First Love 2話

First Love 2








黒羽快斗が転入してきてから一ヶ月。
快斗はすっかりクラスといわず、学校の人気者だった。
そして、俺と快斗はすっかり仲良くなっていた。
どのくらいかというと、俺を見つけたかったら黒羽を探せ、というのが暗黙の了解になるくらい。
俺に手伝いを頼めば、もれなく黒羽がついてくる。
その逆も然り、だ。



「くーどぉ。な、ゴールデンウィークってなんか予定あんの?」

帰ろうとして腰を上げたところに、突然後ろから抱きつかれて、新一は椅子に座りなおした。
こんなことをしてくる奴なんて一人だけだ。
振り返ると、ニコニコと笑顔を浮かべた快斗の姿。

「いや、特に何もねーよ、今のところ」
「マジで?じゃ、泊まりにいってもいい?」
「おう、こいこい。あ、でも相手できるかわかんねーぞ」
「大丈夫ー。ぜんぜんオッケーだよ。家で旦那様の帰りを待ってる奥さんやってるから」

俺に抱きついてニコニコと冗談を言う黒羽をそのままに、俺は呆れて言葉を返した。

「新婚ごっこかよ?」
「あはは〜。家のことは何でもやるよ」
「ま、飯を食いっぱぐれることはないだろうな」
「あ、またちゃんとご飯食べてないんだ?」
「いや、なぁ?時間がねーんだよ・・・」
「もー。んじゃ、俺は家かえって、着替えとって、ご飯の買い物してから新一の家に行くから」
「おう、待ってる」
「後でねー」

走って教室から去っていく快斗を見送って、新一も、帰るか。とかばんを持って立ち上がった。

教室の中は新一の姿が見えなくなったのと同時にざわめき始める。

やっぱりあの二人・・・。と。

工藤と黒羽が付き合っている。
あまりに仲のいい二人を見て、誰が言い出したのか、いまや知らない人はいないこの噂。
否定しないことも噂に拍車をかけているけども・・。
そんな事実は全くない。
けれど、その噂の信憑性を高めているのも、やはりこの二人だった。



黒羽がくるなら客室の掃除・・・いや、用意が面倒だな。俺の部屋でいいか?
楽しみだな。
そう思って、新一はそう思った自分に驚いた。
自分の家に友人が泊まりにくることも初めてだし。
そうじゃなくても、お泊りを楽しみにしている自分もまた初めてだ。
けどま、嫌じゃないんだから仕方ないよな。

傍目にはわからないが、親しい人が見たらすぐにわかるくらいの機嫌のよさで、新一は自分の家の門を開けた。

「あ、工藤君」

後ろからかけられた声に、振り向くと、見知った顔があった。

「土谷・・?」

そこには、同じクラスの土谷慶介がいた。

「こんなとこで何やってんだ?」
「黒羽君が、今日泊まりに来るって・・・」
「ん、あぁ。そうだけど?」
「工藤君と黒羽君が付き合ってるって、本当なの?」
「いや、違う・・けど?」

どこか切羽詰った様子の土屋に、なんとなくヤバイな、と思った。
下手に刺激しないほうがいい気がする。

噂を否定すると、土谷が安心したように笑顔を浮かべた。

「よかった!・・そうか、やっぱり噂は噂だよね。本当によかった」
「って、お前。んな事確かめにきたのか?わざわざ。んなこと、学校で聞けばいいだろう」
「そ、そんな!いや、違うんだ。本当は・・その。俺、その・・工藤君に話が!」
「だから、なんだよ?」
「・・・っ、好きなんだ!」
「へ?」

がしっと肩を捕まれる。
ガシャンっと強く門に押し付けられた。

「って・・」
「ずっと、工藤君が好きだった!」
「おい、ちょ・・土谷!やめろっ」
「黒羽君に、渡さない・・・」
「俺と黒羽はそんなんじゃねーよっ! おい、やめろっ」

体を押しのけようとするが、思いのほか、力が強い。

「黒羽君が泊まるって、聞いて・・・。俺、冷静じゃいられなくてっ」
「わかったから、落ち着けって!」

なんとか説得を試みるが、冷静さを欠いている土谷には届かない。
段々と土屋の顔が近づいてくる。

「嫌だっ!やめろっ」

そのときだった。

「なーにしてんの?」
「くろ、ば・・!」

鞄にスーパーの袋を下げた黒羽がそこに居た。

「えーっと、土谷くんだっけ?」
「工藤君は、渡さない・・・」
「アンタの意見は聞いてないんだ。俺が怒る前に、さっさと放してくんないかな?」
「黒羽・・・」
「工藤君は俺のだっ!」

土屋はそう言うと、黒羽の登場で安心して気を緩めていた新一にキスをした。

「っ!?」

嫌悪感に体を震わせて、新一は思いっきり足を上げた。
蹴飛ばそうと思った。
しかし、それよりも先に、土屋の体が離れた。

「俺は、放してって言ったんだよ?」

そう言う口調は穏やかだが、まとう空気は竦むほどの怒気を纏っていた。

「く、黒羽っ!」

慌てて止めに入る。

「黒羽。俺は平気だから。早く中はいろう、な?」

まだ怒りが収まらないらしい黒羽の腕を引いて、俺は家の中に入った。







気持ち悪い。
気持ち悪くて仕方なかった。

別に同性愛に反対する気も、偏見を持っているわけでもないけど。
想いを寄せられるだけなら仕方がないと思うし、個人の自由だと思うけど。
実際にこういうことをされるのはまた違う。

玄関で座り込んだ俺を、黒羽が覗き込んでくる。

「工藤。ごめん・・平気か?」
「ん。大丈夫。ちょっと顔洗ってくるから、リビング行っといてくれ」
「・・・わかった」

俺は黒羽の顔を見ないまま、洗面所へ行った。

顔を洗って、唇を擦る。何度も拭うようにして擦ったから所々血が滲んでしまった。

「きもちわりぃ・・・」

はぁ、とため息を付いて、俺は黒羽の待つリビングへ向かった。

俺が戻るまでの間に買って来た食材を冷蔵庫にしまったらしい。
黒羽はキッチンからカップを二つ持って姿をあらわした。
広いソファーに並んで座って、黒羽が俺にコーヒーを渡してくる。

「ごめんな、工藤。俺・・いたのに・・」
「黒羽のせいじゃねぇよ。気を抜いた俺が悪い」

本当に黒羽のせいじゃないんだ。
俺が油断したせい。

「俺、泊まって平気?」
「は?」
「だって・・・嫌じゃねぇ?」
「何でだよ。平気だって。・・だって、黒羽だぜ?」

俺はそう言うと、黒羽の肩に頭を預けた。

「黒羽なら、平気だ」
「・・・・あんま、気にすんなよ」

黒羽が俺の頭をぽんぽんと撫でてくれる。

「別に気にしてねぇよ」
「ウソつけ。結構へこんでるくせに」
「・・・・・」

黙った俺に、黒羽は笑った。

「ほら、気にしてる」
「だって・・、仕方ねぇだろ・・・」

自分がこんな目に合うなんて思ってなかったんだから。

「俺は女が好きだ・・」
「俺だって。 でも、工藤ってば美人だからなぁ」
「って、お前・・・」
「大丈夫。工藤は俺の友達だから。やばくなったら助けてやるよ」
「バカ言ってんなよ。自分のことくらい、自分で守れる」

そう言いながらも、黒羽の言葉を嬉しく感じだ。





しばらくそのまま・・黒羽の肩に頭を預けたまま・・時間が流れていった。
近くに感じるぬくもりが嬉しくて心地いい。


だから、晩飯の用意をするからとキッチンへ向かおうとした黒羽を、俺は思わず服を引いて、引き止めて止めてしまった。

「え、あ・・っと。俺も一緒に作る」
「手伝ってくれんの?ありがと」

断られなかったことに安心して、俺は黒羽の後について言った。

手際よく指示をして、料理していく黒羽を見て、本当に主夫だなと思う。
そう思って思わず笑ってしまった。



黒羽と居ると落ち着く。
無条件の安心感がある。
不思議だった。

きっと、キスも・・・黒羽だったら・・。
そう思って、新一はハッとした。俺、今何を考えた・・・?

俺は慌てて頭を振って考えたことを飛ばした。


晩御飯を作りながら、黒羽は悶々としていた。

目の前で工藤がキスされて、思わずカッとなって気付いたらあの男を殴っていた。
あの時の自分の気持ちに戸惑う。
なんで、俺は冷静さをなくしたんだろう。
いくら工藤が大事だと思っても我を忘れるくらい、どうして俺は動揺したんだ?

そして同時に感じだ優越感。
自分は工藤に頼られて、そばに居れる。信用されている。
あの男とは違う。

なんでだか工藤を見るとドキドキする自分が居る。
唇に目が行って仕方がない。

工藤は、大事な友達だ。
・・・友達か?本当に、工藤を友達だと思ってるのか?
大事だけど。
傷つけたくない。守りたい。
誰にも触れさせたくないんだ。

そこまで考えて、自分の思考と意図的に止める。
やめよう。工藤は友達だ。
ここから先は気付いてはダメだ。
少なくとも、今はまだ。
踏み込んじゃいけない。

工藤は、友達だ。

そう言い聞かせて、手際よく夕食を作った。





「うっわ、うまそう!」

出来上がった食事をみて、工藤が声を上げる。

「って、工藤も一緒に作ったじゃん」
「洗ったり切ったりしただけだもん。旨そ」
「すっげー辛くしたから」
「やりぃ」

余計なことを考えようにと没頭して真剣に作ったら豪華な夕食になってしまった。
本格的な中華尽くめだ。
メインは麻婆豆腐。

「ごめんな、黒羽。気ぃ使わせて」
「そんなんじゃないって」
「ん。でも、ごめん。サンキュな」
「そんなにごめんって言うなら、言うこと一つ聞いてもらおうかな」
「なんだよ?」

工藤はすっかり食べる体制に入ってる。

「名前」
「ん?」
「快斗って呼んで欲しいな。俺は、新一って呼ぶから」
「なんだよ、そんなことか?いいぜ。快斗」
「ありがと、新一」

いただきます、と丁寧に挨拶しておいしそうに出来立ての夕飯を食べる新一を嬉しそうに見つめながら、快斗はそういった。



  




すげーだめだめな気がする。 上げてみたけど、もしかしたらすぐに下げるかも(汗)