甘えること。



「ジェイドっ」
「なんですか、プラチナ様」
「なんだ、これはっ」
「なにって・・膝枕ですが」
「そーいうことを、言っているんじゃない!」

確か、俺は一人で庭で昼寝をしていたはずなのに、起きたら、目の前には緑の髪に、紫の瞳。
寝起きでふわふわしている頭で考えて、慌てて身体を起そうとしたがジェイドに遮られた。

「いやですか?」
「い、いやとか・・・っ」

そう言う聞き方はずるい。
嫌ではないから困ってしまうのに。


最近、ジェイドは俺に凄く甘い。
俺はいちいち焦って戸惑ってしまう。

慣れていないから。
甘えることも、甘やかされることも。

朝は優しい声とキスで起される。
寝惚けているから覚えてはいないが、はっきりと覚醒するときっちりと身支度が整えられていたり。
前はなんでも自分でして下さいと言っていたのに。
仕事も、戦いも、身の回りのことも。
今日だって、昼寝を咎められるどころか、膝枕までされて・・。

「なんでなんだ・・・?」
「なにがです?」

もう膝の上から起き上がることを諦めて、独り言のようにそう呟いた。

「なぜ、俺を甘やかす・・・?」
「さぁ。なぜでしょう?」
「お前は変だ」
「そうですか?」
「そうだ。変だ・・・。お前が優しいと、俺まで変になる。困る」

そう言ってそむけていた顔をジェイドに向ける。

「プラチナ様、そーいう顔は・・・」

今度はジェイドが顔をそむける。

なんなんだ、一体。

「確かに、今すぐわかってくれなくてもいいですけどね。
前にも言いましたが、そのうち解ってくださると嬉しいですよ。」
「だから、なにに」
「色々と。」
「わけがわからんな」
「そうですか?では、ヒントを差し上げましょうか」
「は?」

今まで聞いたことも無いセリフに、俺は目を見開く。
ヒント、だって・・?
ほんとに、この男は。どこまで俺に甘くなるのか。

「こういうことです。」

そう言って、陰が出来たかと思ったら、柔らかい暖かいものが、唇にふってきた。

「・・・っ、な、にを・・!」
「ヒントです。あんまり無防備だと、食べられちゃいますよ?」
「わけがわからんっ」
「あれ、まだわかりませんか?」

じゃあ、もう一度。

なんて言って顔を近づけてくるから。
なんだか恥ずかしくなって、俺は慌てて起き上がった。

「あ、プラチナ様ー」
「知らん!部屋に戻るっ」
「待ってくださいよー」

振り返らず、早足で部屋に戻る。
ジェイドがついてきているのは知っている。

けれど、決して振り返らない。足も止めない。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。

唇が重なっただけなのに。なんでこんなに恥ずかしい思いをしなければならないんだ。

部屋に閉じこもって。
ジェイドを部屋に入れないようにする。

俺を宥めるために、ジェイドが下手に出るのを見るのは、悪い気はしない。
なんだかとてもくすぐったいけれど。





・・・プラチナはまだ、唇を重ねる、あの行為の名前を知らない。
ジェイドの想いも。
なぜするのかも。

その事実にジェイドが気づくのはもう少し後の話。
そして、優しく教えるのだ。
行為の意味を。






誰にも甘えない貴方を。
甘えを知らない貴方を。
何も知らない貴方を。

自分色に染め上げて、自分にだけ甘えてくれるようになったら、
それはどんなに幸せなことなんでしょうね。

プラチナ様。

優しく優しく教えましょう。
今まで教えてこられなかった分。
甘く愛を囁きましょう。
貴方が、俺のことしか考えられなくなるまで。






ノーコメント。