年相応


部室で、菊丸がリョーマを探してうろうろしている。

「ねー、大石ぃ。おチビ見なかったー?」
「さぁ、今日はまだ見てないよ。」
「うーん・・・・。そーかぁ。」
「委員会で遅くなるんじゃないか?」

不満そうにしている菊丸に大石が言う。

「うん・・・・」

見るからに元気の無くなった菊丸に苦笑し、大丈夫、すぐ来るよ。
とポンッと肩をたたいて部室を出ていった。

(おチビー、早くこーいっ)







「あれ、大石。英二は?」
「・・・・越前、待ってる」

苦笑混じりに不二に答える。

「好きだもんね」

リョーマと英二はテニス部、公認らしい・・・。

「あの二人はいいから、さっさと練習をしろ!」

テニスコートから手塚が叫んでいる。
二人はコートに入っていった。






菊丸が部室で待つこと30分。
ガチャッと部室のドアが開いた。
菊丸がそちらを見るとそこには待っていた人の姿。

「おチビっ!!」

「あれ?エージ先輩。どうしたんスか?みんな練習して・・・・」

「おチビ、待ってたんだよーーーーっ!」

そういってリョーマに抱きついた。

「ちょっ、エージ先輩!」

ぎゅぅぅぅぅっと抱きしめる菊丸にリョーマは抗議の声を漏らす。

「なんだよー、おチビは俺、嫌いなんだ。俺、ずっと待ってたのにさ・・・」

悲しそうに言う。
わざとだとはわかっていたが、前に同じセリフを言われて聞き流し、
喧嘩した過去があるのだ。リョーマはあわてて言った。

「な!そんなこと、言って無いじゃないですかぁ!俺は、委員会があって・・・」

それを聞いてニヤリと笑うエージ。

「じゃ、俺のこと好きって言って?」

「は?」

「ねぇ、言ってよ、リョーマ・・・」

ベンチに座っていたリョーマを押し倒し鼻の頭がつきそうなほどに顔を近づけてくる。
リョーマは驚き、恥ずかしくて、目の前にドアップで映っているエージの顔を
見ないように顔を背けて言った。

「・・・・・好き、ですよ・・・・」

小さな声で言う。

「え?全然聞こえにゃ〜いv」

「エージ先輩!!」

背けていた顔をエージの方に向けたら、CHUvとエージの唇が触れた。

「っっ!!!」

かぁぁぁぁ、と真っ赤になる。
肩をふるわして笑うのをこらえている菊丸を赤い顔でにらむ。
それでもまだ笑いをこらえているエージに腹が
いつもリョーマはこの菊丸のギャップに付いていけない。

「リョーマ」

「・・・・・・・」

リョーマは菊丸に名前を呼ばれるのが好きだ。
だから、もっと名前を呼んで欲しくて、わざと返事をしないでおく。

(でも、そんなこといったら図に乗るし、悔しいから、言ってやんない。)

けれど菊丸はそれを勘違いし、不安そうにリョーマの顔をのぞき込んできた。

「リョーマ・・・?怒っちゃった?」

「・・・・そんなことないッス。」

―――――どうして、怒らなければならない・・?
こんなに嬉しいのに。今、先輩は俺のことだけ考えてる。
それが嬉しい。
子供の、独占欲。
菊丸にはうつむいているリョーマの顔は、見ることは出来ない。
しかし、リョーマの言葉に安心したようだった。
リョーマはこんなことで気を使ったりするヤツじゃないから。

「よかった。」

菊丸は一言そう言った。
そして、

「・・・・。ねぇ、リョーマ。こっち向いて・・・・?」

と、そう言ってリョーマの顔を手で包み込むように挟み上を向かせる。

「?エージ先輩?・・・・・」

"なんです?"と、続こうとしたリョーマの言葉は途中でとぎれた。
菊丸がリョーマの唇を塞いだから。

「んっ」

菊丸は閉じていた目を薄く開けて、ギュッと目を瞑って必死に答えようとしている
リョーマを愛おしそうに見ていた。
菊丸は、キスしていたり、自分に抱かれ、溺れているリョーマが好きだ。
自分だけを感じているリョーマが。
もちろん、それだけじゃ無くてその存在すべてが愛おしくてしょうがないのだが。
苦しそうに眉をよせている顔がイイ。
そんなリョーマを見ていて泣かせてしまいたくなる自分は
やはりおかしいのだろうか・・・?

(つうか、鬼畜、入ってる・・・・?)

ぎゅうっとリョーマの手が菊丸の服を掴む。
その手が微かにふるえている。
菊丸はそっと唇を離した。

「ゴチソーサマv」

そんな菊丸の言葉にリョーマはただでさえ赤くなった顔をさらに赤くした。
息が上がり、目は少し潤んでいる。

「センパイっ!部活は!!」

「え〜?俺としては、おチビと一緒に続きを楽しんだ方が・・・・」

「センパイっ!」

リョーマが菊丸の声を途中で遮った。
テニスが好きな菊丸が、部活をサボるなんて言うわけないんだから。
でも、冗談だと分かっていても、ムキになってしまう。
そんな、所が菊丸を楽しませてしまうのだろう。
菊丸は、あっさりとリョーマを離した。

「わかってるって。じゃ、早くおいでね、おチビ。待ってるからv」

そう言って出ていこうとする。
背を向けた菊丸に何を思ったのか、リョーマは菊丸を呼び止めた。

「エージセンパイ!待って」

「ん?なに?」

振り向いた菊丸が首を傾げる。

「あ、あの・・・」
「?」

リョーマらしくもなく、赤い顔で目を泳がせている。

「・・・・おチビ。誘ってんの?」

「えっ!?違います!そうじゃ、なくって・・・、その・・・名前。
俺の名前。もう一回呼んでくれます・・・?」

「・・・・・・。」

「い、イヤっすか・・・?」

そう、言うリョーマににっこりと笑いかけて、

「リョーマ。・・・先に行ってるから、早くおいでよ」

自分の名を呼ぶ、菊丸の声にはとても、優しさが込められていて。
リョーマは「はい」と返事をして、菊丸が出ていくのを見送ってから自分も着替え始めた。
遅刻だな・・・・、などと考えながら・・・。