バレンタイン・キッス


「ねー、蛮ちゃん。バレンタインって・・、なに??」

最近、そんな銀次の一言から、一日が始まり、一日が終っているような気がする。
たしかに、この季節。
街はバレンタイン一色。コンビニさえも、だ。
銀次が興味を持ったとしても、不思議ではない。
しかし蛮は、ンなもん、おめーには関係ねーよ。と言って、教えてはくれなかった。
しつこく聞いてくる銀次をあしらいながら、車でホンキートンクに向かう。

「よぉ!」
「こんちにわー♪」

ホンキートンクのドアが開いて、いつもの2人が顔を見せる。

「いつもの」
「俺も〜」

そういって、指定席のようになっているカウンターに腰を下ろす。

「お前らな・・・。金はあるのか?また、ツケを増やす気か??」

せっかくツケを払ったのに。また溜めていたのでは意味がない。
しかし、そう言いながらも、今日もツケでいつものコーヒーを出す。

「ぅ・・・。い、いちいちウルセーよ・・・」

そういって出されたコーヒーを飲む。
いつものように一通り騒ぎ。
落ち着いたところで、数日前から気になっていた事を口にした。

「あ!そだ。ね、夏実ちゃん、バレンタインって、なに・・?」
「え、銀ちゃんバレンタイン知らないんですか??」
「うん。ね、なぁに〜??蛮ちゃんに聞いても、かんけーないって。教えてくれないんだ」
「バレンタインはですねvv好きな人にチョコをあげる日なんですよvv」
「え、そーなのっ!?」
「はいvv」

にっこりと満面の笑みを浮かべて夏実とレナが返事をした。

「なので、はいvv」

そういって差し出されたのは可愛くラッピングされたチョコレート。

「え?」
「は?」
「バレンタインのプレゼントです〜vv」
「わーvv貰っていーの♪??」

すっごく嬉しそうな顔で銀次が言う。
すでにチョコを受け取っている。

「・・・・三倍返しは期待するなよ」

チョコを受け取りながら蛮がつぶやく。

「いーですよvv気持ちですからvv義理ですしvv」
「義理??」
「本命じゃないってこと。あー、だからだな。普段世話になってるやつとか。友達とかにやるチョコの事だよ」
「そかぁvv・・・チョコをくれたってことは、今日がバレンタイン当日なんだ?」
「そーですよvv」

そっかぁ・・と、心なしか銀次が沈んだように見えたのは気のせいだろうか。
車に戻って。もう夜の11時を過ぎていた。

「・・・好きな人にチョコをあげる日、かぁ・・・」

小さな銀次の独り言を、蛮は聞き逃さなかった。

「・・・?どしたよ?欲しいやつでもいたか??」

今日はヘブンに卑弥呼までチョコを持って来てくれた。

「違うよっ!!」
「じゃ、なに沈んでんだよ」
「・・・・だって・・・。」
「?」
「だって・・・。バレンタインって、好きな人にチョコを上げる日だって・・・。
なのに俺、蛮ちゃんにあげれなかった・・・・。もーっ!なんで教えてくれなかったのさ?」

思わず笑ってしまう。

「なにさぁっ??」
「いや、んなこと気にしてたのか、と思ってよ・・・」
「そんなことじゃないよ!俺にとっては大事な事なのっ・・・。卑弥呼ちゃんの、絶対本命だもん・・・」
「・・・ばーか・・・」

そういって、肩を抱き寄せる。

「ちょ、蛮ちゃん??」

バカってなにさ・・?と見上げると鼻がくっつきそうなほど近くに蛮の顔があって、ドキッとする。

「バカだよ。んなこと、いちいち気にしやがって。」
「だって・・!」

そういって口をあけた瞬間。何か放りこまれた。

「ん?・・・!」

それは、紛れもなくチョコレート。

「蛮ちゃんっ・・」
「・・・10円チョコだけどな」
「お、俺!用意してないっ」

すごく、泣きそうなほど嬉しいけど、自分は蛮になにも用意していない・・・。

「いーんだよ・・・。ちゃんと貰うから。」
「へ・・・?」

どうやって、と思ったら・・。
蛮の唇が銀次の唇に重なった。

「!・・っ」

口腔内を味わうように舌を絡めてまさぐる。

「んっ、・・・ふ・・ぁ・・・」

一通り味わい終わって、唇を離す。
舌を一舐めして離れる。

「ん・・っはぁ・・・ば、ちゃぁ・・・?」

目尻に浮かんだ涙をキスで拭われる。

「すっげー、甘かった・・・」

蛮のセリフに顔が真っ赤になる。

「ば、ばんちゃ・・・っ」

金魚のように口をパクパクさせている。

「ちゃんと、貰ったよ。お前からのバレンタイン」
「お、俺も、貰った!えと、お返し、ちゃんとするからね??」
「あ?いーぜ、別に」
「ダメっ!!そのときはちゃんと自分で用意するのっ!!」

一生懸命蛮に言う銀次を見て笑いながら頭を撫でてやる。

「期待して、待っててやるよ」
「うん!!vvv」

へへvvと、笑って、蛮の胸に頭を預け、そのまま、寝る体勢にはいる。
くっついて寝たいとき、車は不便だ。
でも、その方が蛮を身近に感じられていい、と銀次は思っている。

「大好き、蛮ちゃん・・・vv」
「あぁ・・・・」

甘い甘い、バレンタイン・キッス・・・