この場所で・・・ Side S 好き。 それが言えなかった。 悔やんでも悔やみきれない。 たった一言。 好き、と。たかが2文字。 けれど、とても大切な言葉。 事件の帰り道。 いつも通る駅で、いつも笑顔で自分のことを迎えに来てくれていた快斗を思い出す。 ツキン・・と胸が痛んだ。 自業自得なのに。 もう、葉のついていない並木道も、思い出ばかりが詰まっている。 気持ちを伝えられないまま、あやふやなままで別れたのは半年前。 なのに、一年も前のことの様だ。 この公園で。 新一は寒空の下、その公園にいた。 小さな公園にある立ったひとつある小さなベンチ。 それに座って空を見上げる。 呼吸をするたびに吐き出される白い息が、空気に溶けて消えていく。 一人きりで考えるのは、いつもアイツのことばかりで。 毎日が無機質で、つまらなかった。 姿の見えない相手に嫉妬してみたり。 だけど、別れた原因は、俺自身。 ・・・・・・今頃、どうしているんだろう。快斗・・・・・・。 Side K たまたま通りかかった。 ・・・いや、もしかしたら偶然じゃないのかもしれないけど。 半年前、新一と別れたあの公園。 新一と別れてから、生活の全てが、俺にとって意味をなさなかった。 気がついたら、足が向かっていた。 公園の前に立っていた。 少し覗いてみて、驚いた。 公園の中のたった一つの小さなベンチに、新一が座って、空を見上げていたから。 らしくなく、立ち尽くしてしまった。 一分だったか、五分だったか、一瞬だったかわからない。 ふと、目が合った。 時間が止まったかと思った。 Side SK 「・・・・かい、と・・」 「新一・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 二人の間に沈黙が落ちる。 本当に、静かだった。 気の利いた言葉なんか一つも出なくて。 ・・・伝えなきゃ、と思うのに。 たとえ、快斗が心変わりしていたとしても。 伝えたいと、思うのに。 たとえそれが今更でも、自己満足だったとしても。 不意に、快斗が背を向けて、公園から出て行こうとする。 あの時とシンクロする。 「―――――っ」 呼び止めないと、後悔する。 今、今言わなければ。 「・・・っいと、かいと・・・快斗っ!!」 ビックリしたように、快斗が振り返った。 俺を見てる。それが、嬉しかった。 「――――っ、すきだ、好きだ・・・好きだっ!快斗、が・・・っ好き・・・」 あの時言えなかった、その言葉だけを叫んだ。 周りのこととか、場所のこととか、何も考えられなくて。 新一は滲む視界で快斗を見つめた。 快斗が近づいてくる。 心臓の音がやけに大きく聞こえた。 「新一・・・」 抱きしめられた。 名前を呼ばれて、胸が熱くなった。 快斗が、目の前にいると。今、自分を抱きしめているのは快斗なのだと。 実感できなくて、でも、どこか遠くでそれを見ている自分がいて。 珍しく混乱しているらしい新一はどうしたらいいのか解らず、快斗を見た。 「かいと・・・」 「ごめんね」 「な、にが・・?」 「泣かせたかったわけじゃない。悲しい涙なんか流させたくなかったのに」 「なみだ?」 快斗に掌で頬を拭われて、自分が泣いていたことに気づいた。 「カッコ悪・・、俺・・・」 自分がこんなに弱かったことを、思い知らされた気がした。 でも、今だけ・・・。今だけだから。 自分でも、悲しいのか嬉しいのか解らない涙を流して、快斗の胸に顔を埋めた。 「・・・好きだよ、新一」 「っ・・、嘘だ」 そんな都合のいい話があるわけない。 「こんな都合のいい話、俺も夢だと思うけどさ。新一を忘れたことなんか無かった。 ずっとずっと、新一が好きで、新一以外を愛すことなんか出来なくて・・・」 辛かったんだよ、と快斗が言う。 たくさん後悔したんだ、と。 まるで、新一の心を読んだようなセリフに、それでも、あぁ、コイツはこういう奴だった。と思う。 「夢じゃない・・・」 「新一?」 「夢じゃねーよ。」 しっかりと、快斗の目を見つめて。 「俺も、たくさん後悔した。自分が情けなくて、しょうがなかった。辛くて、仕方なかった」 快斗が目の前にいるから、麻痺していた心の痛みが溢れてきて。 辛かったんだと自覚できて。 「一生分くらい、好きだって言ったんだからな!!」 「うん、ゴメンね」 俺の心が弱かったから。言葉が無くて、不安になって新一を信じ切れなかったから。 「俺もゴメンな」 俺が弱かったから。言葉を伝えることが恐くて、いつも快斗に甘えてしまっていたから。 男同士だとか、探偵と怪盗とか、いろんなことを悩んで乗り越えて付き合っていたはずなのに。 相手がどういう人間かちゃんとわかって付き合っていたのに。 見詰め合った顔が近づいて、唇が重なる。 離れていた三ヶ月の隙間を埋めるように。深く長くキスをする。 そこから、言葉にしきれない想いを相手に伝えるように。 「はっ・・、快斗・・。もう、こんなことねーからなっ」 「うん、好きだよ、新一」 「・・・・知ってる。」 「帰ろうか。一緒に・・・」 「どこに?」 「新一の家に」 「・・・・・あぁ」 二人で並んで歩き出す。 言葉にしなくても、二人だからわかることもある。 だけど、言わないと解らないこともある。 真っ赤な夕焼けの中を、二人は一緒の家に帰っていった。 もう二度と、この相手を手放したりしない。 何があっても。決して。 そう、心の中で誓いながら。
ただ、新一に好きだ!と叫ばせたかった(笑) ある歌を聴いて思いついたものです。 んー・・・あえて曲の題名は言いませんが。 ホントは仲直りしないままのが雰囲気としてはいいのかもしれませんが。 でも、それが出来ないのが私です(笑) 戻