暖かい冬の日






昼休み。
大学の食堂で友達と昼食を食べていた快斗のケータイが震えた。
表示されている名前は新一。
滅多にない新一からのメールに快斗は思わず声を上げた。

「え!」
「どーした、黒羽?」
「なんでも!」

急いで見たメールにはただ一言。


『さびしい』


そのメール内容にさらに驚く。
一体どうしたのか?今日は確か現場に行っているじゃ?
メールを打つのがまどろっこしくて、快斗は新一に電話をかけた。

『…かいと?』
「どーしたの?今どこ?」
『え、と…裏庭』
「大学、きてるの!?」
『あぁ。』
「すぐ行くから!」

言うが早いか、快斗はケータイを切り、荷物を持ち、席を立つのを同時にやり、
友達が声をかける間もなく食堂を後にした。











「新一!」
「おー、きたきた。・・・三分か。まぁまぁ早かったな。」
「は?」
「まぁ、座れよ。」

新一はポンポンと自分の隣を叩いた。
ワケのわかっていない快斗は、ワケのわからないまま新一の隣に座った。

「・・・新一?」

さっきのメールと電話はなんだったんだろう?

「驚いたか?」
「とーぜんだろ」
「まぁ、何と言うか・・・。いたずら?だな」
「・・・いたずら?」
「そ。快斗がどれくらいでオレのとこに来るか。」
「そんなの、普通に呼び出してよ・・・。こんなの、何かあったのかって心臓に悪い」
「だからイタズラなんだよ。」

小さく笑いながら言う新一に快斗は息を吐いた。

「はぁ・・・。でも、ま・・なんもないんだったらよかったよ」
「あぁ、悪かったな。」
「だめ、許さない。」
「快斗?」

許さない、と言って抱きしめられる。

「ちょ、おまっ!こんなとこで何すんだ!」
「許さないって言ったろ?俺を心配させたんだからこのくらいは許してくれるよなぁ?」
「う・・・」
「しばらくこのままな。」
「でも、人が・・・っ」
「ここが人がこない穴場だって、教えてくれたのは誰だっけ?」
「うぅ・・・」

苦しくはないが決して外されない力強い腕に、新一は諦めて快斗の胸に体を預けた。
頭上で快斗が満足気に笑っているのが見えなくてもわかってしまってなんだか悔しい。
けれど、暖かい腕の中で安心できる気配に包まれて聞こえてくる快斗の心臓の音に、
新一はいつの間にか寝息を立てていた。



腕の中で眠る新一を確認して、快斗はふぅ、と息を吐いた。

こーでもしないと素直に甘えてくれないから。
新一が甘えている、と言うんじゃなくて、仕方なく甘やかされてやる、
と言うスタンスじゃないと、素直じゃないこの人は決して甘えを見せないから。
快斗が見逃すわけがないのだ。
自分を見た瞬間に笑顔が浮かんだ新一を。
その前のあの不安そうな悲しそうな顔からのその表情の変化を。
快斗が新一を眠りやすいように、寒くないように抱きしめると、胸に擦り寄ってくる。
可愛らしいしぐさに柔らかい笑みが浮かんでしまう。
不器用な恋人を愛しいと思う。

きっと事件は解決したのだろう。
それが原因で落ち込んでいるのかも知れないし、原因は全く別の事かもしれない。
それは、きっと新一が聞いてほしくなったら話してくれるから。
今は、自分の腕の中で休んでほしい。
新一が一番安心して安らげるのは、自惚れでなく、自分の傍だとわかっているから。



暖かい陽射しの中でゆっくりと時間はすぎていく。







・・・・やまなし、おちなし、いみなし。 の代表作のような作品ですね(爆)