出会いは此処から



出会いは此処から






「あ・・」

快斗は思わず小さく声を上げた。

「なに?快斗・・?」

隣の青子が首をかしげながら聞いてくる。

「なんでもねぇよ」

街中の喫茶店。
青子が最近お気に入りらしい此処に、快斗は半ば強引に連れてこられていた。

めんどくさい気持ちと、それでも幼馴染を無碍には出来なくて。
快斗は目の前で嬉しそうにケーキの乗ったパフェを頬張る青子。
自分もちゃんとアイスの盛り合わせを食べているのだけれど。

そのとき、たまたま目に入ったその人影。
快斗は思わず、外の人ごみを見つめた。

−−アイツだ。

隣には彼の幼馴染。
なるほど、此処の店が女子高生に人気、というのは本当らしい。

彼と、彼女。その隣にはもう一人女の子。

鈴木財閥のお嬢様もご一緒か。

自分と同じ、いや、それ以上に幼馴染の女の子に弱い、彼のこと。
きっと断りきれず、しぶしぶにやってきたのだろう。
仕方ないなぁ、と言う苦笑混じりに。嫌々では、なく。


店に入ってきた彼と彼女たち。
何気なく、入り口のほうをみて、視線が釘付けになった。

ばっちりと、目が合ったのだ。
名探偵、工藤新一と。焦がれている、彼と。

その視線は逸らされないまま。
そして、ふ、と名探偵が笑った。

ドキリ、と心臓がはねる。

会いたい。
こんなに近い距離にいるのに。
声をかけることも出来ない。
だって、この姿ではハジメマシテだから。


彼女たちに呼ばれて、視線を外す名探偵。
彼は気づいている。
気づいているんだ。彼は・・俺のこと。
きっと、すべて。


しんいち・・しんいち。もう一度・・

心の中で呼ぶ。
もう一度だけ、視線を交わしあいたい、と。もう一度だけ。

「快斗?もう、どうしたのよ?」
「え、あ、あぁ・・」

思いっきり見つめていたのだろう。
青子に視線を戻すが、俺がどこを見ていたのかもう、ばれている。
青子が振り返って、そちらを見る。

「あ、あれって、もしかして工藤君?」
「ん、あぁ・・」
「なに、快斗、キッドじゃなくて、工藤君のファンなの?」
「俺は、俺がすげぇって思ったやつはみんな尊敬の対象だっての」
「ふぅん?ねね、じゃあさ、声かけようよ!」
「ばーか。んなことすんなよ。いくら有名人でもプライベート邪魔しちゃ悪いだろうが」
「えぇ?ちょっと、ね?だって、お父さんから話し聞いて、私、
  すっごく工藤君に興味あったんだもん!キッドなんかより、断然大好き!」
「そーかよ。−ったく、勝手にしろっての」

内心、青子に感謝していた。名探偵との、昼間の接点が出来るかもしれない。
・・・大好きってのは、ちょっと・・むかつくけど。
まぁ、そういう意味じゃないってわかってるから、我慢がまん。

泥棒の分際で、と思うけれど、それでも、近づいきたいのだ。
好きなのだ。どうしようもなく。
それに、彼が俺の正体に気づいているのなら、今更どうにもならない。
彼からは逃れられない。
逃れる気もない。困ったことに。

彼らのところに向かった青子が嬉しそうに戻ってくる。

「ねぇ、快斗!一緒してもいいって!」
「よかったなー」

気のない返事、を取り繕う。

「ほら、ぐずぐずしないで行くよ!」
「わーったって、こら、青子!てめぇ、自分の分くらい自分で持てよ!」

工藤新一の近くにいける。言葉を交わせる。

「おそーい!」
「おらよ」

そういって、青子の前にパフェをおいてやる。
ついでに青子のかばんも渡す。
そして、席に着く。
彼の、新一の、前。

「はじめましてー、青子がワガママ言ってごめんね」
「いーえ、全然!私たちも知り合えて嬉しいです、黒羽快斗さん!」
「俺のこと知ってるの?」
「えぇ、文化祭シーズンになると、いっつも名前聞きますから。マジシャンなんですよね?」
「うん、まぁねー。まだアマチュアだけど」

俺はそういって、くるりと手を翻し花を一輪ずつ取り出す。

「どうぞ、お近づきのシルシに」

そういって、幼馴染の彼女と鈴木財閥のお嬢様に。
そして、目の前の名探偵に。

「俺も?俺、男だぜ?」
「かんけーないって!お近づきの印だから〜」

にっこりと笑って、花を差し出す。
それを受け取ってくれた彼に、笑みも深くなる。

「サンキュ」
「どーいたしましてー、俺、黒羽快斗」
「あ、私は、中森青子!」

俺の自己紹介につられて、青子も名乗る。
不自然にならないように。自然に。なるべく。
口説く前に逃げられたら困る。

「私は、毛利欄です」
「私は鈴木園子!」
「・・・俺は、工藤新一」
「知ってるよ、名探偵でしょ?」
「知ってるのか」
「そりゃ、ニュース見たり、新聞読んだりしてる人は知ってるでしょ」
「最近は、メディアに顔出してないんだけどな」
「出始めた当初から知ってるからね〜」

女の子は女の子同士、色々な話に花が咲いているらしい。
なので、俺たちは遠慮なく二人で話していられる。

「お前、それ・・甘くねぇの?」
「んー?甘いよ?俺、甘いの好きだから」

そういって、溶ける前に!とアイスクリームを食べきってしまう。

「うわー。あまそー・・」
「そりゃ、アイスだからね〜。あっちのよりもマシだと思うけど?」
「ありゃ問題外だ」

隣の席の青子たちが食べているパフェをさす。
いやそうに顔をしかめる新一を見て、俺は笑ってしまった。

「笑うなっての」
「あはは、ごめんごめん。嬉しくって」
「嬉しい?」
「うん、嬉しいの」

ちらり、と目を見つめると、新一は、あぁ、とうなづいた。

「いいのかよ、此処でそんな話」
「誰もわかんないって」

快斗は少し目を伏せて、小さく笑いながら続ける。

「こうやって、会えて、話すことができて、嬉しいんだよ。
 俺は、まだ、すべて終わってないけど。それでも・・・」

それでも、ずっと会いたかった。
日常の中で。

「・・・俺も」
「え?」
「俺も、あえて嬉しいぜ?」

KID、と口が動く。
それを見て、笑ってしまった。
嬉しいと思ってくれたことが、嬉しい。
・・・だから。

「とりあえず、自己紹介から始めたいんだけど?」
「さっき名乗ったろ?」
「もっと、色々さ。普段の生活とか、趣味とか。誕生日とか、そういう、自分の本当のプロフィール」

はじめまして、から始めたい。

「あぁ、そうだな。いいかもしれない」

お前となら。

「とりあえず、新一って呼んでもいい?で、呼んで欲しいな、俺の名前」
「快斗、って?」
「うん」
「ま。いいぜ?」

俺は本当に嬉しくって、満面の笑みを浮かべた。

「じゃさ、新一。うちに遊びに来ない?」
「しばらくは無理。本読むから」
「・・・じゃ、俺が行く。押しかけていくから」
「おう、それならいいぜ。いつでも」

「じゃ、あした!明日行くからっ」
「あぁ。待ってる」

新一が優しく笑って、俺は気合を入れなおした。

絶対に、手に入れる。誰にも渡さない。俺のものにしてみせる。

−−覚悟してろよ、新一!

この時点で、とっくにお互いの心がお互いのものだなんて、どちらもまだ気づいてないけれど。


とりあえず、ハジメマシテの握手と、自己紹介から始めましょう。

二人がお友達から恋人同士になるのは、もうすぐ後の話。








あは☆(笑ってごまかそう作戦・おい) いやー、なんかまとまりがないって言うよりも、・・・しつこい?(笑) まー、うん!ねっvv(え、なに) とりあえず、これは「ゆうきのかけら」のゆうきさんにプレゼント・フォー・ユーです♪