背伸び





「んー・・っ」

本棚の上の方にある本を取りたくて、思いっきり手を伸ばす。
だけど、背伸びしても全然届かない。

「とーれーなーいぃぃ〜〜」

すると、背中にぬくもりを感じて、

「はい、陛下。これですか?」

差し出されたのは有利が取りたかった本。

「ありがとう、コンラッド」
「どういたしまして」
「それから、陛下って言うなよ、名づけ親」
「すいません、ユーリ」

言い直したコンラッドによし!と笑顔を浮かべて、また本棚を見上げる。

「前まであった踏み台はどこにいったんだよ?」
「なんでも、脚が壊れていたからアニシナが修理を・・」
「あー・・アニシナさんかぁ」
「まだとりたい本があるんですか?」
「ん?あぁ、この本の隣にあったやつ」

そういってコンラッドにとってもらった本を掲げて見せる。

「言ってくれれば、俺がいつでも取りますよ」
「だって、そばにいなかっただろ。わざわざ呼ぶのも悪いし」
「ご遠慮なさらずに。俺にとって、ユーリより優先すべきことはありません」

コンラッドがそういうと、有利は顔を赤くしてそっぽを向いた。

「も、じゃぁ取ってよ!これの隣のやつっ!」
「はい、ユーリ」

そういってコンラッドがちょっと背伸びして手を伸ばす。
それを有利は珍しそうに見ていた。

「はい、ユーリ。これですか?」
「え、あぁ・・うん。ありがとう」
「どうかしました?」
「いや、コンラッドが背伸びするところ、始めてみたなと思って」
「そうですか?」
「そうだよ」
「俺だって、背伸びぐらいしますよ」
「そっかー・・・」

ハードカバーの本を二冊、胸元に両手で抱えて、コンラッドを見つめる。

そんなに背伸びした俺は珍しかっただろうか?

思わず苦笑してしまう。
本当に、なんてかわいいんだろう。

「まぁ、確かに。ユーリよりは俺のほうが背が高いですから。
ユーリの前で背伸びすることは少ないかもしれませんね」

笑いながら言うと、見つめていた自分が恥ずかしくなったのか、少し頬を染めて、
顔をそらした。

「ちぇ。俺だって絶対大きくなって、この本だって、自分で取れるようになるんだからな!」
「ユーリは今のままでいいよ」
「えー、やだよ。もっとおっきくなる予定なんだから、そんなこと言うなよな」

そういう有利をコンラッドは腕の中に抱きこんだ。

「わっ、なに?コンラッド・・?」
「抱いた感じが、凄くちょうどいいのに。まるで俺専用みたいでしょ?」

腕に力を込めてぎゅっと抱きしめる。
コンラッドのセリフに、収まっていた朱色が戻ってきた。

「そ、それでも・・、もう少し、大きくなりたいよ」
「どうしてです?」
「だってさ・・。いっつもかがんでもらうの、なんか悔しいんだよな」
「え?」

コンラッドの腕の中、有利が背伸びする。

「ほら。俺が背伸びしただけじゃ、コンラッドにキスできない」

な?と有利が首を傾げる。

−−−−−ヤラレタ。

コンラッドは軽い眩暈と敗北を感じて、そのまま屈んで、有利にキスをした。


あ、甘・・・?