深夜。
冷たい風の吹くビルの屋上。
普段は人のいないそこに、今夜は人影があった。



「くっそ、さみぃな・・・」

フェンスにもたれかかってしゃがみ、忌々しげに呟いた。

「おや、これは珍しい客人だ」

声が聞こえて、上を見上げると、そこには白い衣装に身を包んだ怪盗の姿。

「おっせーんだよ。この寒い中待っててやったんだから感謝しやがれ」
「そんな格好だからですよ。春と言ってもまだ夜風は冷たいんですから」
「ほぅ・・?ってことは何か?俺が悪いといいたいのか?」

新一は立ち上がるとカツカツと靴音を響かせてキッドのほうへと近寄った。

「名探偵・・?」
「待たせたお前が悪いんじゃなくて、待っててやった俺が悪いと・・・?」

今日の新一はご機嫌斜めらしい。
キッドが一歩後ずさる。

「逃げるのか?俺から。いい度胸じゃねぇか」
「ちょ、名探偵?どうなさったんですか・・・?」

伸ばされた新一の手がキッドのネクタイを掴む。

「めい・・っ」

呼ぼうとしたが、声が出なかった。
ネクタイを引っ張られたかと思ったら新一に、その唇を塞がれていた。
キッドの口内に新一のしたが潜り込んでくる。
驚きに目を目を見開く。
しかしそこはキッド。
新一から伸ばされたその舌を絡め取る。

静かな深夜の屋上に濡れた音が、やけに大きく聞こえた。



「っは・・ぁ・・」
「新一・・・」

唇を離す。
唾液に濡れた新一の唇が、漏れる吐息が色っぽい。
濡れた目が快斗を捕らえる。
そして、その唇から発せられたのは誘い文句。

「さみぃ、っつってんだろ、バ快斗」

快斗はまた、驚きに目を見開いた。
これ以上、今更かもしれないが、これ以上、キッドの仮面を被ってなんかいられない。

「全身全霊を持って暖めさせて頂きます」
「ココじゃ嫌だからな。」
「名探偵の、仰せのままに」

そう言って新一を抱きかかえると、ハンググライダーを開き、屋上から飛び立った。





柏崎様に頂いた素敵イラストを元に書かせて頂いたものです。 イラストのイメージ崩してしまってたらすいませんm(__)m 元となったイラストはこちらvvKISS