The St.Valentine's Day present



ピンポーン

「はい」
『お届け物でーす』
「あ、はい。ちょっと待って下さい」

ハンコを持って玄関に向かい、ドアを開ける。

「この段ボール箱、二つです。ここにハンコをお願いします。」
「ご苦労様です」

営業スマイル、とでも言うのだろうか?
ニッコリと笑いながらハンコを押す。
そして、それを見た配達員が顔を赤くする。
いつもの光景・・(爆)
だから快斗も気苦労が絶えない。
この無防備で無意識な恋人のせいで・・・。

「あ、あの。重いんで、中までお運びしましょうか?」
見るからに慌てているのに、新一は全く気づかない。
「うーん・・。それじゃぁ、お願いしていいですか?」
「はい!」

そう言って中に段ボール箱を運び込み、顔を真っ赤にしながらやっぱり慌ただしく去っていった。
新一はそれを首をかしげて見ていた。


「さて・・と、中身はなんなんだろ・・・?」

新一はそう言って、リビングまで運ぶことはせず、そのまま玄関で段ボールを開ける。
そして、中を見て絶句した。
山のようなファンレターとチョコレート。
チョコがこんなに大量に送られてくる日と言えば、年に一度だけ・・・。
分かり切っているのに、それでも新一はカレンダーを見た。

「・・・・・・・バレンタインだったんだ・・・・」

バレンタイン。それで一番に思い出したのは恋人の顔。

(・・・・快斗も、やっぱり欲しいよな・・・。)

新一がそこに座り込んでチョコの山を見ながら考えていると、

「うっわ、スッゲー数。」

と、後ろから声がした。

「っ快斗!?いつから・・・」

振り返って驚きの声を上げる。

「うん?今だよv」

気配に、と言うか、玄関が開いたのにさえ、全く気づかなかった。
快斗がちゃんと玄関から入ってきたならの話だが・・・。
新一が考えていたせいで気づかなかったのか、快斗がワザとそうしたのか・・・。
前者の可能性の方が高いが。

「ただいま、新一v」
「おかえり、快斗」

そして、キス。

「ん・・・。そーいえば、遅かったな、下見。大変だった?」

リビングに向かいながら快斗に聞く。

「いーや。でも、せっかくのバレンタインだし、ちょっとサービスしてあげようかと・・」

そう言って、不適な笑みを浮かべる。

「・・・きーつけろよ?あんま、なめてかかると、しらねーぞ?」
「んー。その時は新ちゃん、俺のことかばってねv」
「・・・・・・考えとく・・・」

そう言った新一のセリフに快斗はキョトンとした。

「・・・・んだよ?」
「いや、やけに素直だなぁ、と。どしたの?」

なんて、失礼極まりないことを言ってのける。
いつもならここで蹴りが来るはず・・・・だが、

「るさい・・・」

その一言だけだった。
様子がおかしいと思いながらも、すぐに解るだろう、と、快斗は話を進めた。

「まぁ、いっか。あのさ、新一。渡したい物があるんだけど・・・。」

リビングのソファーに座った新一の隣に快斗も座り、そう言った。

「なに?」

首を傾げて聞く新一に一瞬クラッと来たが、平静を保って新一に言った。

「んと、手を出して、軽〜くグーして?」
「?」

何をするのかよく分から無かったが、新一は快斗に従い、言われたとおり手をグーした。
快斗は新一に向かって微笑むとその出させた新一の手を上から握った。

「快斗・・・?」
「手品です。俺か手を離したらそのまま開いてねv」
「う、ん・・」

快斗が“それじゃ”と、そっと手を離す。
そして、新一が言われたとおり手を開くと中にはシルバーのシンプルなリング。
小さなクロスが一つ掘られてある。

「快斗、これ・・・」
「俺からのバレンタインねv」
「あ、りがとう・・・・・」
「どーいたしまして。・・・・・・新一、どうしたの?」

嬉しそうにしながらもどこか沈んでいる新一に快斗は聞いた。

「その・・・俺。バレンタイン、忘れ・・・てて。だから・・・」
「あぁ、それで・・・」

新一が何を言いたいのかわかった。つまり・・・

「プレゼント、なんも用意してないんだ、ゴメン!!・・・なにが、いい・・・?」

そう言って小首を傾げる新一を見て、快斗は顔を赤らめた。

(か・・・かわいい!!すっげ、かわいいっっっ!!)
クルリと新一に背を向け、口元を手で覆う。

「・・・快斗・・?」
「あ、あぁ。ゴメン、大丈夫。んー、特に、これと言って欲しい物は無いんだよね」
「それじゃ、俺が困る。」
「う〜〜ん・・・」
「・・・もしかして、俺からは欲しくない?」
「まさか!!そんなんじゃないって!!」
「でも・・・」

シュン・・・としてしまう新一を見て、快斗は焦った。
正直ホントに、新一が居るだけで幸せで、それ以上の物などないと思っている快斗にとって、
何が欲しいかと聞かれても、答えは“新一”だけなのだ。

「あ、そだ。んじゃさ、新一。今から24時間。ずっと俺と一緒にいてよv」
「・・・・・・・は?」
「だからね?もし、例えば・・警察から協力の要請があっても、行っちゃダメ。
ずーーーっと、俺と一緒に居るのvんでもって、俺の言うこと、なんでも聞くこと!」
「・・・・そんなんで、いいのか・・・?」
「それがいいんだよ!新一と一緒にゆっくり出来る時間なんて、そう無いんだからっ!」
「ん。わかった。快斗がそれでいいならな。」

新一は見ていなかった。ニヤリと不敵に笑った快斗の顔を・・・。
もし、それを見ていたら、新一はその答えを考え直していただろう。

これから、数時間後。
夜になってから、新一はあっさりと快斗の条件を呑んでしまった自分を恨むこととなる。
その日、新一が眠ったのは次の日のお昼近くだったと言う・・・(汗)