風邪っ引き。



ジェイドがいないとき。
寂しさを紛らわすためにいつも以上に頑張って、無理がたたって倒れて。

そのせいでジェイドを怒らせてしまった。

そして。
怒らせてしまったとき、どうすればいいのかわからなくて。
だって、こんなことは初めてだったから。
勇気も無くて。
ジェイドが傍にいなくて、寝付けなくて、一人になると涙腺も壊れてしまって。
だけど、真面目なプラチナが仕事をサボれるわけがなくて。

やはり無理がたまって、また、倒れてしまった。






「・・・様。・・・・ナ様。プラチナ様」

夢かと思った。
優しく頬を撫でる冷たい手。

寝ながらも泣いてしまっていたらしくて。
覚えていないけど、うなされていたらしい。
涙で濡れた視線の先に、翠色の髪の毛が見えた。

「・・・・ィド・・・」

自分の声かもわからなかったが、きっと、自分が言ったのだろう。
かすれた声が聞こえた。
そういえば、この名を呼ぶのはどれくらいぶりだろう。

夢かと思ったんだ。
ジェイドがここにいるはずがないから。
きっと、まだ怒っているはずだから。
だって・・・また、俺は倒れてしまった。
こんな弱い王ではだめなのに。

きっと、ジェイドが怒っているのは、強くあれと教えてきた俺が倒れたりしたからなんだろう。

また、しかも、ジェイドが傍にいないことが原因でまいって、倒れてしまったんだ。
離れていってしまうかもしれない。
どこかに、行ってしまうかも・・・。
愛想をつかして俺の参謀なんて止めてしまうかも。

そう考えると、涙が止まらなかった。

「プラチナ様・・・」
「じぇいど、ジェイド・・・いやだ、行くな。傍に・・いてくれ・・・。ジェイド・・・」

夢の中なんだから。
夢の中では素直に言えると思った。
だから、ジェイドに向かって手を伸ばして。

その手をとってくれた手に縋って、しっかりと捕まえて。

「ジェイド・・ジェイド・・」
「大丈夫です。此処にいます。貴方のお傍に・・いますから。プラチナ様」

暖かい腕の中に抱きしめられて。
とても暖かくて。ジェイドの香りがして。
俺は安心して、夢の中。
ジェイドに抱きしめられたまま、離すまいとしっかりと背中に腕を回して。
俺は、意識をなくした。

















「ん・・・」

ゆらゆらと意識が浮上してきて。
寝返りをうとうとして、出来なかった。

「・・・・?」

なんでだ?と首をかしげ、ゆっくりと瞼を上げる。
まず、目に入ってきたのは、黒い服。
視線を上げると、整った顔。

「っ・・・!?」

声が出ないほど、驚いた。
どうして此処に!?
ぐるぐるとまだ本調子じゃない頭で考えていると。

「おはようございます、プラチナ様」
「ぇ、え・・・」
「どうしたんですか?」
「え、だって・・・どうして・・・」

なで、ジェイドがこんなところにいるのか。
俺を抱きしめて、一緒に寝ているのか。

「あれ?覚えてないんですか?」
「え?」
「プラチナ様が、離してくれなかったんですよ?行かないでくれって」

笑顔でそう言うジェイドに、プラチナは一瞬固まった。
それは・・・。

「なっ、だって・・・!俺は、夢だと・・・っ」

顔が、熱のせいでなく紅く染まる。
恥ずかしすぎるっ!!

ジェイドの胸に顔を埋めた。
そんなプラチナの綺麗な髪を、ジェイドが優しく梳く。

そこで思い出した。
ジェイドと喧嘩していたこと。
怒らせていたこと。

「っ、ぁ・・ジェイ、ド・・」
「すいません、プラチナ様」
「え?」

急に謝られて、俺はジェイドの顔を見上げた。

「すいません。俺のせいで、倒れさせてしまった。
あなたが、自分の身体を省みず倒れるまで無理するのが許せなくて、怒って。
身体を大事にして欲しかったのに。それなのに、倒れる原因を俺自身が作ってしまった。
貴方の気持ちも考えずに、こんなになるまで・・・。すいませんでした・・・」
「ジェイド・・・」
「ずっと、眠っていなかったのでしょう?しかも、沢山泣かせてしまって。
寂しい思い、させました。」
「ジェイド・・・ジェイド・・・」

抱きつくプラチナを、ジェイドが優しく抱きしめる。

「俺も、すまなかった・・。もっと、早くにお前のところへ行っていれば・・・
こんなことにはならなかったんだ・・・。
心配を、してくれていること・・解っていたのに。俺がキチンと気をつけていれば・・・」
「いいんですよ。俺が、ずっと傍についていて、もう二度とこんなことにはなりませんから」
「ジェイド・・・」

それは、文字通り、ずっと傍にいるということ。


「まだ、熱がありますから。もう少し、眠ってください」
「・・・・この、まま・・・ここにいる、か?」
「もちろん。離しませんよ。ずっと次に貴方の目が覚めるまで、此処にいますから。
安心してお休みください」
「ん・・ジェイド・・・・。好き・・だぞ・・」

そういって、すぅ・・と眠りについていった。




*




「あなたは・・本当に・・・。覚えててくださいよ?」

眠っているプラチナを見て、呟く。

滅多に聞けない貴方の告白を、あんなに綺麗な笑顔で告げられて。
抱きしめたまま、離れることも出来なくて。
理性の限界を試されているんだから。

もう、貴方を泣かせたりはしません。ずっとお傍にいますよ。

口にはしないけれど。

貴方が、恥ずかしくてどうしようもないくらい、甘やかして差し上げますよ。
だから、起きたら覚悟してくださいね、プラチナ様。


ジェイドは、そう心の中で呟いて。
そっと、プラチナのおでこに口付けた。



再びノーコメントで・・・。