なにもないけど





日も暮れて、珍しく一人きりな車の中で、これまた珍しく銀次は悩んでいた。
足りない頭を総動員して悩んでいた。
もともと、考えるよりも身体で理解するタイプだから、何かを順序だてて実行することには慣れていない。

「うーん・・・」

何をそんなに悩んでいるのかというと。もう一週間をきった蛮の誕生日のこと。
過去二回。
一緒に誕生日を祝ってきたが、蛮自身がそんなに誕生日と言うものに頓着していないので、
ホンキートンクでほんの少し豪華なご飯を奢ってもらうくらいで。
おめでとう、と面と向かって伝えたことさえなかった。

だったらなぜそんなにも銀次が頭を悩ませているのかというと。
それは先月の終わり、蛮と相棒以上の、つまりは恋人、という位置に収まったから。
まだ付き合って一ヶ月にも満たない、けれどちゃんと付き合い始めて初めてのイベント。
それが蛮の誕生日だから。
だから、きちんとお祝いしたかったのだ。
大好きな、蛮のために。

なんとも健気な銀次の想い。

しかし、車生活で一人きりの時間など滅多になく24時間一緒の状態で内緒で何かをするのはなかなかに難しい。
プレゼントを買うお金もなければ、何かを作るだけの技術も道具もない。
まぁ、作る道具を買うお金があればプレゼントを買うが。

「なにがいいかなぁ・・・・」
「なにが?」
「っ!?」

独り言に帰ってきた居ないはずの人の声に、銀次はびっくりして一瞬息を止めてしまった。

「ば、蛮ちゃん!もう、脅かさないでよっ」
「別に脅かしてねーよ。おめーがボーっとしてただけだろ」
「あ、ぅ・・・」
「んで?なにがいいかなー、ってなんのことだ??」

車の運転席に乗り込んで買って来たばかりの煙草に火をつける。

「な、なんでもないって!」
「あー・・?」

蛮の視線にドキドキしながら、バレバレの慣れないうそをつく。

「お、俺寝るねっ!!」
「あ、おい、銀次・・」

寝る、と言って蛮に背を向けた銀次を、自分の方に向かせて。

「え、あ・・・」

その唇を優しく塞いだ。
付き合うようになってから、変わったこと。
寝る前のキス、起きたときのキス。
他のときでも、蛮は隙を見つけたら銀次にキスをしてくるようになった。

「っ・・・」
「おやすみ、銀次」

銀次は慣れないキスに顔を赤くしながら、おやすみ、と呟いて。
隠れるように、毛布に包まった。


まだキスどまりの二人。 先の展開ばれそー(笑) 蛮ちゃんの誕生日のお話。 続きますー