甘いチョコと一緒に、この気持ちを貴方に。 世間の恋人たちが浮き足立つバレンタインデー。 いまでは、ただのお菓子交換のイベントになりつつあるが、 それでも好きな人へ気持ちを伝えようと頑張っている人たちがいないわけではない。 この広い洋館に住んでいる、誰もが認める恋愛音痴の名探偵、工藤新一も珍しく その例に漏れなかった。 白い孤独な怪盗と付き合い、彼の正体を知って3ヶ月。 恋人同士と言う甘い関係になって初めてのイベントであるバレンタイン。 今まで興味すら持っていなかった(むしろ、煩わしい日であった)この日に、 自分がこんなにも頭を悩ますことになろうとは・・・・。 今はいない恋人を思い浮かべて、新一はため息を付いた。 しかし、その頬はわずかに赤くなっている。 「アイツ、絶対に欲しがるよな・・・」 大好きなものがチョコアイスという彼。 天然タラシのプレイボーイがこの日を知らないわけが無し、絶対にチョコを待ち 望んでいるだろう。 しかし、しかし・・だ。 この時期、コンビニだろうがデパ地下だろうが、ただの板チョコ一枚でも男が 手にするのは気恥ずかしいものがある。 「どーすりゃいいんだ・・・・」 頭を抱ええるが、あいつが遊びに来るまで時間が無い。 こうしている間にも時間はすぎているのだ。 新一は覚悟を決めて立ち上がった。 「で?どうしてココに来るのかしら?」 「いや、だってさ。ほら、こんなん相談できるの灰原しかいねーし・・・」 恥ずかしいのだろう。 出されたコーヒーカップを両手で包み、らしくなくボソボソと言い訳がましいことを 言いながら視線をさまよわせている彼は、可愛くないといったら嘘になるけれど・・・。 はぁ・・。とため息を1つ吐いて、灰原は口を開いた。 「で?彼に上げるためのチョコを作りたいのね?」 「ん、そう・・」 「それで、うちにきたって事は、手伝って欲しいのね?」 「いや、自分で作る。ただ、作り方とかしらねーし・・・材料とか・・・。それに、 内で作ったらいつアイツが帰ってくるかわかんねーし・・・」 「はいはい、監督してて上げるわよ。材料も残ってるし」 「サンキュな、灰原」 ニッコリとはにかむ様に微笑んだ新一は、それはそれは可愛かったそうだ。(灰原談) キッチンで一生懸命にチョコを刻み、溶かし、している新一は見ていて微笑ましいものがある。 しかし、灰原の心の中は『このバカップル』と言ったところだろう。 新一が言っていたリミットまであと30分と言ったところか。 「出来た」 「まぁ、初めてにしては上出来なんじゃない?」 四角い箱に5個入った丸いトリュフ。 満足そうに笑っている新一の顔にはチョコがついていて、とてもじゃないが、 日本警察の救世主と称される彼の面影は無い。 (・・・まぁ、この人が自分から何かを上げたい、と思うほど好きな人が出来たのは、 いいコトなんでしょうけど・・) 「サンキュな、灰原!」 「いいえ、出来たなら早く帰りなさい。後片付けは私がしておくわ」 「え、でも・・・」 「いいのよ、彼が帰ってくる前に家に帰りなさい」 「?そ、そうか?わかった。ホント、ありがとな!」 そういえって隣へ帰っていく新一を見送って灰原は深いため息を吐いた。 (工藤君を探しにこられて、うちでイチャつかれるより何十倍もマシだわ。) 灰原はなんだかもう諦めの境地で台所の片付けに向かった。 「おじゃましまーす」 新一が家に戻って10分後。 元気な声と共に、恋人である、黒羽快斗が姿をあらわした。 ソファーに座ったまま、顔だけをドアのほうに向けて、新一は入ってきた快斗に微笑んだ。 「いらっしゃい、快斗」 「うん。新一v」 快斗はソファーの背もたれ越しに、ふわりと新一を抱きしめ、首筋に顔を埋める。 「あー、久しぶりの新一だ・・・」 「なに言ってんだよ」 「だって昨日あえなかったし」 「たった一日だろ?」 「それでも、俺には何日間にも感じられるの。新一は寂しくなかった?」 「・・・バーロ」 否定しない新一に、快斗は笑みを浮かべる。 それは肯定の意味だから。 「ね、新一?」 「ん?」 抱きしている腕は一度も外されていないのに、何時の間にか自分の隣に座っている快斗に、 今さら驚きもせず、新一は目を向ける。 にっこりと笑っている快斗の顔が見えたかと思ったら、一瞬後には目の前が真っ赤に染まっていた。 「え・・・・」 「バレンタインだからね」 そう言って送られたのは真っ赤な薔薇の花束。 「す・・げ・・・」 「新一にだよ。」 「え、あ・・・。」 目の前には薔薇の花束を差し出しながら笑っている快斗の姿。 不覚にも、カッコいい、と見惚れてしまった。 こんなにも薔薇の花束が似合う男を新一は知らない。 こんな演出がムカツクほどに様になる男を、新一は知らない。 薔薇の花束と共に贈られた告白に、新一の顔が赤く染まる。 「・・・・・サンキュ・・」 受け取った花束に、新一が顔を隠す。 そして、思い出す。自分も快斗に送りたいものがあったじゃないか。 「あ、あの・・快斗・・」 「ん?」 「これ・・・」 照れている新一を嬉しそうに見ていた快斗は、差し出された箱に驚きを隠せないでいた。 「新一・・・?」 「さっき、灰原のトコで作って・・。えと、美味くないかもしんねーけど・・・」 「新一の手作り?」 「ま、ぁ・・。一応・・・」 「うわ・・・マジで・・・?」 「・・快斗?」 新一がうつむいていた顔を上げようとしたら、快斗に抱きしめられた。 「わっ、おい・・?」 「ダメダメ。今は俺の顔見ないで?」 「・・・・・なんで?」 「すっげー、情けない顔してる」 「見せろ。」 「ヤだよ。あー、すっげー嬉しい。」 ほんとに嬉しいんだ、と伝わってきて、新一の顔も笑顔になる。 そして、快斗の背中に腕を回してみたりして。 「俺も、ありがと・・。その・・・好き、だぞ」 抱きしめているから、顔は見えないけど。 きっと、真っ赤な顔をしているんだろう。 滅多に聞けない新一の好き、に快斗は抱きしめる腕を強めた。 「新一・・・」 スッと、頬に手が添えられる。 顔が近づいてきて、新一は自然と瞼を閉じた。 唇に触れる唇の感触がくすぐったくて、少し唇を開くと、舌が入り込んでくる。 それと一緒にトロっとした甘いものも一緒に流れ込んできて。 すぐにそれが自分が送ったチョコだとわかった。 何時の間に口に含んでいたのかは知らないが。 「んン・・・っ」 絡んでくる舌に自分からも返す。 上あごをかすめられ、肩が跳ねる。 これ以上無いくらい口内を味わい尽くされ、新一は腰砕け状態だ。 唇を離され、後を引く唾液が顎を濡らして冷たい。 それを快斗が舌で綺麗に舐めとってくれる。 「ぁ・・・」 くたっと、快斗の胸に身体を預ける。 「サイコーのバレンタインだ。お返しが大変そう」 「俺も貰ったんだから、おあいこだろ?」 「じゃ、新一もお返し頂戴?俺もあげるからさ」 「ん、わかった。」 快斗の腕の中で、コクンと首を縦に振る。 甘い甘い、恋人たちのバレンタインは始まったばかり。
バレンタイン小説! チョコの代わりのように、あまーく・・・なってればいいんですが。 リハビリも兼ねてます。 まだ、キスまでの二人を目指してみました。 同棲してないですよ! ホワイトデーが楽しみですね(笑) とりあえず、3月まではフリーということで。 戻