おにいちゃんと僕 3〜Love・Valentine's Day〜







「ん。よし。完璧っ」

有利が満足気に笑いながら、手に付いたチョコを舐め取った。
キッチンを占領していた有利の、その声を聞いて、美子が顔を覗かせた。

「ゆーちゃん、出来たの?」
「あ、おふくろ。もー完璧!色々教えてくれてサンキュ」
「いーのよぉ。ママね、女の子が出来たら一緒にキッチンに立ってお料理するのが夢だったの!!
嬉しいわぁ〜!ゆーちゃんが・・」

延々続く美子の話を流して、有利はかわいらしいチェックの箱に、
たった今出来上がったチョコレートとクッキーを丁寧に詰め合わせた。

冷蔵庫に入れて、後は明日渡すだけ。
もちろん、父親の勝馬や兄の勝利が勝手に食べないように
「食べるの禁止!食べたら絶交」と紙に書いて袋に張る。
念のため、美子にも二人に絶対食べさせるなと頼んだ。

(喜んでくれるかなぁ、コンラッド)

誰が見ても可愛いと言うだろう笑顔を浮かべて、有利は自分の部屋に戻っていった。





翌日。 恋する乙女の一大イベント。バレンタインデー。 有利はそんな乙女顔負けの浮かれ具合で朝早くに目を覚ました。 「うーん・・・。早く起きすぎた」 だってまだ6時だもん。 昨日、早く寝すぎたせいかな・・・。 枕に顔をうずめるがなかなか眠れない。 枕元のケータイをあけると、爽やかな笑顔のコンラッドが目に入る。 「コンラッド・・」 早く会いたい。会いたい。 待ち受け画面のコンラッドを見つめながら、有利は時間をつぶした。
「いってきまーす!」 元気よく家を出た有利が向かった先はもちろん、隣のコンラッドの家だ。 勝利が五月蝿かったが気にしない。 有利は昨日作ったチョコとクッキーを入れたカバンを大事に抱え、 コンラッドの家のチャイムを鳴らした。 ピンポンと音がして、数秒。 『はい』 「コンラッド?俺!」 『ユーリ?ちょっと待ってくださいね』 すぐにコンラッドが顔を出した。 「おはよう、コンラッド!」 「おはようございます、ユーリ。今日はどうしたの?」 家の中に有利を招きいれ、コンラッドが聞いた。 「うん、えっと・・。コンラッド、今日用事あったの・・かな?」 慣れたコンラッドの家の中。 リビングのソファーに座った有利が不安気に尋ねる。 「え、どうしてですか?」 「だって、なんだかどっかに出かけるところだったみたいだから・・・」 有利がコンラッドの服に目をやる。 明らかに、休日家でのんびりします、という格好じゃない。 「え?あぁ、確かに出かけるところでした。ユーリをデートに誘おうかと思って、ね。」 先を越されちゃいましたけど。 そういうコンラッドに、一瞬きょとんとした有利の顔が、次にはカーっと赤くなる。 ってことは、ってことは。 今のコンラッドのカッコいい格好は、自分のため・・・? ちらりと目線を向けるとコンラッドと目が合った。 「どうしました?ユーリ?・・顔が真っ赤だよ」 わ、分かってるくせに・・・! くすくすと笑うコンラッドに恨めしげな視線を投げかけるが、そのの優しい顔に視線は力をなくし、 やっぱり、見蕩れてしまう。 やっぱり・・・ 「かっこいーな、コンラッド・・」 「ありがとうございます。俺がカッコいいのはユーリのためだから、  そういってもらえると嬉しいですよ」 「・・・・俺のため、なの?」 「好きな人には、カッコいいと思われたいからね」 「あ、そ・・そっか」 有利の隣にコンラッドが座る。 心臓がドキドキとうるさい。 恥ずかしさと、緊張からか・・・。 「あ、あ!あのね、コンラッドに渡したいものがっ」 「俺に?」 「うん、そう」 そして有利は昨日頑張って作ったチョコとクッキーの入った箱をカバンの中から取り出して、 コンラッドに差し出した。 「これ・・」 「これを、俺に?」 コンラッドはこっくりと頷く有利から、そのかわいらしい箱を受け取った。 「食べてもいいですか」 「も、もちろん」 リボンを外して中からチョコをひとつ取り出した。 口に入れるとビターなチョコの味。少しの苦味と甘さ。 続いてクッキー。ほんのりと控えめなチョコの甘さ。 けれど、どちらもとてつもなく、あまい。 「ど、うかな!?」 自分の様子を必死に伺う有利が可愛くて、コンラッドはくすりと笑った。 「おいしいよ、とっても」 「ほんと!?」 「えぇ、本当に」 「よかったー」 有利は嬉しそうにはにかんで、ほっと胸を撫で下ろした。 「でもね、ユーリ。こうしたら、もっと甘くなる」 「え?」 唇に触れた冷たくて硬い感触。チョコレート。 コンラッドを見上げるとにっこり笑ってるから、ユーリはそっと口をあけた。 チョコが入ってきて、舌に触れる。 有利の口の中で溶けたチョコがコンラッドの指に付いた。 コンラッドはそれを舐めとると、今度は有利の唇を舌でなぞる。 「・・・・ぁ・・、」 抵抗もなく開いた唇の隙間から舌を入れると、まだチョコの残る口内を味わう。 舌と、唾液と、チョコが、二人の間で絡まった。 「ん・・・んっ、ん・・く」 チョコが全て溶けてなくなると、唇が離された。 「・・・はっ・・」 「ね?甘いでしょう?」 「も、ばか・・っ」 コンラッドの胸に顔をうずめ、有利が悪態をつく。 その手はしっかりとコンラッドのシャツを握り締めていた。 そんな有利の頭を優しく撫でて、髪を梳く。 そして赤く染まった耳元でいたずらっぽく囁いた。 「ねぇ、ユーリ。もっと食べたいな」 少し潤んだ目がコンラッドを見つめる。 それは了承の合図。 有利は自らチョコを口に含んで、コンラッドに口付けた。 「・・・・ん、・・すき、こんら、っど・・」 「俺も好きです、ユーリ」 キスの合間に交わされる睦言はチョコよりも甘い。 二人のキスはチョコがなくなるまで続けられ、その後、有利が朝まで眠れなかったのは、 言うまでもない。