ひざまくら
「ばんちゃーん」
「・・・・」
「寝てるの?」
「・・・・」
「蛮ちゃんってばぁ」
「・・・・」
「もー。しょうがないんだからー」
おなかすいたのに、とぶつぶつ言いながら、それでも、蛮に膝を貸したまま。
どこだかわからないところでも、蛮と一緒なら全然不安じゃないから。
仕事の帰り、車の窓から銀次が見つけた、ただ、広い芝生。
寄ろうと言ったのはもちろん銀次で、しぶしぶながら、蛮が車をとめてくれた。
天気がいい日とはいえなかったけど、それでもとても気持ちよかった。
のんびりと寝転がっている。
蛮もそれなりに気に入ったらしい。
膝を貸せ、というので貸してあげたら気持ちよさそうに目を閉じて、そのまま寝てしまったらしい。
そして冒頭に戻る。
そうとうつかれてたのかな??
こんな風に寝ちゃうなんて。
今日の蛮ちゃんは髪の毛が下りてて、さらさらしてる。
起こさないように慎重に髪を撫でて、思わず顔が緩んでしまう。
なんだか、嬉しくて。
サングラス、外してもいいかな。怒らないかな・・・。
手を伸ばしてサングラスを外すと、ちょっと、顔の印象が変わったような気がする。
きれいな顔。こんなにきれいな寝顔は滅多にお目にかかれないかもしれない。
さらさらと髪を梳く。
こんな、無防備に寝顔を見せてくれるのは、俺だけだよね?
きれいな唇。
無意識に手がそこに行き、唇をなぞる。
・・・・キス、したいなぁ・・・。怒んないよね?蛮ちゃん・・・?
なんか、ドキドキする。・・・・ほっぺでもいいや。
顔を近づけていく。
目を閉じて、軽く、ほっぺに唇を触れさせた。
急にとてつもなく恥ずかしく感じて顔を急いで離そうとするけど、出来ない。
目をあけると、蛮ちゃんと目があった。
・・・目が、合う???
「っ!!」
「なーにしてんだよ、銀次??」
その顔は楽しそうに笑っていて。
「ばんちゃ・・っ、何時から起きてたのっ!!」
至近距離での会話はドキドキする。
「それ、外されたとき・・か?」
そういって、俺のシャツの襟元に引っ掛けてあるサングラスを顎で差す。
「どうしてっ!!」
「気持ちよくてな。・・・それより、銀次・・?」
「・・・なに??」
「キスするなら、する場所が違うんじゃねーの??」
かーっと顔が赤くなる。
顔をそむけて、蛮ちゃんから逃げようとする。
「銀次」
たった、一言。
それだけで、動けなくなっちゃう。
「こっち向けよ。」
手で、ほっぺを撫でられて、蛮ちゃんのほうを向く。
サングラス越しじゃない蛮ちゃんの目が見える。
近づいてくる顔に素直に目を閉じる。
そういえば、キスのとき目を閉じろって教えてくれたの蛮ちゃんだっけ。
唇が重なる。
「ん・・、ん・・・」
何度も唇を啄ばまれ、くすぐったさを感じる。
こんな、優しいキスは好き。
とっても気持ちいい。
何時の間にか、蛮ちゃんに押し倒されてた。
「ン、ちょ・・、蛮ちゃん??」
「ぁん?」
なにするの、と聞く前に、蛮ちゃんの唇が俺の首筋に落ちてきた。
「っ・・・、ダメだよっ、しないよ?」
チリッとした痛みと共に、蛮ちゃんの唇がそこから離れていく。
きっと、赤い痕が残ってる。
「もぅ!痕、見えるトコにつけないでって・・」
「・・、るせーよ」
そう言って、手を、服の裾からしのばせようとしたとき。
ぽつ、と、顔が濡れた。
「あれ・・?」
そこからは早かった。ぽつぽつと降り出した雨は急激に大降りになり。
俺たちは急いで車に戻ったけど、びしょぬれだった。
「ちっ」
「あはは!まさか、雨に降られるなんてねー」
車のエンジンをかけ、クーラーを暖房に切り替える。
今日は風が涼しくて寒いくらいだから、濡れたら暖房がちょうどいい。
「今日はさみーし、風邪引いちまいそうだな。」
後ろの席に常備してあるタオルで頭を拭く。
確かに、風邪引きそう・・・。
「どっか、近くの安いホテルに泊まるか。」
「ホント?お泊り??わーい、ベッドー」
「よかったな、遠慮なくヤれる」
「ちょ、何言ってんの!」
万歳して喜んでた俺に、蛮ちゃんが意地悪くそう言ってくる。
「俺はさっきお預けくらってんだ。覚悟してろよ」
抱き寄せられて、耳元で言われた言葉に赤くなった俺を満足げに見て。
蛮ちゃんは泊まるホテルを探して車を走らせた。
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