その日は国を上げてのお祭りだった。
なんてったって今日は、国民のアイドル、第27代魔王陛下こと渋谷有利の生誕記
念日なのだから。
「うわー・・・。すっげー」
当人である有利はまるで他人事のようにその様子を見ていた。
城が飾られていく。パーティーがあるからだ。
沢山の貢ぎ物・・・もといプレゼント。
しかも今日は国民の休日にまでなっている。
有利にしてみれば、いつのまにこんなことに!?と言う感じだ。
「大丈夫ですか?陛下」
「陛下言うな。・・・ってかいくらなんでも大袈裟なんじゃ」
誕生日パーティーなんてささやかなホームパーティーでいいのだ。
祝ってもらえるのは嬉しいが、いくらなんでも・・・これは・・・。
「皆、ユーリが好きなんですよ」
「それは嬉しいんだけどね・・・」
「まーまー、渋谷。確かに慣れないかもしれないけど、渋谷がこっちにきて初めて
の誕生祭だろ?みんな嬉しいんだよ」
「村田・・・」
「受け取ってあげなよ。渋谷がみんなに愛されてる証拠なんだから」
「うーん・・・」
なんだかくすぐったい。有利は複雑な表情を浮かべて頷いた。
丸め込まれた気がしないでもないが。
「あ、なぁコンラッド。町行きたい!お祭りなんだろ?」
唐突というか、思ったと通りというか。村田とコンラッドは笑みを浮かべた。
「お祭りというか・・・まぁ近い感じでしょうね。」
「だろ?行きたい!」
お願いっと顔の前で手を合わせ、上目に見上げる。
そんな有利にコンラッドはくすりと笑った。
その心は、可愛いなぁ。である。
「ダメだとは言ってません。城でのパーティーは夕方からだし。いいですよ」
「やったぁ!あ、じゃぁ着替えなきゃっ」
「いや、そのままでいいんじゃない?」
「へ?」
止めたのは村田だ。なんで?と首を傾げるのは有利。
なるほど、と頷くのはコンラッド。
「渋谷の誕生日をみんなで祝ってるんだから、渋谷が行けばいいんだよ。変装な
んかしないでさ」
「え、でも・・・」
いいの?とコンラッドを見上げる。
「ええ、その方がみんな喜ぶでしょうし。警備の者は町に行っているでしょうし」
それを聞いた有利はとても嬉しそうに笑った。
「村田は?いかねーの?」
馬の上から有利が言う。ちなみにコンラッドと二人乗りだ。
「うん。僕は城でのんびりしてるよ。渋谷は楽しんでおいで」
「そっか・・・。んじゃまた夕方にな!」
「うん、またパーティーでねー」
「じゃあ行きましょうか、ユーリ」
「うん!」
村田に見送られて、二人は城下町に向かった。
「村田、よかったのかな。こなくて・・・」
「気を効かせてくれたんですよ、きっと」
「気を利かす?」
「えぇ。デートさせてくれたってことです」
「なっ」
「初デートですね、ユーリ」
にっこりと笑うコンラッドにユーリは赤くなりながらも首を縦に振ったのだった。
「うわー!すごいな、コンラッドっ」
町は大賑わいだった。
飾り付けられ、道に店が建ち並び、人々は楽しそうに「魔王グッズ」買っている。
街の入り口で馬を降り、コンラッドに手を引かれて町に入ると、ざっと人が引いた。
「!陛下だっ」
誰かがそう言った。
それはあっという間に広がって、有利とコンラッドの前には道が出来た。
「・・・コンラッド、ホントに俺・・来てよかったのかな?」
不安そうに見上げてそう言う有利に、コンラッドはにこりと微笑んだ。
「いいんですよ、陛下のためのお祭りです。皆、驚いているだけですよ」
「ホント?俺のせいで、皆が楽しめなかったりしない?」
「えぇ、決してそのようなことはありません。むしろ、大喜びですよ。
魔王陛下を間近で見れるんですから」
「そ、そっか。って。陛下って言ってる!」
「すいません、ユーリ。さ、行きましょうか?」
「うん!」
コンラッドの手を取って進もうとする有利に、ちょっと、と言い置いて、
コンラッドが声を大きくしていった。
「皆、いつも通り、普通に楽しんでくれ。道を開ける必要は無い。かしこまる必要も無い。
それが陛下のお心だ」
「コンラッド・・・」
「さ、楽しみましょうか?ユーリ」
「おう!」
有利の満面の笑顔に、その場に居た人々は生きてて良かった、と涙を流したそうだ。
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