電車
「楽しみだな!」
「そうですね」
そういって服の裾を掴んでくる有利に、コンラッドはほほえんで見下ろした。
日曜日。今日は二人でお出かけだ。
車で行くかときいたけど、有利が電車で!と言うので、今は電車の中。
家が隣同士なのにもかかわらず、駅前で待ち合わせてみたりして。
「デートっぽいだろ?」 と言って照れて笑った彼がイトオシイ。
電車の、ドアの横のスペースに陣取る。
そんなに混んでいない車内にもかかわらず、コンラッドは有利の腰に手を回し、庇うように立っていた。
「ちょ、コンラッド…」
有利が小さな声で呼び掛け、体をはなそうとする。
「なんですか?」
「くっつきすぎ…」
恥ずかしいのだろっ・・・。顔を少し赤らめてそういう。
「いーじゃないですか。せっかくのデートなんだから」
「でも、人が…」
「大丈夫。ユーリは可愛いから」
「っ、わけわかんないしっ」
離れろ、と言うのに、有利の手はコンラッドの服を握って離さない。
「次からは、車でいい」
「え、どうしてです?」
「…あんた、かっこいいんだもん」
有利が少し膨れて言う。
しかしその頬はほんのりとピンクに染まっていて、可愛らしいだけだ。
さらに、ぎゅっと腕にくっついてくる。
それに、あぁ、とコンラッドは納得がいったように微笑んだ。
可愛い有利の嫉妬に、嬉しくないわけがない。
コンラッドだって、女性にも男性にも、自分達が見られているのは気付いていた。
だから牽制の意味も込めて有利にくっついていたというのに。
「では、次は車で出かけましょう」
体を折って、有利の耳元に唇を近付けて、なんでもないことを無駄にイヤらしく囁く。
「っ…!ばかっ」
有利が真っ赤な顔で悪態をつく。
コンラッドの胸に顔を埋めて。
電車の中の、その一角だけがピンク色に染まっている。
見ているほうが恥ずかしい。
もう、二人を見ている人たちはいなかった。
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