メリークリスマスv
聖なる夜
「おせぇ」
クリスマスのイルミネーションがチカチカと目に痛い。
身を刺すような寒さの中、新一は口元までマフラーで隠し、身をすくめて立っていた。
ポケットの中の手も、冷たくて感覚がない。
新一は壁にもたれかかって、目の前を通り過ぎて行く家族やカップルを見ていた。
幸せそうな光景は微笑ましいはずなのに、今の新一にはイラつきと怒りを増す要因にしかならない。
「あのー、お一人ですか?」
そんな不機嫌そうな新一に気付かないのか、女の子のグループが話し掛けてくる。
声をかけられて、新一は隠れてため息をこぼした。
今日、この数分で一体何人に声をかけられただろう。
ナンパをしないと相手がいないなら、こんな寒い日、外に出ないで家の中にいればいいのに、と新一は思う。
というか、俺はそうしたい。
チラッと視線を向けると、女の子が3人。少し緊張気味にこちらを見ていた。
慣れてないんだな―・・。
どうやら後ろの2人に言われてナンパ初体験だったらしい。
「あ、あの・・・」
無言の新一にじっと見つめられて、女の子の顔がわずかに赤く染まる。
「ごめんね、俺、人待ってるから」
にこりと営業スマイルを浮かべながらそう言う。
貼り付けたような完璧な笑顔。普通の、そこら辺にいる女や男ならころっと騙されるだろう。
騙されない人間が新一の周りには数人いるが。
ただでさえ、その待ち合わせの相手に待たされて機嫌が悪いの。
しつこくされたら、どうやって追い払おう、と考える。
しかし、その子たちはそんなにしつこいワケではなく、断りを素直に受け取りお辞儀をして去って行った。
その後姿を見ながら、あ。と思う。
どうせならナンパについて行って浮気でもしてやればよかった。
――――――はぁ・・。
吐いたため息が白く空気に溶けていった。
何やってんだよ、あのばか。いつも、俺より先に待ち合わせ場所にいるくせに。
今日に限ってこんなに遅れるなんて。
時計を見ると、待ち合わせ時間からもうすぐ20分がたとうとしている。
携帯も電池切れ。
帰ろうかなー・・。
新一がそう思ったとき。
「ね、君さぁ、一人じゃん?俺らと一緒に遊ばねぇ?」
「俺は男だ」
声をかけてきた男数人に、一応、念のためにそう言ってやる。
女だと思われたのなら腹が立つが、それで去ってくれるなら見逃してやってもいい。
「別にいーよ、俺ら気にしないし。な?」
でもそうじゃなかったらしい。
男だと分かっていて声をかけてきたのか。
こういう男が一番ウザイ。自分に変な自身を持っていたりする。
まぁ、多少なりとも自身がなければナンパなんて中々出来たものじゃないだろうけど。
てか、男が男をナンパするってどういうことだよ。
「あのなぁ・・」
新一は肩に乗った手を払いのけ、ナンパ男の方を向く。
そのとき、ぐっと後ろから抱き寄せられた。
「なっ!?」
「ごめんっ、新一!遅くなって。・・・で、そちらは?」
明るい声とは裏腹な、冷たい目で男達を見据える。
平然とした顔でそう口にするが、直後ろにある胸が早い鼓動を打っていて、息も荒くなっている。
この寒いのに汗も見える。まったく、そんな素振りは見せないが。
どれだけ急いで着てくれたのがわかった。
男達はそれだけで、舌打ちを残し、去って行った。
新一が振り返る。
「快斗」
睨みとともに発せられた声はとても低い。
「あー・・えっと・・・」
「おっせーんだよ、この馬鹿がっ」
ガッツリと新一の蹴りが入る。
「いっ・・・・!」
「昨日、お前が、今日ここで待ち合わせって言ったんだぞ?6時に。今は何時だ? ん?」
「・・・・6時半です・・・」
「だよなぁ。別に俺の目がおかしいわけでも、頭が変なわけでも、時計が壊れてるわけでもなく、
今は6時半だよなぁ?」
「ハイ・・・・」
新一の言葉に、快斗は頭を下げる。
「何してんだよ!このクッソさみぃ中、30分も待たせやがって!」
「ごめんなさい・・・」
口答えも出来ない。
遅れた快斗が悪いんだから。
「しるか!今まで待ってただけでも感謝しろ。俺はもう帰るっ」
「えっ!?」
ビックリして快斗が顔を上げると、新一は既にきびすを返して歩いていた。
「しんいちぃ〜」
情けない声を出して、歩き出した新一を快斗が追いかける。
「新一・・ねぇ、新一ってばぁ」
「・・・」
返事はない。
「・・・心配かけて、ごめんね?」
「誰が」
「ごめんね」
「別に」
あー、失敗した。と快斗は思う。
絶対に遅刻しない快斗が時間になってもこなかったんだから、新一は不安だっただろう。
出るとき、青子の家でパーティーをやっていた学校の奴や白馬に捕まったせいなのだが、
そんなこと言い訳にもならない。
新一を待たせた事に変わりはないんだから。
「新一」
快斗は新一の腕を掴んだ。
「なんだよ」
「本当にごめん」
ごめん、しか言えない自分が快斗はむかついた。
「だからっ、もういいって!」
「本当に?」
「・・・仕方ねーだろ、終わったことは」
「デートしたかったー・・・」
「遅れてきたお前が悪い。俺に従え。つか、許されただけでも感謝しろ」
まさにその通りだ。快斗ははぁい・・、と頷いて口を開いた。
「なんですかー」
「快斗のメシが食いたい」
「え?」
「家で、2人がいい。外は寒いから・・」
「新一・・」
「なんか文句あんのかっ」
「とんでもない!」
「ついでにDVDでも見ようぜ」
「うん」
家で、2人きりのクリスマスを過ごしたい、だなんて。
あー・・我慢できるかな、俺。
後ろから見る新一が赤くなっているのがわかるから。それが寒さのせいだけじゃないってことも。
だから、期待してもいいかもしれない。
快斗が、新一の冷たい手を握った。
人目の少ない住宅街のためか、新一はされるがままだった。
それどころか、快斗の手を握り返してくる。
快斗は笑みを深くして、ぎゅっと強く握った。
手を繋いだまま家に帰る数十メートル。とても暖かかった。
「そう言えば、新一。材料あるの?」
「さぁ?」
玄関を開けて家に入る。
「さぁ、って・・・ないの?」
「快斗が用意してないならな」
「・・・・・買いに行かなきゃ!?」
「いってらっしゃい」
2人のくぐった扉が、ガチャンと閉まる。
雪が降り出した。
**Happy Merry Christmas**
久々に書いた快新!
こんなんだっけー?と思いながら書きました。
クリスマスってことで、久しぶりってことで今月フリーにします。
こんなんでもいい方は貰ってやってください。
んでもって、拍手にて貰ったと一言いただけると嬉しいです。
このあと、快斗は雪の中晩御飯の材料を買いに行くんですよ。一人で。
帰ってきたら、新一と、新一が用意し暖かい飲み物に向かえられるんです。
で、夜はベッドっでイチャイチャして、明日はデートに行ったらいい。
あぁ、快斗ってば甘やかされてる!(笑)
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