アイスコーヒー
「おい、快斗」
「なに?」
「うざい」
「なにが?」
「・・・・・」
漫画ならば、無数の怒りマークが入っていることだろう。
新一はいらつきを沈めようと、静かに息を吐き出した。
「新一〜?」
「なにが?何がって、聞くのか?自覚なしか?今、この場に俺にとって不快指数を高めるものは、
お前以外にありえないだろう?快斗」
「えー?なんでさぁ、俺、こんなにおとなしくしてるのに」
「あぁ、それはいいことだな? だがな。冷房の温度を上げられたこの部屋で、
今のお前はウザイ以外の何者でもない」
おとなしくしている、と主張する快斗は、新一を後ろから包むように抱きしめている。
冷房温度27度という、とても良い子の温度設定を保っているこの部屋では、新一にとって、
快斗の温度は暑くて邪魔でしょうがなかった。
「ひどいよ、新一!恋人に向かって!」
「んなことは関係ないな。とりあえず、俺から離れろ」
「新一ぃ」
「蹴られたいか?それとも、この分厚いハードカバーの角で、殴られたいか?」
「どっちもいやです」
「暑っ苦しいんだよ。しかも、本が読みにくい。じゃま。うざい。気が散る。どっかいけ」
「うぅ、ひどいよ、新一・・」
言いながら、本当に実行される前にしぶしぶ腕を離す快斗を、新一は冷たい目で見やった。
新一はふぅ、と体を伸ばすと、再び本に顔を戻した。
それを見て、快斗が動こうとしたとき、新一がそのままの格好で声をかけた。
「あ。快斗。いなくなるまえに、アイスコーヒー」
「・・・・はぁい・・」
どんな扱いをされても、やっぱり新一の頼みには逆らえないのだ。
頼みというよりは命令、恋人というよりは下僕扱い、・・かもしれないが。
手早く、だけど新一に出すのだからと丁寧にアイスコーヒーを淹れて、
もちろん、自分の分とお菓子も忘れずに。
お盆に乗せたそれを運ぶと、音もなく、新一の前にグラスを置いた。
「どーぞ、アイスコーヒーですよー」
「お、サンキュ」
しおりを挟んで本を横に置くと、新一は冷たいグラスに手を伸ばした。
指先がひやりとする。冷たくて気持ちがいい。
こくり、と喉を鳴らしてアイスコーヒーを飲む。
「ん、うまい。やっぱり、快斗の淹れたのが一番だな」
「ほんと?」
「おう」
思いがけない新一からの褒め言葉と笑顔。
思わずうっとり見惚れてしまう。
「・・・・」
「どーしたんだよ?」
黙ったまま、じっと見つめてくる快斗に首をかしげて、新一が尋ねる。
「んーん、なんでもないよ」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、満足げに首を振る。
「?変なやつ。お前は?のまねぇの?」
「飲む飲む。へへ、新一」
「んー?」
「大好きだよ」
快斗が、見ている方が恥ずかしくなる優しい目で、蕩けそうな笑顔で、
まっすぐに見つめながらそんなことを言ってくるものだから。
新一は思わず、真っ赤になってしまって。
「・・なーにいってんだか、ばーか」
すごく恥ずかしくって、ごまかすために、そっぽを向いた。
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