10  素直になりたい








「好きだよ、新一」
「大好き」

快斗は毎日のように俺を抱き締めてはそう言ってくれる。
俺は、それに相槌を返すだけで、まだ、一度も。
快斗に 好きだ と言ったことがないんだ。

俺なら、絶対不安になる。

だから、俺も快斗に好きだって言おうとしたんだ。
なのに、快斗を前にすると、どうしてだか、言葉が出てこない。
もう、何度言いそびれたか・・・。
そんなこんなで一週間もたってしまった。
どうすればいいんだ。しっかりしろよ、俺。










「ただいま」
「お帰り新一!」

家に帰ると、なぜか快斗がお帰りと出迎えてくれるから、いつの間にか
ただいまというのが普通になっていた。

ちゅっと、快斗がほっぺにキスしてくる。
だから、俺も快斗のほっぺにキスを返す。

前に灰原に見られて、バカップル・・とか言って呆れられたっけ。

「今日はね、ケーキ焼いたんだ。新一食べる?」
「ん、食べる。コーヒーも」
「りょーかい」

よし、今日こそはっ!
キッチンへと消える快斗の後姿を見て、俺は小さく気合を入れた。
ここ最近、俺絶対に挙動不審になってる。
快斗も気づいてるはず・・・。
いい加減に言わないと、いつ問い詰められるか。

小さく深呼吸して、快斗が戻ってくるのを待った。

「おまたせ。はい、どーぞ」

小さな丸いお盆にのって運ばれてきたのは、フルーツがたくさん乗ったスポンジケーキだった。

「生クリームのお砂糖少なめにしといたから。コーヒー、ブラックで入れてあげたし、大丈夫でしょ?」
「ん、さんきゅ」

そういえば快斗と付き合うようになってから、甘いものが前より苦手じゃなくなった。
快斗の作る菓子って全部おいしいもんな。

フォークで一口すくってケーキを食べる。

「ど?」
「んまい」

思わず、顔が緩んでしまうほど。

「快斗が作るのは、ほんと、いつも美味いよな」
「そりゃね。俺が新一のことを想って、新一のためだけに作った、新一専用の
スイーツだもん」

さらりとそんなことを言われて思わずむせてしまった。
やばい・・。絶対今顔赤い。

「ば、かなこと言ってんじゃねーよ」

ぶっきらぼうに言ったところで効果がないことはわかってるけど、
言わずにはいられないだろっ!

「あはは、でもほんとのことだからね」

笑ってケーキを食べながら快斗がそんなことを言うから。

あぁ、好きだな、って。
なんか、体の奥から気持ちが沸いてくるみたいな感じ。

へんだ、俺。変だ、どうしよう・・・。




快斗が好きでたまらない。




じーっと見つめてたら、快斗が気づいて、ん?と首を傾げてきた。

「・・・・・すき」
「へ?」
「快斗が好き」


自分でも驚くくらい、すっと言葉が口をついて出て。
口にするたびに、気持ちが大きくなっていく気がした。

「新一」
「も、ほんと・・・好きすぎてどうしよ・・」

口にしたとたん、たまらなく恥ずかしくなって顔を隠すと、
快斗が動く気配がして、次の瞬間には暖かい腕に包まれていた。

「俺の方が・・・嬉しすぎてどうしよう、新一」

ぎゅぅっと痛いくらい抱き締められて、幸せで。
顔を上げると、まずは瞼に。

それから、おでこに、
髪の毛に、
鼻先に、
頬に。
そして、唇に。

何度もやわらかいキスが落とされていく。

俺は快斗の首に腕を回して引き寄せると、自分から深く唇を重ねた。

「ん、んっ・・」

舌を絡めて、唾液があふれて。
快斗の舌に吸い付きながら、こぼすのがもったいなくて、何度も喉を鳴らして
唾液を飲み込んだ。

「んっ、くぅ・・・ん」
「っ、いち・・・」

離れる唇を追いかけて、またキスして。
なんどもなんどもそんなやり取りを繰り返した。

窒息死してないのが不思議なくらい。
このあふれそうな胸の中の思いが、破裂したら、死んでしまいそうなのに。

気づけは服は取り払われていて、触れれば逞しくて暖かい快斗の胸から、
少し早くなった鼓動が、伝わってきた。

「かいと・・」
「うん、愛してる。うんと、優しくするからね」
「ん・・」

俺は、快斗の胸に抱きついて、施される愛撫に身を任せた。






今まで、何度も体を重ねた。
それのほとんどは、合意という形ではなかったけれど。
やさしく抱いたときも、ひどくしたときもあった。

そのどれよりも、今までのどれよりも。
今が、一番気持ちよかった。

体中にたくさんのキスをして、手を這わせて。
その一つ一つに、新一が小さく声を漏らす。

そして、「かいと」と名前を呼ぶ。
「すき」とささやく。

それだけで、もうどうにかなってしまいそうなほどの満足感。

快斗も、一つ一つに返事を返して、同じように名前を呼んで。
好きだとささやいて。


背中に残された爪痕さえも、愛おしい。



























「ん、んー・・」

うっすらと目を開けると、ぼやけた視界に映るのは、逞しい腕だった。

「・・・」

何度か瞬きして、もぞもぞと腕の中で身をよじる。
すると、頭の上から、小さな笑い声が聞こえてきた。

「・・・かいと」
「おはよ、新一」

かすれた声で名前を呼ばれて、快斗は緩んだ顔をさらに緩ませて返事を返した。

「・・・変な顔」
「ひどい、新一・・」

快斗は少し体を起こすと、ベッド脇のサイドテーブルから水を取って、新一に渡した。

「はい。喉、かわいてるでしょ?」
「ん、さんきゅ」

のどを鳴らして水を飲んで、新一はふぅ、と満足気に息を吐いた。


「新一、ホントかわいかった」

にっこり笑って快斗が言う。
と、言い終わると同時に、勢いよく枕が投げつけられる。
快斗はそれを思い切り顔面で受け止めた。

「ひどい、新一」
「お前が馬鹿なこと言うからだっ!」
「昨日はあんなにかわいかったのに」
「うるせぇっ!あれは俺じゃないっ!どっかおかしかったんだっ、忘れろっ」

真っ赤な顔で、布団を被ってまくし立てる新一。

だから、それがかわいいって言うのに・・。

快斗がそんなことを思っていることを新一は知らない。

「絶対忘れない。だって、初めて新一が俺に好きって言ってくれたんだよ?」
「・・・・・」
「すっごい嬉しかったもん。絶対に忘れない。記念日にしてもいいくらい」
「するな、馬鹿」

布団の中からくぐもった声が聞こえる。

「じゃー、もう一回いって?」
「やだ」
「えー」
「むり」
「なんで」
「そんな何度も言えるかよっ」
「昨日はいっぱい言ってくれたじゃん!」

新一は顔が赤くなるのを自覚した。
も、本当に、昨日のことは恥ずかしい。

「昨日は昨日。もうしばらく言わないからなっ!あんだけ言ったんだ。
一年分くらいいったぞっ!それで満足しろっ」

そういう新一に、まー、そういわれれば、そんな気がしないでもない。
と思ってしまう。貴重な新一からの告白だ。
・・・悲しいけど。
快斗はため息ひとつでそれを受容した。
そして。

「いーよ、わかった。代わりに俺が、たくさん言うから」
「なっ」
「新一、俺に好きって言われるの、好きだもんね」

言いながら、快斗は布団を力ずくでひっぺがした。
新一の姿が露になる。

「――――っ!?」

そして、真っ赤な顔をしている新一に、にっこりと笑って

「好きだよ、新一」


そういって、唇を重ねた。
















言い訳。

あー・・なんていうか。
シリアスが向いてないのが分かりました。
本当はもっと切ない感じが前半出せたらよかったんですけどねぇ・・・。
失敗。
そして、最終話がげろ甘。
新一がもう新一じゃないです。甘えんぼーでかわいくて。
裏は逃げたわけじゃないです。わざとですよー!
快斗にいい目を見させすぎました。
ね、だからしょせん、シリアス書けない人なんですって。

えー、途中大きく更新期間が開いたりして、呼んでくれていた人には
長いこと待たせてしまって本当に申し訳ありませでした。
最後までお付き合いくださってありがとうございます!


あー・・もっと精進せねば・・・。