3  ・・・おまえなんか。



「こんばんは、名探偵」

声がした。
窓にいるのは白い怪盗。
俺は読んでいた本から顔を上げずに答えた。

「よぉ・・」
「どうしました?機嫌が悪そうですが」
「別に・・・」

まさか、昼間のことを気にしているなんて言えない。
自分でも認めたくない。
チクチクと痛む心臓を誤魔化す術を見失いそうだから。
コイツは俺の前では笑わない。決して。あんな笑顔で。

「今日は、気分じゃない」

言うと、キッドがはっ、と笑った。

「昼間のことを気にしてるんですか」

聞いているようで、決してそうではない。
解っていて言ってる。
カッとなる。

「誰がっ!」
「そうですか?・・・まぁ、名探偵の気分は私には関係ないんで」

KIDはそう言って、俺の腕を掴んでベッドに押し倒した。

「や、めろ・・・。KID。イヤだ」
「何を今更」

くすり、と鬼畜に笑ってKIDが俺を見下ろす。
・・・今日も拒めない。原因は、俺自身・・・・。








「あっ、あぁ・・・ん」
「またイきそうですか?でも、ダメですよ」

もう何度イかされたわからない。
けれど、いつもより乱暴なのは、わかった。

「イヤだ、と言う割りに、ずいぶん感じてるようですが?」
「う・・・あっ」

繋がった部分から動くたび、濡れた音がする。
緩い動きに焦らされる。わざと緩慢な動きでKIDが俺を煽る。
早く欲しい。こんなんじゃ足りない。
心とは別のところで身体が求める。
自然と腰が揺れる。

「あぁ、ほら。自分で腰を振って・・・。どこがイヤ、なんですか?」
「キ・・・ッド!ぁ、も・・っ」
「何ですか、名探偵?」
「も、早く・・・っ」
「それじゃぁ、わかりませよ。名探偵?」
「はっぅ。も、ねがぃ・・・。ィっか、せて・・っ」

モノクルのかかったままの顔を見つめて強請る。
輪郭が歪んで見える。

KIDの動きが速くなる。欲しかった強い刺激。
奥を突かれて、背中がしなる。

「あぁ・・!っく、あ、あ・・」
「どうぞ、イって下さい?名探偵」

快感で少し掠れたKIDの声が、耳に直接送られる。吐息と一緒に。

「ひぁ、あぁ・・・ん」

弾けた熱が、腹の上を濡らした。
身体が痙攣したようにひくっと体が震える。
KIDが遅れて奥でイったのを感じだ。

「ん・・・ぁ・・」

「まだ、終わりじゃありませんよ」
「なっ」
「貴方の中は、とてもイイんです。次は、私の上で踊ってもらいましょうか?」

にやり、と笑ったKIDの意地の悪い笑みに。
俺は抵抗の術を見つけられなかった。






そのまま行為は続けられ。
眠りについたのは外が白くなりだした頃。
KIDの動く気配に意識が浮上する。けれど、目を開けることが出来ない。

「忘れないで下さい、名探偵。あなたは私のものだ」

何を言ってる?

「誰にも、渡しはしない」

何のことだ。

「決して、逃がしはしない」

なんて勝手な・・・。

―――――お前なんか。

「・・・お、まえ・・・なんか・・・」

お前なんか、好きじゃない。
お前なんか嫌いだ。
お前なんか・・・・。
会わなければよかった。
気づかなければよかった。

好きになるんじゃなかった。

口をついて出た声は聞こえるかどうかわからないくらい小さくて擦れたものだったけど。
その想いの全ては声にはならなかったけど。
それでもKIDにはきちんと聞こえたようで。

「名探偵?」

その問いかけに答えることはしなかった。出来なかった。
KIDが部屋を去る。

お前なんか――――。

気づかずに流れた涙を、見た者はいなかった。