浴衣 「すっごい、ねー!蛮ちゃんっ」 「だなー・・」 「わー、いっぱい食べ物あるよっ!ねね、どれ食べよっかー、蛮ちゃんっ」 一人駆け出そうとする銀次を、蛮は服を引っ張って止めた。 ぐっ、と息が詰まった音がする。 「蛮ちゃん!首絞まったじゃんかっ」 「お前はすぐ迷子になんだから、俺から離れんなっつの」 文句を言おうにも事実なので何もいえない。 「夏実ちゃんに金券もらえてよかったねー」 「だな」 夏実の高校の文化祭に二人は招待されていた。 必要ないから、と金券をもらえたので、暇だし、と遊びにきていたのだった。 二人は一緒に賑わっている学校内を回りだした。 行くとこ見るトコアレが欲しいこれが欲しいという銀次にガキか、と言いながら、 それでも与えてやる蛮はやはり銀次に甘い。 金券の残りも少なくなってきた。 「ホットドック食べてい・・?蛮ちゃん・・」 「これで最後だぞ。俺の分も買って来い」 金券を渡してやる。 「うん!」 そう言って買いに行く銀次の後姿を見おくる。 文化祭なんて・・思ってたけど、銀次があんなに喜んでるし・・。 来てよかったかもな。 それでも・・・と、蛮は近くにあったベンチに腰掛け、ため息を付いた。 銀次は気づいていないが、先ほどからちらちらと好奇の視線が鬱陶しくってたまらない。 不機嫌な顔でベンチに座っていると、両手にホットドッグを持った銀次が戻ってきた。 「ん?蛮ちゃん、どうかした?」 不思議そうに首をかしげながらホットドッグを差し出してくる。 「なんでもねーよ」 それを受け取りホットドックにかぶりつく。 銀次も蛮の隣に座りホットドックを食べる。 「・・・・」 「・・・・」 「ねぇ、蛮ちゃんー」 「あ?」 「あのね・・・、これ・・・」 そういって、銀次が控えめに出したのは派手なチラシ。 「ぁん?なんだ、これ?」 「浴衣コンテストだって。優勝したら賞金一万円もらえるんだって。」 「ほー。・・・で?」 「・・・参加しちゃダメ?」 「今日ここであるんだろ?参加するの、むりなんじゃねーのか?」 銀次にチラシを返しながら横目で見やる。 「大丈夫だよ!一般参加者募集って書いてるもん!ね?ばんちゃーんっ、お願いっ」 そんな風に銀次に頼まれて、蛮が却下できるわけもなく。 しかも、一万円はおいしい。 「ったく。しょーがねーなぁ・・」 「やったっ」 銀次はそう言って勢いよく立ち上がり。 「ほら、行こう!蛮ちゃんっ」 蛮の手を引っ張って受付に急いだ。 ・・・迷子にならなかったのは蛮がいたおかげだろう。 −−−−−−− 申し込みが受理され、二人は出場者控え室にいた。 「俺、浴衣の着方わかんないよ、蛮ちゃん。」 「待ってろ、着せてやっから」 蛮はそう言ってまず自分が着替え始める。 じーっと見ている銀次の視線が刺さる。 「なんだよ?」 「んー・・。蛮ちゃんは何でも出来てかっこいいなーって・・。」 でも、髪が下りてて可愛い〜、なんて。 真顔でそんなことを、なんでもないように言ってくる銀次に、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。 「でも、以外。蛮ちゃん浴衣なんてきたことあるんだー?」 「いや?」 帯を巻きながら、短くそう答える。 「え?じゃ、どして・・・?」 「本をな。暇つぶしに読んだことがある。」 「それだけ?」 「おう」 着付けの本を読んでいる蛮、と言うのもなかなか想像できないが。 しかし、そんなこと銀次には関係ないらしい。 やっぱりすごーい!と、感嘆の声を漏らす銀次に、着替え終わった蛮は何が凄いんだか、と呆れた顔を浮かべる。 そんな蛮に、蛮がどれほどに凄いかを、その本人に切々と説いてくる銀次に、蛮はまるで他人事のように聞き流しながら、銀次を着せ付けていく。 ・・・ったく。真面目に聞いてられるか!恥ずかしすぎるっての。 蛮の本心だった。 蛮の浴衣は、深い藍を基調にした無地の大人しいもの。 銀次の浴衣はチェックの入った蛮のよりも比較的明るい色のものだ。 学校で用意されていたものなので選択の余地はあまりなかった。 蛮に浴衣を着せてもらった銀次はそれはそれは嬉しそうにはしゃいでいた。 関係者や出演者が続々と集まってくる。 開始時間が迫っているのだろう。 「蛮ちゃん、楽しみだねー?」 にっこにこの笑顔で言う銀次は、自分を見る視線に気づいてないのだろう。 正確には蛮と銀次、だが。 そんなにめずらしいのかよ、いい男が。 自分のことをいい男だと言えてしまうのが、さすがは美堂蛮、というところか。 女の視線どころが、男の視線までが刺さる。 そして、銀次に目をやる。 邪な視線にまったく気付かず無邪気に笑っている。 はー・・、とため息を付く蛮に、銀次が心配そうに首をかしげる。 「蛮ちゃん、大丈夫?俺がわがまま言っちゃったから、怒ってる・・?」 「あ?・・あぁ、ちげーよ。」 こんなの、ワガママのうちにはいるものか。 銀次に声をかけようと画策している男ども。 俺目当てもいるか?女もうぜぇ。 もともと気の短い蛮だ。いい加減、見世物にされることに我慢できなくなってきている。 いいタイミングで係りの人間が呼びに来て、蛮と銀次は立ち上がった。 すると二人によってくる数人の影。 蛮は、ぐっと銀次の肩を抱き寄せた。 「っ、ば、蛮ちゃんっ!?」 驚いた銀次の声が耳に入る。 回りも驚いているが、そんなことを気にする蛮ではない。 凄みを効かせて周りを一瞥する。 無言の圧力。 寄るな、 と。 「見てんじゃねーよ」 その低い声に、誰もが動けなかった。 本人は、何食わぬ顔で銀次と共に部屋を後にした。 「んもー、蛮ちゃん?どうしたのさー、機嫌悪いしー!ねぇってば」 蛮に腕を引かれながら、銀次が声をかける。 舞台袖を通り過ぎ、その奥にある非常口から外に出る。 「ちょっと!出ないの?ねぇっ」 「うるせぇ、ちったぁ、黙ってろ」 ドアを閉めたところに銀次を押さえつけ、その唇を強引とも思える勢いで奪う。 「ン、ぅ・・」 いきなりの深い口付けに抵抗さえ忘れ、気付いた時にはもう、蛮の腕の中に落ちていた。 「はぁ、っ・・、蛮ちゃ・・ンっ・・!」 唇が離れる。 すぐさま銀次は抗議の声を漏らすが首筋に下りてきた唇に、それは続かなかった。 「もう!なにするのさぁっ」 「いーじゃねーかよ、キスくらい。」 「蛮ちゃんっ!」 「わーったって。おら、行くぞ。」 そう言って満足そうに再び非常口から中に入る。 「もぅっ、蛮ちゃんのばかっ」 蛮の行動がわからず不満の声を上げるが、しかし、銀次は蛮の後について行った。 浴衣コンテスト、と称されたそれはなんてことはない。 舞台の上に浴衣を着た男女が並び、一番浴衣が似合うと思った人に投票し、票数が多い人が優勝。と言う、面白くも何ともないものだった。 会場となった体育館内がざわめく。 特別に見目麗しい二人が現れたのだ。 蛮も、目を引く、が・・。 銀次のほうが多く視線を集めていた。 それは、目立つようにわざと蛮につけられた首筋、そして鎖骨にあるキスマーク。 大きくスクリーンに写るとそれはとてもよくわかった。 気付かないのは本人ばかり。 満足げな蛮。そして周りの視線。 銀次は首を傾げつつ、最後まで気付くことはなかった。 そして、開票。 圧倒的に美堂蛮の優勝。いい勝負で銀次が2位。 結果もまた面白くなく、思った通りのもの。 浴衣など関係なかったのではないだろうか。 二人は一万円を貰い。かつ、浴衣もプレゼントされた。 二人は貰うものを貰ってさっさと、学校を後にした。 「はー、楽しかったねぇww」 今日は車ではないので駐車しているところまで少し、距離を歩かなければならない。 「そりゃよかったな。」 蛮はやっと吸える、とばかりに煙草を取り出した。 「浴衣ももらえちゃったしねw」 「あぁ、そうだな。」 でも役に立たないけどな。そんな風にぼやく蛮に銀次はもー。っと口を尖らせる。 「ねー、蛮ちゃん。ちょっとだけ・・・、遠回りしよ?」 「どこか行きたいとこあんのか?」 「違うけどー。もうちょっと浴衣着て歩いてたいだけ。ね、だめ?」 「・・・・ま、いいけどよ。」 「やったぁ」 夏も終わりだ。 むしろ、すでに秋の気配が漂っている。 こんな思い出も、いいかもしれない。 蛮の前を嬉しそうに歩いている銀次を見て、蛮は気付かれないように顔をほころばせた。 いつ、命の危険にさらされるか解らない自分たちが、こうして笑っていられるのは、お互いがいるからだ、と蛮も銀次も解っている。 既に暗くなった空を見上げると、星の少ない空に、月だけが大きく輝いている。 「蛮ちゃん!今度は花火しようねっ」 「あー?夏はもう終わりだぞ。」 「いいじゃん、秋でも冬でもっ!!絶対一緒に花火しようねっ」 「・・・・花火買う金が、出来たらな」 そういうと、銀次が嬉しそうに笑う。 「あ!一万円あるじゃん」 「ばーか。花火なんか腹の足しになんねぇだろうが」 「えー?」 「お前の秋は食欲の秋だろ?」 「そんなことないよっ」 言いながら、銀次が蛮によってくる。 「花火はかわねーぞ?」 「ちがうよーだ。」 銀次が手を絡めてきた。 蛮は珍しく思いながら、手を振り解かずに、二人で並んで歩く。 どちらともなく唇を重ね。 「どうかしたか?」 「どうもしないよ」 蛮の浴衣を見て、変な気分になったなんて、そんなこと、言えるわけがない。 明るいところで見るのと、薄暗い中で見るのとで、こんなに雰囲気が変わる蛮が悪い。 公道だけど。外だけど。 人目につかない場所に移動して。 抱きしめてあって、キスをして。 互いの身体を温めあった。
ムダに長くなって、何を書きたかったのかよくわからなくなりましたが(汗) 浴衣H書きたかったな。 まぁ、次の機会ってことで。 ただ、二人に浴衣を着せて、デートさせたかったんです。 それだけです。 戻