するんじゃないか」
「断るっ」
「何っ!?断るだと、どういうことだ!」
「俺は、お前と結婚する気は無いのっ」
「じゃぁ、誰となら結婚するんだ」
「そりゃ・・っ、・・・・すきな、ひとと・・・」
思わずコンラッドの名前を出しそうになって、俺は誤魔化した。
「お前、好きな奴がいるのか!?この浮気者っ」
「べ、別にそんなこと言ってないだろー!結婚するなら、好きな人とがいいって言っただけだろ」
「ほら、2人とも・・そのくらいにして」
苦笑しながら間に入ったのはコンラッド。
助けるなら、もっと早く助けてくれよ、コンラッドぉ。
なんとか、ヴォルフラムをなだめて貰って、俺はホッと息をついた。
「まぁ、今日はグレタが返ってくるし、ちょうど良かったのではないか」
「え、ホント!グレタ返ってくるの?やったぁ」
「よかったですね、ユーリ」
「うんっ」
後で気付いたけど、約一名、静かだなぁって思ってたら、もう食堂にはいなかった。
なんでも鼻を押さえて、食堂から走り去っていたらしい。
・・・・今日は勉強なしかな・・・・?
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