I wont to....2
新一は学校の帰りに昨日の喫茶店によろうとした。
けれど事件が入ってしまい行くことができなかった。
その次の日も事件。その次の日も事件で、その次の日は蘭と園子につかまってしまった。
そんなこんなで、初めて行ったあの日から一度も行くことが出来ないでいた。
「はぁ・・・」
今日も事件だった。
新一は深いため息をついて、事件現場からの帰り道を歩いていた。
とても、疲れる。
(あの店にいけなくてストレスでも溜まってんのか?)
そういえば、この道って・・。
帰り道、偶然か、それとも無意識になのか。
たまたま通りかかった例の店の前。
「――――え?」
明かりがついている。クローズの札はかかっていない。
(まだ開いてる?)
今は夜の11時。喫茶店がこんな時間までやってるのか?
新一は扉に手をかけ、そっとドアを開いた。
カランという音が静かな店内に響く。
店の中には、彼が一人。
「・・・いらっしゃいませ」
彼、黒羽は、こちらを見て一瞬驚いてから嬉しそうな顔をした。
「・・・こんな時間までやっているとは、思いませんでした」
「本当は夜の8時までなんですけどね」
「え?」
「基本は。だけど、ほら。個人の趣味でやっている店ですから。
その日の気分で営業時間が変わるんです」
「へぇ」
カウンターから出てきた黒羽は、店の扉を開け、札を【CLOSSE】にしてから戻ってきた。
「あ、閉めるところでした、か?」
「いえいえ。今日はあなたのために開けていたんです。
だから、もう【OPEN】の札を出している意味はありません」
「・・・俺の、ため?」
「なんとなく、きてくれそうな気がして」
そういう黒羽に、なんだか嬉しくなって新一は微笑んだ。
「コーヒー、いただけますか」
「もちろんです」
黒羽はカウンターの中に戻り、新一は前回と同じ、カウンターの席に座る。
黒羽がコーヒーを入れているところを見つめる。
それだけで、癒されるような気がした。
「どうぞ」
入れたてのコーヒーはいい香りで、とても温かい。
すっと差し出されたコーヒーを口に運ぶ。
少し、甘かった。
「お疲れのようなので」
「ありがとうございます」
カウンターの中で、黒羽も座ってコーヒーを飲んでいた。
「・・・名前、聞いてもいいですか」
「あぁ、そうでした。・・快斗、です」
「黒羽、快斗さん」
「はい」
「黒羽さんは学生なんですよね?」
快斗でいいですよ。黒羽は言った。
そして、
「そうですね、では、年と学年は次回でどうですか?」
いたずらっぽく言う快斗に新一は小さく笑った。
「また楽しみが増えました」
「あなたの楽しみの一つになれるなんて、光栄ですね」
他愛のない会話。
けれどテンポよく進んでいく。
一を言って十を分かってくれる相手。
居心地のいい空間。
☆
「では、そろそろ失礼します」
12時を少し回った頃。新一がそういった。
「そうですね、もう遅い」
「もっとお話したいです」
「私もです」
新一が席を立つ。快斗がコーヒーカップを下げた。
「あぁ、そうだ。快斗さん」
「なんですか?」
「俺のことも、新一と呼んでください」
振り返って、にっこり笑って新一がそういう。
わずかに目を細めた快斗が、こっくり頷いた。
「そう、呼ばせてもらいます。新一」
「じゃあまた来ますね」
「お待ちしています」
なんだか心がすっきりした。
新一は、店をでて家に帰った。
早く、また店に行きたい。
―――――彼に会いに。
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