第八話




あれから・・・。あの、キスしてしまった夜から一週間。俺は新一に会っていなかった。
だぁってよー、会えるか?普通・・・。
俺らしくないのはわかってるんだけど。

「はー・・・」

あれから、こんなため息ばかり。なのに、連絡もとってない。
会いたいんだけど、また、会いに行くって言ったんだけど。
俺だって、理性には自信あったし、あんなこと、するつもりもなかったんだけど。
気まずいだろう?普通、次の日とかに会いに行ったり出来ないだろう???
んで、行かなかったらどんどん行きにくく・・・。

なーんて。何をいっても言い訳にしかならなくて。つまりが、保身。
わが身可愛さ。嫌われた事実を直視するのが怖いだけ。
なさけねーなぁ、黒羽快斗。
まさか、俺が'普通は'、なんて言葉口にする日がこようとは・・・。

まぁ、裏を返せば、それだけ新一に本気だってことなんだけど。
そんなの、俺の勝手なことだ。




学校で、授業中にもかかわらず。快斗はボーっとしてそんなことを考えていた。
さっきから先生に当てられているのにも気づかずに。

「黒羽快斗っ!!!」

先生の怒鳴り声と共に大きい黒板消しが投げられ、快斗の頭に命中した。

「ってー・・。センセ、ひでー。なにすんの?」

頭をさすりながら、黒板消しを拾いながらのノンキな快斗の返答が先生の逆鱗に触れた。

「っっっ、廊下にたってなさいっ!!!!!」

ちょっと、考え事してただけじゃないか。
返事がなかったら飛ばせばいいものを。どうせ出来るのわかってるんだから。
それでも、快斗はめんどくさそうに、すごすごと廊下に出て行った。
どうせ、俺も授業受ける気ないんだし。

にしても、センセ。いまどき廊下はないんじゃない??


日差しの暑い、5時間目のことだった。













あの夜から、一週間たった。快斗は、あれっきり姿を見せなくなった。
確かに、顔を合わせずらかった。でも、一週間、全くの音沙汰なしだ。
前は・・・、毎日のように会いに来てたのに。
あえなくても、俺が声を聞きたいと想ったときは電話が鳴ってたし、メールも必ず来ていた。
なのに・・・。もう、会いたくなくなったのだろうか。俺に・・・。
どうして・・・。あんなことしたのは、快斗なのに・・・。

快斗のいない日々に、寂しささえ感じているのに。
その・・・、会いたい、なんて・・・想っているのは、俺だけなんだろうか。

でも、自分から会いに行ったことがなくて。
快斗はきっと、会いたくないから俺に会いに来なくて。
だとしたら、俺が行ったら迷惑なんじゃ・・ないかって・・・。
だって、怒ってるとしたら、怒らせたのは俺だし。

戸惑うことばかりだ。なんなんだ、一体。この気持ちは。

授業中に、新一は黒板に向かって、数学の問題を解きながらそんなことを考えていた。

「はぁ・・・」

新一のため息に、先生は心配そうだ。
解き終わって自分の席に戻る新一に、先生は具合が悪いなら保健室へ、と言う。
しかし新一は大丈夫です、と微笑んで席に戻っていった。
先生の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか・・?


その日、新一はずっと上の空だった。頭の中は快斗のことばかり。
気がつけばため息をついている。

こんな気持ちは知らない。
あんなことをされて。なのに、こんなに、会いたいと想うなんて・・・。
あの男に。黒羽快斗に。
俺を変えたのは、こんな風にしたのは間違いなくあの男だ。

絶対、責任とらせてやるからな。

今日、学校が終わったら、快斗に会いに行こう。そして、ちゃんと話をしよう。
もう少しで解るかもしれないんだ。この気持ちの正体が。

少なくとも、俺は、快斗に会いたいんだ。
それだけで会いに行く理由は十分なはず。

このまま、あえなくなるのはイヤだから。

新一はそう、決心した。

五時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。