なにもないけど そして、当日。 「んー・・・・・」 銀次はまだ悩んでいた。 昨日まで仕事で、今日までに仕事が終わってよかった、と思っていたがプレゼントなんて用意できているわけがなく。 ホンキートンクの指定席でカウンターに突っ伏して唸っていた。 「どうしたんですか?銀ちゃん」 「んぁ、夏実ちゃんー。今日蛮ちゃんの誕生日でしょ?プレゼント用意してなくて〜」 あ、どうしてこんなに堂々と会話をしていられるのかと言うと、今、蛮は出かけているため銀次は一人お留守番中なのだ。 「あぁ、蛮さん今日誕生日だったんですね!」 「そうなの。でもね、昨日まで仕事だったのもあるんだけど、プレゼントが思い浮かばなくて・・・。何がいいかなぁ・・・」 「・・・・なら、ケーキは銀ちゃんが作る?」 「え?」 「誕生日ケーキ、銀ちゃんが手作りしてプレゼントしたら?蛮さんきっと喜ぶよ!」 「そうかな?」 「うんうん。教えてあげるし、ね?」 「うん!わかった!」 銀次は勢いよく立ち上がり、カウンターの中へ入って言った。 「蛮さんが戻ってくる前に作っちゃいましょうね!」 そうして、二人で蛮の誕生日ケーキ作りが始まった。 仕事の報告兼事後処理で一人ヘブンの元へ出かけていた蛮は車を運転しながらため息を付いた。 銀次の居ない助手席においてあるのはヘブンから貰った誕生日プレゼント。 洋服とか、そう言う類のものだろう。 マリーアからも贈られて来ている。 自分の誕生日なんてそんなに興味も無い。祝う必要性も感じない。 けれど、まぁ、くれるって言うなら貰わない手はないだろう。 銀次と出会ってから、誕生日にはホンキートンクで飯を奢ってもらってたし。 でも、それは誕生日を祝っているとは思わせない程度で。 ケーキも一度だって出たことは無かった。 それは、蛮の気持ちに対する配慮なのだろうが。 自分の誕生など、呪われたものでしかない。 過去のトラウマはそう簡単に消えるものでもない。 ふとした瞬間、蘇る記憶が蛮を蝕む。 落ちるところまで落ちていけばいいと思っていた。 心を壊さないようにしようとするから脆くなる。隠そうと思うからボロが出る。 開き直って腐ってしまえばそれ以上傷つくことは無い。 それは無意識の自己防衛か。 そうやって長い間一人で過ごして来た。 誕生日なんて日は、いやでも自分の存在を思い知らされるから。 自分で自分を呪ってしまうから。 おめでとう、なんて。 何を思って言ってるんだ、と思う。 祝うのが当然だなんて思わないで欲しい。望まれない人間も居るのだ。 何もめでたくなんてない。 人生で最大の失敗は、と聞かれれば、それは生まれてきたことだと答えるだろう。 自分のネガティブな思考にため息が漏れる。 銀次と出会ってから二年。 銀次の口から祝う言葉を聞いたことは無い。 気を使ってくれているんだろう。 一度、誕生日の話題なったとき、自分は思いっきり不機嫌になったから。 ホンキートンクには銀次が居る。 早く会いたいと思った。 唯一の俺の存在理由になりえる奴だから。 やっと手に入れた愛しい恋人。 蛮はアクセルを強く踏んで、ホンキートンクへの道を急いだ。 「蛮ちゃん、お帰りっ!!」 ホンキートンクのドアをあけて中に入ると、そこには銀次の笑顔と豪華なご飯と形の悪いケーキ。 蛮はらしくなく一瞬思考が止まってしまった。 「蛮ちゃん・・?」 「え、あ・・・」 「やっぱり・・嬉しくなかったかな?」 「は?」 銀次のセリフに何のことだか解らなくて夏実とポールを見やる。 「このケーキ、銀ちゃんが作ったんですよ!蛮さんにプレゼントって」 「まぁ、初めてにしては上出来だろう」 そういわれてカウンターに置かれているケーキを見る。 これを、銀次が・・?俺に? 「蛮ちゃん、嬉しくない?いらない?」 不安そうにしながら聞いてくる銀次に、嬉しくないなんていえるわけが無くて。 蛮は銀次の頭をくしゃっと撫でた。 「サンキュ」 その言葉に銀次が笑顔になる。 「うん!・・・蛮ちゃん、あのね・・?」 「あ?」 イスに座りながら、銀次に返事を返す。 「あのね、・・・蛮ちゃん、誕生日、おめでとう」 静かに告げられたそれは誕生日を祝う言葉。 「今までね、一度も言ったことなかったんだけど。蛮ちゃん誕生日好きじゃないみたいだったし。 でもね、俺は・・凄く嬉しくて、ちゃんと蛮ちゃんに伝えたかったから。今までもね、ちゃんと言ってたんだよ?」 「・・・言われてことねーよ?」 思い出してみても、今までに銀次に誕生日を祝われたことは無い。 「う、ん・・。だって蛮ちゃん寝てたし・・・」 この可愛い恋人は、蛮が寝ている間に何度も祝っていたというのだ。 おめでとう、と。生まれてきてくれてありがとう、と。 そして思った。 自分は子供のように不貞腐れていただけなのだ。 他の人間は自分の誕生日にはおめでとうと告げるのに。 唯一祝って欲しいと願うこの相棒だけは決して自分を祝ったことがないから。 自分があまりに子供過ぎて、恥ずかしくなってくる。 「蛮ちゃん、お誕生日おめでとう。蛮ちゃんと出会えて、ホントによかった。生まれてきてくれて凄く、嬉しい」 言われて、蛮は銀次を引き寄せてその唇を塞いだ。 自分たちだけではないということを忘れて・・居たのか、解っていてやったのかは定かではないが。 「ちょ、蛮ちゃんっ!!」 突然のキスに、銀次は真っ赤になって慌てる。 ポールのため息に蛮は起ち上がった。 どうやら解っていてやったらしい。 「奥の部屋、借りるぜ」 「程々にしてくれよ。」 「え、ちょっと、蛮ちゃん??」 銀次の声に耳を貸さず、なかば強引に奥の部屋に連れて行った。 「蛮ちゃん??」 戸惑うように声をかけてくる銀次に蛮は、まっすぐ目を見て言った。 「プレゼントに、ほしい物がある」 「!うん、なに?」 尋ねてくる銀次に蛮は耳元に唇を寄せて低く囁いた。 「お前」 俺?と聞こうとした銀次が口を開く前に唇を塞ぐ。 「銀次が欲しい。いいだろ?」 ベッドに押し倒して、唇を掠めながら聞く蛮に、銀次は真っ赤になって。 「あ、えっと・・・それは・・・」 「抱きたい。」 全部を欲しい。心だけではなく、身体も。 赤くなりながら視線をさまよわせている銀次の返事を待って。 おずおずと首に回された手が銀次の答え。 蛮は嬉しそうな綺麗な笑みを浮かべた。 「最高のプレゼントだ。」 別に、何もいらない。 プレゼントなんていらない。 ケーキも無くていい。 銀次さえ居れば。 初めての夜に、二人は明け方まで深く愛し合った。 Happy birthday
夏実ちゃんとかポールさんが偽者なのはご愛嬌。 会話が少ないものごめんなさい。 シリアス?シリアスってこういうのを言うの?? そうだな。甘ラブな後日談でも後日UPしようかな。 短いヤツ。 何はともあれ、蛮ちゃんおめでとう!! 前 戻