第七話





「新一・・・」

無意識に気配を消してしまっていたんだろう。
驚いたように新一が後ろを振り返る。
それでも、ポーカーフェイスを保てるのはさすがといったところだろう。

「あ・・。快斗・・・・」

快斗の姿を見て、視線をそらしてしまう。
さっき、落ち着いたはずなのに、また心臓が鳴り出した気がした。
意識しすぎているんだ。
だって、最近までは快斗の素肌を見ても、こんなにドキドキしなかった。
腕を通しただけでボタンを留めていないシャツからは逞しい胸板や腹筋が見えている。
風呂上りの相乗効果で色気をかもし出しているそれは、自分とは違う男の色気だ。
そんなものにドキドキするなんて、俺は同じ男なのに・・・・。

「新一・・・あの、さ・・・」
「え、あ・・な、なに・・・?」

「いや、大丈夫・・・?なんかボーっとしてる・・・から・・・」

顔を覗き込むようにする快斗に思わず後ずさってしまう。

「あ、いや・・・うん、大丈夫・・・」

目のやり場に困り、俯いたまま答える。
そんな新一に、快斗はため息をついて、新一の隣に腰をおろした。

「さっきの、気にしてる・・・?」

そんな当然のことを、しかもサラリとなんでもないことのように聞いてくる快斗にカッとなる。

「当然だろっ!!おま・・・っ、なんなんだよっ!!!」

掴みかかる勢いだ。

「ちょ、待てって・・・、新一・・・」
「うるさいっ!あんな・・・からかうにもほどがあるっ!!」
「・・・・・からかう・・・・?」

新一の言葉に、スッと空気が冷たくなった気がした。

「新一は、俺がからかってあんなことをしたと、本気で思ってるの・・・?」
「え、あ・・・いや・・・」
「誰が、男に冗談であんなことするかよ・・・・」

迫ってくる快斗押し倒され、恐怖すら覚える。
こんなに冷たい気配の快斗は知らないから。

「か、快斗・・・・」
「あんな、不意打ちみたいに、無理やりキスしたのは、悪いと思う。でも、ウソじゃない。
ましてや、からかってるなんて・・・。ふざけんなよ。新一は、俺の言うことをいい加減にしか聞いてないってことかよ」
「ちがっ・・・!」

新一の言葉をさえぎって、唇をふさぐ。

「っ・・・・!!?」

唇を割って、濡れた舌がもぐりこんでくる。

「ん・・・っ、んぅ・・・っ!!」

拳で何度も快斗の胸を叩くがびくともしない。
舌が、口腔を蹂躙する。
形を確かめるように、歯列をなぞる。
絡ませた舌を根元が痺れるほどに愛撫し、舌先でくすぐって、上あごに触れた、と新一の体が大きく揺れる。

「んっ、ふ・・・ぁ・・・・」

そんな新一の反応を見て、わざとそこを攻め立てる。

「んっ・・・ン・・・っ」

目じりに溜まった涙が零れ落ち、一筋頬を濡らす。
限界を訴える、新一の鼻にかかった吐息に、快斗はその唇をそっと離した。
唾液が細く糸を引き、電気に照らされて輝く。
途中で途切れた糸が零れ落ち、新一の顎から首筋にかけてを濡らした。

「は・・・っ、はぁ・・・はぁ・・・ン・・・」

荒い息を繰り返す。
濡れた唇を舌で舐め、扇情的な表情で、見るものを誘う。
蒼い瞳は快楽に濡れ深い藍色になっている。
快斗はすぐに、目をそらした。

「かい・・・と・・・?」
荒い息で紡がれる自分の名前はそれだけで妖しいものとなり、妄想の中で、事情を想像(おも)わせる。

「ゴメン・・・」
「な、に・・・?」

力なく見上げてくる新一は、自分の中の征服欲を掻き立てる。

「ごめん、俺・・・今日は帰るよ・・・」
「ま・・・っ、かいとっ・・・」

立ち去ろうとする快斗の服を掴む。

「ごめん・・・。また、くるから・・・」

快斗は新一の手を優しくほどき、背中から聞こえる新一の声を無視して、そそくさと新一の家を後にした。