告白 昼休み、3-6の教室のドアがガラっと開いた。 そこから顔を出したのは、今や皆が知っている一年生のテニス部レギュラー、越前リョーマだ。 教室内がざわめく。 3年の教室に堂々と来れる一年は彼くらいのものだろう。 「越前、どうしたの?」 きょろきょろと教室内を見渡していたリョーマに、不二が近寄り、声をかけた。 「不二先輩・・。菊丸先輩はいません?」 「英二?そういえば、さっき呼び出されたみたいだね、女子に。越前は英二に用なの??」 「っス。一緒に飯食うから教室に来いって言われたんですよ、朝練のとき。」 「珍しいね、素直に来るなんて」 リョーマなら、そっちが来い、くらい言いそうなものだ。 「ゲームの攻略法、教えてくれるって。」 そう言って見せたのはゲームボーイアドバンス。 「なるほど。どうする?もうすぐ戻ってくると思うけど?」 「いや、探しに行ってきます。」 呼び出された、が気になっているらしい。 不二は隠れてクスっと笑った。 「そう。裏庭辺りにいると思うよ」 「ども。あ、これ預かっててくださいね」 そういってリョーマは不二に弁当箱とゲームを預けると裏庭に向かった。 「クス・・、頑張ってね、英二」 不二は楽しそうに笑いながら教室の中に入っていった。 リョーマは裏庭にある渡り廊下で英二を見つけた。 声をかけようと思ったが、英二以外のもう一人の影を見つけ、出しかけた声を飲み込んだ。 あ、呼び出されてたって、不二先輩、言ってたっけ。 相手は二年生らしかった。 「菊丸先輩、あの・・・好き、なんです。ずっと、見てて・・。付き合って貰えませんか・・・?」 真っ赤になって、でも、一生懸命、菊丸の顔を見ながら告白するその女子生徒はとても可愛らしかった。 菊丸先輩、どうするのかな・・・。あんな可愛い人だし、やっぱり、O.K.しちゃうかな・・・。 「ありがとう、嬉しいよ・・・。」 にっこりと笑ってそういう菊丸に、リョーマは。 あぁ、やっぱり。 と・・・。 リョーマはなぜかとても悲しくて。なぜか、とても胸が苦しくて。 立ち去ろうと思った。でも、音を立ててしまいそうで。なぜか、気づかれたくなかった。 自分が、ここにいることを。 なのに、菊丸にこっちを向いて欲しいと思っている。 矛盾・・・。 そのまま、リョーマがそこで俯いていると。 「でも、ごめんね・・・?」 そう、聞こえた声に、リョーマは顔を上げた。 「俺、好きな子いるんだ・・・。だから、君とは付き合えないの。ごめんね?」 相手の子は泣いてしまっているんだろう。 顔は見えないが、菊丸が苦笑気味に、その子の頭を撫でてやっている。 その子は、菊丸にお礼を言って、その場を去って行った。 好きな子が・・いるんだ。菊丸先輩・・・。 ふぅ・・、と、柱にもたれ掛かってため息を付いている、菊丸の横顔を、カッコいいと思った。 菊丸が、ゆっくり、リョーマの方を見る。 目が合うと、驚いたように目を見張る。 「あ・・・」 「見てたんだ?」 「・・・すいません。」 「別に謝んなくてもいいって。」 二人はその場で、離れた距離のままで会話をする。 ほんの、5メートルほどの距離。 「好きな人・・・、いるって・・。」 「・・・あぁ、うん。俺にだって、一応いるって」 笑いながら。 「告白しないの?先輩なら、きっと上手くいくと思いますけど?」 自分で言って、胸が痛くなる。 「どうかなー・・・。」 「らしくないっスね?」 「そう?」 「先輩って、当たって砕けろタイプかと思ってましたけど。なんでも、まず行動って感じ」 「んー・・。こればっかりはにゃ〜」 苦笑気味にそういう。そして・・ 「ほんとに、上手くいくと、おチビは思う?」 「思いますよ。」 なんてことを訊くんだろう、この人は。 無邪気に、残酷に。 そして、自分は、どうして自分の想い人の恋を後押ししてるんだろう。 菊丸が、リョーマに近づく。 近づいてくるたび、顔を上げなくてはならない。 目の前で、止まった。 「何スか?」 「・・・おチビを信じるよ?」 「は?」 あぁ、上手くいくって、あの言葉? 「そうですか、頑張って下さいね。」 そう言って、立ち去ろうとするリョーマの腕を菊丸が掴んだ。 「な・・・」 んですか、と口にする前に、菊丸が口を開いた。 「・・・好きなんだけど。」 「・・・・・」 リョーマは何を言われたのか、わからず、黙って菊丸を見つめた。 返事が出来なくて。 バカみたいに、あたりを見渡した。 誰もいないし、そもそも、菊丸はリョーマをじっと見つめている。 「おチビが、好きなんだけど・・・」 もう一度、そう言った菊丸に、リョーマは我に返った。 「ちょ、なんの冗談ですかっ」 「冗談じゃないって。本気で。」 「だ・・って・・、」 そう言って見つめる菊丸の目は、怖いほどに真剣で。 「・・・ホント、に?」 「もちろん。」 驚きの次にきたのは、自分でもビックリするほどの、喜び。 菊丸の好きな人が自分だとわかった安心感。 そして、どこか恥ずかしい気持ち。 しかし、リョーマはそんなことを全く顔に出さず、ため息を一つついて。 「解りましたから。離してください。腕・・。痛いっス」 「あ、あぁ、ごめんっ」 リョーマは、ぱっと手を離す菊丸に笑って。 「さ、教室に戻んないと、昼休み終わりますよ?菊丸先輩」 そう言ってスタスタと歩き出すリョーマを、菊丸は慌てて追う。 「ちょ、ちょっと!おチビっ??返事はーっ!?」 すでに、階段を上ってるリョーマを見上げて。 息を呑む。 階段の踊り場で、窓から射す太陽に照らされ、逆光の中で、顔を赤くして笑うリョーマがとても可愛くて。 そして、その口が、動いた。声にはなっていなかったけど。 お れ も そして、またすぐに階段を上りだす。 菊丸は我に返って、姿が見えなくなったリョーマを急いで追いかける。 「おチビっ!」 全速力で走って追いついた菊丸は、リョーマを後ろからすっぽり抱きしめた。 「ちょ、何すんですかっ!」 「へへ〜w」 どんなにあがいても離れない菊丸をそのままに、3-6に一緒に戻った。 不二先輩は何も聞かなかったけど、よかったね、と意味ありげに微笑んでいて。 何もかも知っているんだ、と思うとちょっとむかついたけど。 やっぱり、解っていないのは本人たちだけで。 基本的に、何が変わったわけではないけれど。 まだ、顔に赤みが差しているリョーマに、嬉しさ全開の菊丸。 二人が上手く行ったのは、火を見るよりも明らか。 戻