I wont to....
あぶないなぁ、とは思っていた。
なるべく早く帰らないと、とも。
けれど、事件が思ったよりも長引いてしまったので、それは叶わなかった。
その時はほんの少しだけだったから、途中まで電車だし、走れば大丈夫だと思ったんだ。
ザ―――――
小雨が大雨に。
傘なんて、持ってない。
「やっべ」
新一はあわてて近くの店に入った。
「あーあ、濡れたなぁ・・」
一気に大雨になるなんて、反則だろ。
ブレザーを脱いで、店を見渡す。
(そーいや、ここ、なんの店だ?)
新一が駆け込んだ店は、雰囲気のいい喫茶店だった。
「へぇ・・」
「いらっしゃいませ」
「あ、こんにちは」
こぢんまりとした店内には二人掛けテーブルが5個。それからカウンター席。
新一はカウンターに座った。
「いい店ですね」
「ありがとうございます。今日、オープンしたばっかりなんですよ」
「へぇ、あなたが店長さん?」
「いいえ。店長は知り合いなんですよ。私はバイトです」
そういいながら、彼はいつの間に入れたのか、コーヒーの入ったカップを新一に差し出した。
「え?」
「どうぞ。あなたは、初めてのお客さんです。これは私のおごりですよ」
「いいんですか?」
「えぇ。その代わりに、お気に召されたら、また来て下さい?」
「・・・喜んで」
いい香りのコーヒーを一口飲んで、新一は微笑んだ。
話している間、店には誰も来なかった。
二人は時間を忘れて、世間話やちょっと難しい話に花を咲かせた。
気づけばもう3時間も過ぎていて、雨はとっくにやんでいた。
「あ、雨・・上がりましたね」
「本当だ」
新一は席を立った。
おごってもらったコーヒーいっぱいでずいぶん長居してしまった。
「あ、店員さん。名前、教えてくれますか?」
「・・・苗字は黒羽、といいます。名前は、そうですね。
次に貴方が来てくださったときにお教えしますよ。工藤新一さん」
名前を呼ばれて、新一は驚いて目を見開いた。
それを見て、黒羽と名乗った店員がクスリ、と笑った。
「貴方は有名人ですから。テレビや新聞を見る人なら誰でも知っています」
「昔の話ですよ」
「いいえ、とんでもない」
言われて新一は困ったように笑った。
「では、黒羽さん。次、楽しみにしています」
「また来て下さるということですね」
「ええ」
「こちらこそ、楽しみにしています」
黒羽のありがとうございました。の声と丁寧なお辞儀に見送られて、新一は店を出た。
雲の隙間から差し込む太陽の光のまぶしさに、目を細める。
気分は上々だ。
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