8 たった一言く あの日から。 一応、両思いだということがわかってから、黒羽快斗は工藤邸に毎日のように訪れた。 KIDとしてではなく、黒羽快斗として。 新一が学校から帰ってくると快斗は既に家にいるのだ。 戸締りもしっかりしているはずなのに。鍵なんて渡していないはずなのに。 まぁ、彼に、怪盗KIDに鍵なんて意味がないのはわかっているのであえて何も言わない。 今日も、新一が帰ってくれば鍵は開いていた。 たった一週間でそのことに慣れてしまった。 だから、一ヶ月もたてば、それは日常になってしまっていた。 それは決して嫌じゃなくて。喜んでいるのだ。心の底では。 その証拠に、新一は自分で鍵を出すより前に、玄関のドアノブを回す。 開いていた時の嬉しそうな顔は、まだ誰も見たことがない。 新一だって、気づいていないかもしれない笑顔だ。 新一は、そのまま玄関のドアを開けて、家に入った。 靴を脱いで、リビングへと行く。 そして、リビングのドアの前で小さく深呼吸をして、ドアをあける。 「またいんのかよ?」 「あ、お帰り、新一〜」 「・・・・ただいま」 ネクタイを緩め、ブレザーを脱ぐと鞄と一緒にソファーに投げ置いた。 「外、寒いでしょー?」 「あぁ・・」 ソファーに座った新一とは逆に、快斗は立ち上がると台所へと向かった。 そして、湯気の上がるコップを二つ持って戻ってくる。 「はい、新一。熱いから気をつけてね〜」 「ん、サンキュ」 お礼を言って両手で包み込むように受け取る新一に、快斗はニッコリ笑うとその頬にチュ ッと音を立てて小さくキスをした。 「っ、だ・・から、急にすんなって、いっつも言ってるだろうっ!?」 ビックリして、思わずコップを落としそうになった新一は真っ赤になって快斗に怒鳴る。 「だってー、新一が可愛いんだもーん」 「ふっざけんなっ」 「ふざけてないよ?」 新一の顔を見つめる快斗の目は、その口調とは違ってどこか真剣で。 新一は赤い顔を俯けた。 本当にかわいいなぁ、と快斗は思う。 まさか、こんなに可愛い人だとは思わなかった。 いっつも、夜。身体を重ねるときにしか会わなかったから。 こんなに初々しいだなんて、反則だ。とさえ思っているのだ。 クスクスと笑っている快斗の目線の先には、赤くなったままコップに息を吹きかけている 新一の姿。 幸せだなぁ、と思う。 あの夜から、一度も新一と身体を重ねていない。キスしたり、抱きしめたり。 そんなスキンシップだけ。 夜には家に帰るし、KIDの仕事があって夜、新一の所によっても、話をして、キスをして。 でも、それだけ。身体は一度も、重ねていない。 でも、それで満たされている自分に笑ってしまう。 初めから、こうしていればよかった。告白して、心を手に入れていれば。そう思う。 けれど、そう思えるのは今だからなんだろうな、とも思う。 そんなことを考えながら、にやにやと新一を見ている快斗と、新一の目が会う。 「なにみてんだよ・・」 「んー?幸せだなって思って?」 「は?」 「だって、ほんとに、新一可愛いし。俺すっごく幸せだし」 そういう快斗に、新一は目をそらした。 「そりゃよかったな・・・」 そういう横顔はどこか不満そうだ。 「新一?どうかした?」 「別に・・」 「新一・・・?別にって顔じゃないでしょ」 「なんでもねーって言ってるだろっ」 新一はそう言うと、コップをテーブルの上に置いて上着と鞄を掴むと部屋へ行こうとした。 「新一」 しかし、それが出来なかったのは快斗が新一の手を掴んだから。 そのまま、ソファーに逆戻りした。 「放せよっ」 「いやだ。どうしたんだよ、急に」 「知るかっ」 「新一っ!!」 大きな快斗の声に、新一が身体をすくませる。 「・・・一人で、幸せに浸ってればいいだろ。俺は、幸せじゃねーんだよ」 「そうなの・・・?」 「そうなんだよっ、わかったら、さっさと放せっ」 「余計、放せるわけないでしょ」 一人だけ、嬉しくて幸せでも意味がないのだ。 「俺はっ、お前に・・・嫌いだって言ったんだぞっ!」 「・・・うん、そう・・だね?」 「なのに、なんでお前は幸せそうなんだよっ!」 そういう新一の顔が、とても辛そうで。 快斗は、自然と笑みが浮かんでしまう。 全く・・どうしてこんなに可愛いんだろう。 「だって、新一?言葉ではそういうけど、本当は俺のこと好きでしょ?」 「なんで、そんなに自信満々なんだよ!?」 「自信があるわけじゃないよ。新一を信じてるだけ」 「勝手に信じるなっ」 「ねぇ?どうしてそんなに拒絶するの?」 「・・・・・それ、は・・」 「それは?」 「・・・俺は、快斗みたいに、信じられない」 そう言った新一の言葉に、快斗はなんともいえない顔をする。 つまり、新一はまだ自分の気持ちを信じていないということだ。 「信じられない?俺のこと・・」 「・・・・・・」 その無言は肯定で、快斗は溜め息を禁じえない。 「どうしたら、信じてくれる?」 「だって・・・何も言わないだろう。俺も、お前も。それにお前・・・その・・俺、のこ と・・抱かなくなった・・・じゃんか・・・」 終わりの方はごにょごにょと小さくなっていたが、それでもはっきり聞き取れた。 笑いを押さえることが出来ない。 「で?結局・・・新一は何がして欲しいんだよ?」 そう言うと、新一の顔がかぁっと真っ赤になる。 「どうして欲しいの?ほら、新一・・?」 「・・・て、ほしぃ・・」 「ん?」 「愛して、欲しい・・・」 ・・・・やばいって。 なに、え?すっげー可愛いんだけど? 「ちゃんと、言葉で・・態度で・・・愛して、欲しい・・・」 「うん」 「俺が、不安じゃなくなるまで、愛して・・」 それは、凄い我侭で。とてつもない甘えで、愛の告白だ。 そして、快斗だって健全な男子高校生なわけで。 手を出さないでいられるわけがない。しかも、相手は新一だ。 快斗は、新一を抱きしめた。そして、囁いた。 「好きだよ、新一・・・」 久しぶりに聞く、快斗のその言葉に、新一が反応する。 「大好きだよ、新一・・」 あいしてる 戻 「何が欲しいんだよ」 「愛して欲しい」 これが書きたかっただけなのに、こんなに長く(汗) 別に新一は抱いて欲しかったわけじゃなくて、Hしたかったわけじゃなくて、 愛して欲しかったんですよー。 その愛を表現するのに、快斗が抱くって行動に出ただけで。 別に、愛を囁くだけでも、抱きしめるだけでも、添い寝するだけでも。 快斗の愛を感じられたら、新一はそれでよかったんです。 友達にツッコまれたので、弁解、というか・・言い訳? わかる・・?わかってー(んな無茶な)