7  あまのじゃく


「なんで・・・?」

新一は思わずそう呟いた。

目が覚めて、ベッドサイドの時計を確認すると時間は10時をまわっていた。
起きようと思ってもそもそと体を動かそうとするが思ったように動けない。
振り返ればそこには整った寝顔があって、思わず息を呑んだ。

「っ・・・!?」

一瞬心臓が止まるかと思ったほどだ。
び、っくりした・・・。
確認するまでもなく、それは怪盗KIDで。
何にも邪魔をされないその素顔に、思わず見惚れてしまった。

「・・きっど・・?」

小さく、声をかけてみる。

「おーい・・。KID?」
「・・・」

本当に寝てるのか?
新一はじーっと寝顔を見つめるがKIDからの反応はない。

なぜかしっかりと抱きしめられているため身動きが取れないし。新一は深くため息をついた。

「なんでお前ここで寝てんだよ」

独り言のようにKIDに文句を呟いた。
今まで、一度だって朝までいた事なんてないくせに。
こんなしっかりと抱きしめて、そんな無防備に寝顔さらして。どういうつもりなのか全然わからない。

「おきろよ、KID」
「・・・おはようございます」

少し強めに肩を揺するとKIDの瞼が持ち上がり、その瞳が新一の顔を映した。
優しく細められたKIDの瞳の中に新一の顔が映っている。

「名探偵?」
「ぁ・・、うん。はよ・・」

知らず高鳴る胸をどうやって沈めようか。
こんな、こんな目をするKIDを自分は知らない。

「っ、起きるから、手、離せよなっ」

目をそらしながらKIDに言う。

「あぁ、すいません」

そういって、少し笑って腕を解いてくれた。
新一は布団から出るとベッドのふちに座りKIDを見下ろした。

「何で、いんの?」
「いけませんか?」
「ってか、初めて・・じゃん。朝までいるのとか」
「昨日の貴方のセリフがどういうことなのか、訊きたいと思いまして」

KIDは身体を起こし、壁にもたれて新一を見た。

「昨日?」
「貴方が眠る前に、私に言ったことですよ」

昨夜に思いをめぐらせ、思い当たったのか、新一は気まずそうに顔をしかめた。

「教えてくれますか?」
「教えて、どうなるんだよ・・・。」
「昨日の言葉を私の都合のいいように解釈しても?」
「わけわかんねぇし。なんだよ、それ。俺は期待させるなって言っただけだろ」
「だから、それを告白ととっても?」
「なっ・・!?」

どうしてそうなるんだ!と否定できない自分を、なんて正直なんだろうと思わず恨んでしまう。
馬鹿か、俺は・・。

「期待してもいいと言ったら?」
「は?」
「貴方からの告白が、嬉しかったと言ったら?」
「な、に・・言って・・・」

「好きです」




思いがけないKIDからの告白に、新一はらしくもなく頭が真っ白になった。
思考がうまく働かない。
今、自分がなんと言われたのかわからない。

きっと、信じられないって言うのが思いっきり顔に出ていたんだろう。
KIDが苦笑を浮かべてまた、口を開いた。

「好きだから、抱いた。ずっと、想ってた」

新一は不意にこぼれそうになった涙を堪えて口を開いた。

「うそだ」
「本当」
「しんじねぇ・・」
「信じて」
「無理に決まってんだろ」
「信じてもらえるようにがんばるよ」
「泥棒は嘘吐きなんだろ」
「怪盗は嘘をつきません」
「んじゃ、夢かなんかか?」
「今起きたばっかりでしょ。現実だよ」

目の前にいたのは怪盗KIDじゃなくて、黒羽快斗だった。

「ねぇ、新一。俺、新一のこと、たくさん傷つけたよね」
「傷ついてなんかねぇ」
「俺のこと、ずっと想ってくれてたんだよね」
「自意識過剰なんじゃねーの?」
「好きでしょ、俺のこと」
「・・・好きじゃねぇ」
「嘘。昨日俺のこと好きだって言ったもんね」
「言ってねぇよ。・・・嫌いだ」
「探偵が嘘ついていいの?」
「嘘じゃねぇ」
「なら、俺の目を見てよ」

うつむいて言葉を返す新一に、快斗はそう言って頬を手でなでた。

「好きだよ、新一」

ありったけの思いをこめての告白は、新一を居たたまれなくさせるには十分で。
真っ赤な顔で新一はKIDの肩口に顔をうずめた。

「好きだよ、新一」
「嫌いだ、お前なんか」

嫌いだと言いながら、けれど無意識に笑ってしまうその顔はとても嬉しそうだ。
その新一の笑顔を、快斗が見ることは出来なかったけれど。