風邪〜後編〜





「はぁ、はぁ・・・・。ここかぁ。」

菊丸はあのあと学校から全力で走り続け、10分という驚くべき速さでリョーマの家に到着した。
すでに人間業ではない・・・・。
はっきり言って、菊丸はリョーマの家に来るのは初めてだった。
いつも、菊丸の家で遊ぶから。
少し緊張しながらリョーマの家のインターフォンを押した。

ピンポーン、ピンポーン

『はい。』

女の人の声がした。

「あ、あの。菊丸英二って言います。
おチビちゃ・・・いえ、リョーマの部活の先輩なんですが、会えますか・・・?」

『あ、リョーマさんの?ちょっと待って下さいね。』

今の女の人は誰なんだろう・・・。母親にしては若い声だが・・。
そんな事を考えながら言われたとおりに待っていた。
しばらくして玄関が開き、中からパジャマの上にカーディガンを羽織ったリョーマが出てきた。

「っ!おチビちゃん!?」

菊丸はリョーマに駆け寄って抱きしめた。

「エージ先輩・・・。ど、したんですか?部活は?・・・学校・・・。」

リョーマは菊丸の腕の中に収まりながら上を向いて聞いてくる。
いつもと違ってじっとおとなしく、熱のせいで目は潤み、普段の生意気さは影を潜めている。
その姿は実年齢よりも幼く見えて、とても可愛い。

(・・・・可愛いよぉ!手を出せないなんて・・・。生殺しだにゃ・・・)

と、内心思っているが、そんな素振りなんてかけらも見せずに・・・。

「おチビちゃんが風邪引いたって大石に聞いて急いで来た。
寝てなきゃダメじゃん!まだ、熱あるでしょ?」

そう言って、心配そうに見下ろし、抱きしめる腕に力を込める。

「・・・・・だって、先輩、せっかく来てくれたし。
・・・ガッコ、休んだんでしょ、先輩?連絡、出来なくて、ごめんなさい。心配もかけて・・・」

ホントにすまなそうに、素直に謝るリョーマがとっても新鮮で可愛くて。

「リョーマ、大丈夫だよ。俺は全然平気。大石や不二に頼んどいたから・・・。
それより、家に入った方がいいよ・・・。」

そう言ってリョーマの背中を優しく押す。
しかし、リョーマは歩こうとせずに菊丸の制服を握る。

「ん?おチビ、どした?」

「・・・先輩、もう帰っちゃう?」

そう言って見上げるリョーマに菊丸は胸がギューッとなった。

(なんだ、なんだ!?スッゲーそそられるって言うか、守ってあげたくなるって言うか・・・。
こんなリョーマ、例え家族、身内であっても見せられにゃいっ!!)

菊丸の中での独占欲が膨れ上がる。
そして、いつまでたっても返事をしない菊丸にリョーマが声をかける。

「・・・先輩?」

「ん?あ、大丈夫だよ、帰らないから・・・。一緒に部屋、行こうか・・・」

「・・・うん。」

リョーマは返事はしたが、他のことを考えていた菊丸にヤキモチを焼いていた。









「ほら、ちゃんと布団かぶって暖かくして寝とかなきゃね。」

「うん・・・。ねぇ、先輩?・・・・帰んないで・・・ね?」

小さい手でギュッと菊丸の手を握ってくる。

(頼む!頼むから、これ以上可愛いことしないで欲しいにゃー!!理性がぁ〜〜)

「ねぇ、センパイッてば!」

「あ、ゴメン。もちろん、チビちゃん残して帰るわけないでしょ?
ずっとここに居るから、もう寝ちゃいな」

「うん。・・・ねぇ、さっきから、何、考えてるのさ。
俺がいるのに、他のこと考えないでよ!」

「・・・へ?」

「返事は!?」

(これって・・・もしかしなくても・・・。ヤキモチ)

「ねぇってば!聞いてるの!?」

「聞いてるよ。俺がリョーマ以外のこと考えるわけないじゃん。
ほーら!怒鳴ったら喉、痛いでしょ?」

そう言って優しく頭を撫でて髪を梳く。

「ホント?」

「もちろん!リョーマが可愛すぎて、ボーっとしちゃってただけだよ。
ヤキモチ、焼いてくれたんだね。嬉しいにゃ〜(^^)」

そう言ってにっこりと笑う菊丸を見てただでさえ赤い顔をさらに赤くさせるリョーマ。

「ば、バカッ!違うよ!!もー、知らない、俺、寝るからね!!
・・・絶対に帰っちゃダメだからね!」

「大丈夫だよん、ずっと、ここにいるから・・・。」

そう言ってそっと唇を落とす。

「なっ!・・・風邪、移っちゃうでしょ。
だから・・・会えて嬉しかったのに、抱きつくの我慢したのに・・・。意味ないじゃん」

「・・・・・。もー寝ちゃいなさい。それ以上嬉しいこと言うと、襲っちゃうよ」

「っ!おやすみっ!」

「はい、おやすみ・・・。」

それから5分もしないうちに、リョーマから気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。


そのあと、しばらくして菊丸に飲み物を持ってきた奈々子さんが見たものは、
この上なく幸せそうな笑顔でリョーマの寝顔を見つめる菊丸の姿だった。


END






前編よりも明らかに長い・・・(汗)
そして、リョーマはきっと偽物。
可愛くなりすぎ。ただ文章が連なって長くなってるだけかも〜(;;)
でも、甘い・・・かなぁ。(?)