意味なし
考えてみた。
ベッドの中で、情事の後で。
快斗の腕の中で心地よい余韻に浸りながら、
新一が口を開いた。
「俺さ、考えてみたんだけど・・・」
「ん?」
「俺たち、出会わなかったらどうしてたんだろうなー」
「突然だね」
「突然思いついたんだもんよ」
新一の言葉に、快斗が苦笑を浮かべるのが、気配でわかった。
「だってさ、俺が探偵じゃなくって、快斗が怪盗じゃなかったらさ」
「それはさー・・」
「出会って無かったかもだろう?」
「まぁ・・・」
「さらに。俺がコナンになってなかったら、お前の存在すら、知らなかったかもしれないんだぜ?」
「そーだねぇ」
快斗が興味なさそうに相槌を打つ。
俺だって、らしくないのはわかってるし、こんなの意味が無いってわかってるけど。
それでも、たまにはいいだろう。こんな意味のない話も。
「快斗は青子ちゃんと、俺は蘭と付き合ってたかもしれない」
「あー・・新一たちはどうかわからないけど、俺と青子はなぁ」
「いーや、そんなことないって」
「普通の高校生で、平凡な生活送って、大学行って、結婚して」
「うん」
「一生、交わることなく過ぎてたかもしれないんだぜ?」
「確かにね」
俺は抱きしめられたまま、快斗を見上げた。
「凄い確立だと思わねぇ?」
「確かに。でも、それを言うなら、世の中で上手く行ってるカップルはみんな
凄い確立の中で出会ってるんじゃ?」
「そーだよ。だから、俺たちもそのうちの一組だろう?」
そして、もう一度訊いてみた。
「俺たち、出会わなかったらどうしてたと思う?」
「それはさ、俺たちの生い立ちから見直さなきゃいけないよ?」
「ん?」
「俺は、親父がキッドじゃなかったら、俺が17になって、部屋のあのパネルに手をかけていなかったら。
手品に興味なくて、親父を尊敬してなかったら」
「あー・・そうかぁ。でもさ、だからって、快斗がキッドを継ぐとは限らないだろう?」
「どーだろうねー」
「快斗が、そんな男前な性格じゃなくって、なんにでもしり込みするような奴だったら、キッドにはなってないだろ?」
「俺の性格形成から始まるの?」
「だってそうだろ? 俺は・・。親父が推理小説家じゃなかったら、俺が推理に興味なかったら。
好奇心がなかったら。・・コナンにならなかったら。」
「あ、新一がコナンにならなくても、俺たちは多分出会ってたよ。時計台のヤマのとき、
俺新一にすっげー興味津々だったから」
「そうか。でも、俺が相手にしたかなー」
「あ、ひどい」
そこで、一息つく。
本当に、こんなこと、意味がない。
だって・・・。
「もっと言えばさ?俺と新一が、この世に生まれたことが、まず第一のキセキでしょ?」
「・・・・まぁな」
「だからさ、言っても仕方ないんだよ。こうなる運命だったんだ。偶然じゃなくて」
「偶然も、必然になるって?」
「そうそう。大体、こんな言い合いは意味が無い」
そう、だって・・・。
快斗の顔が近づく。
にっと笑って、俺の顎に手がかけられた。
精悍な顔が近づいて、唇が、触れ合いそうになる。
吐息が触れ合う。
「もう、俺たちは出会ったんだから」
「あぁ・・・」
距離がゼロになって、吐息と唾液と舌が絡まりあう。
「んん・・」
何時の間にか、俺は押し倒されていた。
「もーいっかいね」
「疲れる」
「明日休みじゃん、ね?」
「明日、お前のシゴトを休んで看病してくれるなら」
「しょーがないな」
「って、マジで?」
「警察の皆さんが、暗号の読解間違いをしてたってことにしましょう」
「・・・インチキ・・」
「だから、抱かせて」
耳元で楽しそうに囁かれる。
低いその声は、俺の性感を刺激する。
快斗の唇と吐息が、そのまま、俺の耳をくすぐった。
「っん、・・・かいと・・・」
俺は吐息でそう囁いて、快斗の首に腕を回した。
意味なし突発SS。
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