「さっむーいっ」

つい最近まで暖かかったのに、最近急に冷え出した。
まだ七時前だというのにもう真っ暗でお月様まで出ている。
蛮とのジャンケンに負けた銀次はコンビにまで買い物に行かされたのだ。
コンビニの中は暖かかったので余計に外が寒く感じる。
かじかむ手に息をかけ、銀次はコンビニの袋を持って蛮の待つ車まで小走りに戻った。






「蛮ちゃんー」

いいながら助手席のドアを開ける。
けれど目の先・・・運転席に蛮の姿は無かった。

・・・?トイレかな?

銀次は車の中で蛮を待ってみることにした。
持っているコンビニ袋の中身は肉まんと暖かなコーヒー。そして自分用の温かなカフェオレ。
ブラックなコーヒーを美味しい、と飲める蛮はちょっと大人だと思う。

「ばんちゃーん・・・冷たくなっちゃうよー」

しかしいくら待っても蛮が帰ってくる気配は無い。
もう5分がたとうとしている。

「うー・・・」

大丈夫、だよね?ちょっとくらい・・・。
それに俺が帰ってくるまで車の中には誰もいなかったんだし。
蛮ちゃんに留守番してろって言われたわけでもないしっ
心の中でそう、言って。
銀次はし助手席に袋を残して車を出た。
蛮を探しに。





「あー、やっぱり寒い」

冬服を着ているとは言っても、寒いモノは寒い。
風邪が顔に当たって冷たくなる耳が感覚を無くしていくみたいだ。
フードを被って、裾を引っ張って手を出来るだけ服の中に隠して。
銀次はスバルを止めているすぐ近くの公園に入っていった。

大きなその公園は遊具もあればサッカーなどの出来る広場もある。
噴水もあり、ベンチもある。
木々も多く、ちょっとした林のようにもなっていたり。

まず入ってすぐの遊具場。
ブランコやシーソーやドーム。
探すがそこに姿は無い。
その隣の視界のいい開けた場所。
すこし低いところにあるそれば遊具場から見渡せる。
しかし人影は無かった。

うーん・・。蛮ちゃんは俺の声が聞こえるって、言ってるけど・・・。
俺には聞こえないもんね

蛮ちゃんばかりずるいと思う。
っていうか、聞こえるなら戻ってきてよ、蛮ちゃん!!

何時も蛮ちゃんが水浴びしてるところもみた。
しかし、何処にも蛮の姿は無かった。

「んもー!何処に行ったのさ、蛮ちゃんっ」

探す作業はなかなかしんどくて体が温かくなってきた。
銀次はそばにあったベンチに座り込んだ。

残るのは林の中なんだけど。
そう思って、目を向ける。
・・・・・・・。
こわいなー・・・。
明るいときならまだしも、こんなに暗い時間に、あの闇につながっている場所に足を踏み入れるのは勇気がいる。

ま、さか・・・蛮ちゃんに限ってトイレで倒れてる、なんてことは無いだろうし・・・。
念のため、と腰を上げてトイレを見に行く。
ラクガキが沢山されている公園のトイレはそれだけで無気味に見えた。
男子トイレの中をそっと覗いてみるが、そこに人はいなかった。

やっぱり、いないよね・・・。

残るは・・・・林の中。

蛮を探しにこの中に入るのは怖い。
けれど、蛮がいないのもイヤだ。
ココを探していなかったら車に戻って大人しく待っていよう。

そう決めて銀次は林に足を踏み入れた。











ん?・・・なにしてんだ?アイツ。

公園の前を通りかかった蛮は、目の端に移った金髪にそちらをみた。
そう、通りかかったのだ。
なんてことはない。蛮は切れた煙草を買いに出ていただけだった。
そして林の中に恐る恐る入っていく銀次を見つけた。
声をかけようと思ったが、さっさと入っていってしまったので蛮はその後を追った。
声をかけることなく。










一方。蛮が追ってきていることを全く知らない銀次は。

うぅ・・・、こわいよぅ。
自分が踏んだ葉っぱが鳴る音にもビクついてしまう始末。

早く出よう、早く、早く。
次第と早足になる。なんでここに入ったのかももう考えていられない。

そして、思う。
・	・・・俺、どこからきたっけ??

立ち止まって周りを見回す。
あれ?あれ??
周り一面、木ばかり。

「あれっ!?俺、帰れなくなっちゃったっ!?」

そして、そう言った直後に聞こえた自分以外の足音。
ビクッとしてそちらを見る。
見た先にあるのは赤い小さな光。
そして聞こえる、自分を呼ぶ声。

「っ!!!!」

銀次は走った。
怖くて怖くて。
とりあえず、走った。
すると、追いかけてくる足音。

いーやーっ!こないでよぉっ

無理な話だ。
追いかけてきているのは蛮なのだから。

逃げるが、追って来る足音は確実に銀次に近づいてくる。
本気で逃げてる銀次に追いついてくるなんて。

普通の人じゃない!

赤屍さんとかだったらわかるけど、この場合、赤屍さんのが怖くないかもだけどっ!!!

ぱし、と腕をつかまれた。

「っ!いやーっ、やだやだっ、助けてーっ蛮ちゃんーっ!!!」
「ばか!落ち着け、俺だ、俺!!」
「やだ、いー・・・や・・・って・・・・」

聞き覚えのある声。
泣きそうになりながらも恐る恐る見ると、そこにいるのは探していた人。

「ばん・・・ちゃん?」
ホントに???
「なにやってんだ。お前は」
「蛮ちゃーんっ」

ぎゅーっと抱きつく。
抱きついてくる銀次を、蛮は抱きしめてなだめてやった。

「今ね、誰かに追いかけられてねっ!凄く怖かったの。怖かったよーっ」
「あ?ばーか、そりゃ俺だ。ったく、人が呼んでるんだから聞けっての」
「へ?」

そういえば、声が聞こえたような、聞こえなかったような・・・。
怖すぎて聞こえるその声もお化けだと思ってしまっていたのだ。

「でも、赤い光が浮いてたし!!」
「はぁ?・・・・・あぁ、これか?」

それは蛮の吸っていた煙草。
黒いズボン、黒いコートに黒いマフラー。
全身黒い蛮は闇に紛れてしまい、煙草の赤い火の光だけが銀次の目にとまったのだった。

あはは・・と笑ってごまかそうとする銀次を拳骨で殴る。

「ったく。おら、戻るぞ。」
「あ、あ!待ってっ!」

先に歩く蛮の服をしっかり握る。

「お前な・・、」
「なに?ダメ?やだよ、俺怖いもん」

絶対に離さないぞ、としっかり蛮の服の裾を握る。

「じゃなくてよ、服じゃなくて。ほれ」

そう言って差し出されたのは蛮の手。

「蛮ちゃん・・・」
「さっさとしねーと置いてくぞ。」
「あ、あ!ダメダメ!!」

そう言って、蛮の手をしっかりと握る。

「えへへへw」
「なんだよ?」
「蛮ちゃん、大好きっ」
「!・・・へーへー」

一瞬崩れたポーカーフェイスをばれないように元に戻して、何事もなかったかのように答える。

「ホントだよー?」
「知ってんよ」

そう言ってくれる蛮が好きだ。
なかなか好きとは言ってくれないけれど。
蛮がいれば、こんな林怖くない。

「ばんちゃーん、お月様きれー」
「寒いからな、空気が澄んでんだろ」
「お星様もきれいだねー」
「・・・今度星でも見に行くか?山にでも」
「ホント!いくいくっ」

二人は手を繋いで、そんな話をしながら車に戻った。











その後。

「肉まんもコーヒーも冷えてんじゃねーかっ」
「俺が悪いんじゃないよ!!それに、まだ冷えてないよ!ちょっと暖かいもん!!」
「ばーか、ホットがぬるくなったコーヒーなんて美味くもなんともねーんだよ!
てめーが大人しく待ってねーから余計な時間くってぬるくなっちまったんだろーが!」
「どうせ冷やして飲むじゃないか!」
「それはお前だけだ!!」
「大体、蛮ちゃんが俺が帰ったときに居なくなってたから俺探しに来たんだからね」
「俺がいないときは大人しく待ってろ!電話しろっ何のためのケータイだ!!」

会話を見れば解るだろう。
銀次が助手席においていた肉まんとコーヒーとカフェオレは二人の口論の間にもドンドン冷えていき。
「ったく。」

言いながらも、ぬるいコーヒーを蛮は一気に飲み干した。

「勝手にどっかいった蛮ちゃんが悪いんだもん。俺は悪くないもん・・・」

カフェオレを飲みながらぼそぼそと文句を言う銀次に、まぁ、怖い思いして探してくれてたんだし、と。
蛮は手を伸ばして銀次の頭を乱暴に撫でてやった。

「・・・蛮ちゃん?」
「まぁ、今回は多めに見てやる。」

素直じゃない蛮の言動に、銀次は嬉しそうに笑う。

「蛮ちゃん、大好きっ」

そう言って抱きつくと抱きしめ返してくれる。
顔を上げるとそっとキスが降りてくる。
結局、肉まんと飲み物では暖まらなかった身体を、抱き合って暖めあう。
寒い冬の、暑い夜。


あぁ、また内容が無いものを書いてしまった(汗) 蛮銀って・・どうしてこう。 いや、蛮銀に限ったことじゃないですね、そうですね・・・。 頑張ります。