「あーあ、降ってきた・・・。」

新一は窓の外を見ながらつぶやいた。

(快斗・・・大丈夫かなぁ・・・)

快斗は今、実家の方に帰っているのだ。
忘れ物があるとかなんとか・・・。
リビングのソファに座って本を読んでいた新一は、本を閉じて立ち上がり窓の所まで行った。

(雨、思ってたよりもひどいな・・・。やみそうにもないし・・・)

迎えに行こうか、どうしようか・・・。
新一は雨が降っている外を見ながら考えていた。
ろくに見てもいないのに、つけっぱなしのテレビの音と、激しく降っている雨の音だけが部屋の中に響く。
うるさい筈なのに、静けさが耳の奥にこだまして痛かった。
新一は雨が嫌いだ。ジメジメしていて鬱陶しい。
でも、そんなのは建前。
確かにそれも理由の一つだが、正確には一人でいる時の雨が嫌いだ。
・・・・特に、快斗に会うようになってから・・・。
雨はすべてのものを消す。
犯人の残した証拠も、手掛かりも、人の声、温もり、気配・・・。
すべてのものを流してしまうようで・・・。
こうして部屋の中で外を見ていると、まるで鉄格子の中に閉じこめられた様で、淋しくなるんだ。
ひとりぼっちになったみたいで・・・。
テレビをつけてるのだって、一人の寂しさを紛らわすため。
快斗がいなくって、静かすぎるのだ。この広い家の中じゃ。
前はここまでじゃなかった。
慣れてしまったのだ、快斗の存在自体に。
彼が、ここにいることが当たり前になってしまっていたのだ・・・。
いつも五月蠅くて、鬱陶しいくらいひっついてくる快斗が、やっぱり必要な人なんだと、こういう時に実感する。
すごく恋しくなる。
新一はテレビを消した。
雨の音だけがする。

(この音も、テレビみたいに消せればいいのに・・・)

窓を開けて外に出る。
雨が強く打ち付けてくる。痛いくらいに・・・。
新一も、なんでこんなことをしたのが分からなかった。
ただ・・、なにか、探偵をしている自分が、事件を解決した後に感じるやるせなさや、自分に感じる無力感。
そして、今のこの気持ちを流してくれそうな気がしたから。
雨の中にたたずんで、空を見上げたまま、目を閉じる。
冷たい雨が肌に刺さるのが気持ちよく感じる。

「・・・・快斗・・・・・」

この雨だ。今日はもう帰ってこないで、実家の方に泊まるんじゃないだろうか。
誰かに側にいて欲しいと願うとき、やっぱり、一番好きな人に隣にいて欲しい。
新一の瞳から涙が流れる。
それは、雨と一緒に頬を流れ落ちる。
どのくらいそうしていただろう。
不意に声がかかった。

「新一!!!」

新一は、目を開けてゆっくりと振り向いた。

「・・・・・・・快斗・・・・?」

部屋の中から新一を見つめている快斗がいた。
顔が少し紅く見えるのは新一の気のせいだろうか・・・?
新一がじっと快斗を見ていると快斗がこっちに歩いてきた。

「ど・・・して・・?」
「どうして?じゃない!!何やってんのさ、こんなずぶ濡れになって!!!風邪引くでしょ!?」
「あ・・・快斗、が濡れる・・・」

新一を抱きしめてくる快斗に新一が言う。

「俺のことはいいの!!新一・・・こんなに冷たくなってんじゃん。一体いつから・・・。」
「・・・わかんない・・・」
「もう!ほら、入ろ?」

快斗は新一から離れようとした。
が、新一が快斗を抱きしめて離さない。

「新一・・・?」

新一は頭を軽く振るだけだ。

「新一・・・どうしたの・・・?」
「・・・・もう、ちょっと、だけ・・・・抱き、しめてて・・・欲しい・・・」
「新一・・?・・・・・泣いてる・・・?」

図星だったのか、ピクッと新一の肩がふるえ、快斗に背中に回している腕に力が入る。

「・・・や、やだ・・?」

新一が快斗を見上げて訊く。

「ううん。いいよ・・・・」

きつく、きつく新一を抱きしめる。

「快斗・・・」

新一が快斗を呼ぶ。

「ん?」

顔を上げた快斗に新一はそっと、触れるだけのキスをした。

「し、新一!!?」

快斗にとっては、嬉しいことこの上ないのだが、どうしたんだろう・・・、新一は。

「キス・・・して、欲しい・・・」

新一から、キスをねだってくる。
快斗がその願いを叶えないわけがなく、そっと、唇を重ねる。

「・・・・・どうなっても、知らないからね・・・」

今の新一は最高に色っぽいのだ。
快斗にはこの状況で新一に手を出さないで我慢できる自信は、ない。
啄むようにしていたキスはだんだんと深いものに変わっていき、二人は雨の中で抱き合ったまま、キスを繰り返していた。


そして、家の中に入った後、新一が快斗に啼かされたかどうかは、二人にしか分からない。