7月29日
        



7月29日。
今日は渋谷有利の誕生日だった。

朝起きてまず家族におめでとう。と言われた。
毎年毎年、どうしてだか有利の誕生日は盛大に祝われる。
まぁ、渋谷家の大事な大事な可愛い次男の誕生日なんだから、当然と言えば当然だ。
むしろこの家族は、有利の誕生日を祝わない人間がこの世にいるわけない!と
さえ思っているだろう。

有利だって、家族が祝ってくれるのは嬉しい。
嬉しいのだが・・・。

「はぁ・・・」

有利は深くため息を付いた。
学校がないから、祝ってくれるのは家族だけだ。
今更友達を呼んで誕生日パーティーなんて年でもない。
だから、ため息の理由は友達にプレゼントを貰えないからとかそんなことじゃない。


ただ、今年は、今日は。
ただ一人、家族より友達より誰よりも、祝って欲しい人がいたのだ。
祝ってくれなくてもいい。今日と言う日を一緒に過ごしたかった人がいるのだ。

「・・・コンラッド」

そう。地球にはいない、異世界の恋人。

「コンラッド」

ユーリはベッドの上で、扇風機に吹かれながら、目を閉じた。
会いたいなぁ・・。コンラッドに、会いたいなぁ。
あの声で、おめでとうって言って、名前を呼んで貰いたいなぁ・・・。

そんなことを考えながら、うつらうつらとする。
あぁ・・・寝たら、会えるかな。
そんなことを考える自分を、有利はなんだか女々しくて嫌だな、と苦笑する。
だけど、睡魔には勝てなくて。

そのまま、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。







「ゆーちゃん、ゆーちゃん!降りてきてー!」

呼ばれてる声がする。
意識が浮上するが、どこからの声か誰の声かわからない。
ドアが開く。
あ、誰か入ってきた。

「おい、起きろ!ゆーちゃん、・・・有利!!」


ユーリ・・。

・・・コンラッド?

「・・・こん・・っど・・」
「は?なんだそれ?おい、寝惚けてるなよ!母さんが呼んでるだろ、起きろ」

身体を揺すられて目をあける。
目に入ってきたのは愛しい彼のものじゃなくて。

「んだよ・・・勝利か・・・」
「勝利か、じゃない。母さんが呼んでる。飯だぞ。ゆーちゃんの誕生日パーティーだぞ!」
「んー・・わかったっ・・・」

むくりと起き上がる。
外は何時の間にか薄暗かった。
あー・・、せっかく、なんかいい夢見てたのに。
コンラッドが、名前を呼んでくれていた事しか覚えてない。

「顔洗ったら行くから、待ってて」
「早くしろよ」
「おー」

有利は洗面所で顔を洗ってリビングに行った。

「遅いわよ、ゆーちゃん!」
「ごめんって。寝てたんだよ。って・・なんで村田がここにいる!?」
「やぁ、渋谷。誕生日おめでとう。」
「あ、うん。サンキュ。って、だから、どうしてここにいるんだよ!」
「呼ばれたからに決まってるじゃないか。親友の健君も、ぜひどうぞって」

にっこり笑う親友の大賢者。
今さらか、と有利は村田の隣に座った。

「後でちゃんとプレゼント上げるからさ」

こそっと耳打ちしされたそのセリフに有利が首をかしげた。
あとで・・・ってなんで??

意味深な笑みに、それでも、流石に誕生日にまでからかってはこないだろう、と笑顔を返す。

「ささ、食べましょう!ゆーちゃん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう!ゆーちゃん」
「ゆーちゃん、おめでとう」
「おめでとう、渋谷」


なんだか、いつもくすぐったい気持ちになる、おめでとうと言う言葉。
有利は嬉しそうにはにかんで


「ありがとう」


そういった。
ご飯の前に父親と兄からプレゼントを貰い、ほくほく顔でご飯を食べる。

その後に待っていたのはホールケーキ。
ロウソクは歳の数だけ立っている。
電気を消した部屋にはロウソクが揺れ、合唱されるお決まりのバースデイソング。
恥ずかしくなりながら火を消して。
ケーキは、今はお腹がいっぱいだからと後で食べることにした。


有利は貰ったプレゼントを持って自室に引っ込んだ。
村田も一緒だ。

「で?プレゼントって?」

泊まって行くらしい村田の分の布団を床に引きながら有利が訊いた。
確か、後で上げる、と言っていたはず。

「あぁ、僕からのプレゼントはね、水があるところでしか渡せないんだ」
「水?」
「そう、水。会いたいだろう?」

にっこりと笑いながらそう言われて有利はハッとして村田を見た。

「なんで・・・」
「わからないわけないじゃない。僕を誰だと思ってるのさ」

偉大な大賢者様です。何より誰より、魔王よりも最強な。

口にしなくても顔に出ていたんだろう。村田が笑った。

「そうじゃなくても渋谷は分かりやすいんだからさ。それが、僕からのプレゼントだよ」
「村田ありがとう!お前いい奴っ!」
「さ、行くかい?彼に会いに」
「あぁ!早く、な。村田、早く」
「はいはい。別に逃げないよ」
「何が逃げなくても時間がなくなるんだよ」

年に一度のこの日だから。
今日だけは、自分のワガママのためにスタツアしてもいいですか。
想えば想うほど、考えないようにと思ってもその分だけ、尚更、会いたい気持ちが募る。

村田の腕を引いて着いた風呂場。

「さあ、行くよ?」

村田が何をしたのか分からないけど、見れば湯を張った湯船の中には渦が巻いている。
せーの!で二人とも、その渦の中に飛び込んだ。
ぐるぐると引きずり込まれていく。

そこからは、慣れ親しんだスターツアーズ。










着いたのは風呂だった。けれど、どこの風呂か分からない。
つまり、有利の使う魔王専用風呂じゃないことだけは確かだ。

「陛下!!」

その風呂場に突如響いた声。
有利が聞きたかった人の声。

「コンラッド!あ、陛下って言うなよ、名付け親!」
「あ、あぁ・・すいません。ユーリ。ビックリしました。聞いていなかったものですから」

言いながら、手をさし伸ばしてくれる。
有利はそれに捕まって風呂から出た。
村田はとっくに風呂の外だ。

「うん、村田がね、連れてきてくれたんだ」
「猊下が?」
「そう。渋谷の誕生日プレゼントに、ね。それじゃ、僕はいなくなるから。
 二人でどうぞ、ごゆっくり」

言いながら風呂場を後にする村田の背中を見送った。

「えっと、いいの?村田を一人にして・・・」
「えぇ。ここは兵舎の風呂でして、大浴場になってるんですよ。
 更衣室にはヨザックがいますから、大丈夫です」
「そっか・・・」

抱きしめてくるコンラッドに、有利は濡れるから、と離れようとする。
しかし、コンラッドが離すはずも無く、抱きしめる腕には力が込められた。

「嬉しいです。ユーリが着てくれて。誕生日、祝えないと思って少しヘコんでたんですよ」
「え・・?」
「お誕生日、おめでとうございます。ユーリ」

聞きたかった言葉だ。
今日一番、聞きたかった言葉だ。

「・・・ありがとう・・コンラッド」

コンラッドの腕の中で、コンラッドを見上げて、嬉しそうに、にっこりと。
有利は笑顔を浮かべた。顔を、少し赤く染めて。

その可愛すぎる笑顔に、コンラッドは一瞬クラっとして。
けれど、それは笑顔のポーカーフェイスで隠されている。

「さ、続きは後で、俺の部屋で。いくら夏とはいえ、濡れたままで風邪を引いたらいけませんから」
「あ、うん!」

手を繋いで、脱衣所へと向かった。


今日の残り数時間。夜の時間。恋人同士の時間。

好きな人に祝ってもらえる誕生日。
二人きりで過ごせる誕生日。
きっと、忘れられない誕生日になるだろう。



Happy birthday!! Dear Yuri



うっわー。すっげー長くなった!! 兄ちゃんとかママとか。キャラあってるかなぁ。 初めて書いたんだよなぁ。 つじつまとか・・話しの流れとか、合ってるか微妙です。 書いたこと、よく覚えてない(爆) 何が書きたかったのかもわかんないし(汗) コンラッドも最後だけだし!(滝汗) あ、タイトルが日付なのはいいのが思い浮かばなかったからです(笑) ・・・・。ダメダメですね。 こんなんですが、有利、誕生日おめでとう!!