You lovely of me
「ちちうえーっ!」
「グレタっ」
久しぶりに会う愛娘を、有利は両手を広げて向かいいれた。
「会いたかったよ、ユーリ」
「俺もだよ、グレタ」
ぎゅぅっと抱き合って言葉を交わす。
まるで離れ離れだった恋人同士みたいだが、これは再会する度目にするいつもの光景だった。
グレタは有利の胸にぐりぐりと頭を押し付けて甘える。
そんなグレタの頭を、有利は優しく撫でた。
すると、グレタが顔をあげ、有利を見つめる。
「ユーリ?」
「ん?」
「・・・えっとー」
グレタは言っていいのかどうかどうか迷っているようだった。
言いたいことがわかった有利は、あぁ!と頷いて、自分の姿を見下ろす。
「いやー、俺はグレタが俺のかっこうに何にも言わないで抱きついてきたことにビックリしたんだけどな」
そう言う有利に、グレタはやっと聞きたかったことを口にした。
「ユーリ・・、本当に女の人になっちゃったの・・?」
いつもの変装かと思ったの。
そう言うグレタに、有利は苦笑を浮かべる。
「グレタに会うのに、変装なんかしないよ」
「ユーリは、女の人なの・・?」
「今だけね。一週間ほど、このままデス。 さ、城の中に入ろうか。みんな待ってるよ」
有利は立ち上がってグレタに手を差し出す。
2人は手を繋いで城の中に入っていった。
グレタは、手を引いて前を歩く有利を見上げていた。
それぞれのところに「ただいま」と挨拶して回った。
部屋に入ると、ヴォルフラムも、ギュンターも、グウェンダルも、コンラッドも、
笑顔で「おかえり」と挨拶した。
そして、ユーリの部屋。
グレタはそわそわと落ち着かない。
チラチラと有利を気にしている。
いつもなら、有利の傍で嬉しそうにしているのに。
「グレタ、どうした?」
イスに座っているグレタと目線をあわせ、有利が聞いた。
「ユーリ・・・」
「ん?」
首をかしげて、優しく訊くと、グレタが口を開いた。
「ユーリ・・・が、父上じゃなくなったら、グレタは何て呼べばいいの・・・?」
「え?」
「だって、ユーリ、女の人でしょう?父上じゃないでしょう?」
「・・・グレタ・・」
大好きな大好きな父上が、久しぶりに会ったら女の人になっていて、グレタは戸惑っていたのだ。
「グレタ」
有利が名前を呼ぶと、グレタが顔を上げた。有利を見る。
「グレタ。俺は俺だよ。男でも女でも、グレタの親だってことだけは、絶対に変わらない。
グレタは、俺の大事な娘だよ。だから、グレタの好きなように呼べばいいんだよ」
「本当・・?」
「もちろん」
にっこりと笑う有利に、グレタが少し照れたように口にした言葉は・・
「じゃぁ、じゃぁ・・母上って、呼んでもいいの・・・?」
「! もちろん!」
「ははうえ・・」
「うん?」
「ははうえぇ〜」
甘えるように、ぎゅぅっと抱きついてきたグレタを有利は抱きしめる。
そう、今はまだ、甘えてもいい。
眞魔国では、成人するのが早いから、子供の間はいっぱい甘やかしてやりたい。
そして、母親との思い出も、ちゃんと作ってやりたい。
いつか、グレタが母親になったときに、子供に話して上げれるような、素敵な思い出を。
ユーリはそのまま、ドアのほうに目をやる。
いつの間にいたのか、ずっと2人のやり取りを見守っていたらしいコンラッドが、
有利と目が合って、にっこりと微笑んだ。
有利も嬉しそうに笑う。
「いつから気付いてたんですか?」
「俺が、コンラッドに気付かないわけないだろー?」
かなわないな、と言って、
コツ、と靴を鳴らして、コンラッドが近づいてくる。
「よかったですね、陛下」
「陛下って言うなよ、名付け親」
「そうでした。すいません、ユーリ」
見つめ合う2人の間で、グレタが口を開いた。
「ユーリが母上なら、父上はコンラッドなの?それともヴォルフなのー?」
その問いに焦ったのは有利。
コンラッドはまったく慌てず、それどころか、
「それはユーリに訊いてみないとわからないな」
とサラッといった。
それを聞いてユーリは真っ赤になる。
コンラッドを見上げる目は、意地悪っ!と言っている。
しかし、コンラッドは笑みを深くするだけだ。
この、性悪っ!知ってるくせにっ!俺言ったのにっ!!
「ユーリ?父上は・・?」
「俺も聞きたいな」
2人に見つめられ、仕方なくユーリが口を開く。
その顔はほんのりと赤い。
「っ、言っただろっ! 俺が、好きなのは、コンラッドだけだってばっ!」
何が悲しくて、娘の前で彼氏に告白しないといけないのか。
有利は恥ずかしくて、顔を隠した。
有利の答えに、コンラッドは光栄です、と言い、その後に、俺もですよ。と嬉しそうに答えた。
グレタは、無邪気に笑って「じゃぁ、父上はコンラッドだね!」と言っている。
2人とも楽しそうだ。そうか、分かっててやってるんだな。
もしかして、俺からかわれたのかなぁ・・。
しかし、そうは思っても、実際、嬉しそうなグレタに、悪い気はしない。
笑顔で、母上、と言ってくるグレタが、可愛くて。
そして嬉しくて。
有利はよかった、と微笑んだ。
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