本気のキスをしよう

第二回




俺、一樹夕映はつい最近19歳になったばかりの大学二年生。
ついでに彼女いない歴も19年を突破したわけだ。
大学生になったら彼女が出来る、と思っていたけど甘かった。
そんな簡単に行くわけがなかった。
男の癖に友達にも「女だったらなぁ」といわれる女顔。
170に満たない身長に、女みたいな名前。
クラスの男子にもからかわれ、女子からは男に見てもらえないこの辛さ。
ヤキモチを妬かれる事はあっても、好きになられたことなんて皆無。
告白したら「自分より可愛い男の子と付き合いたくない」という
振られ方をもう何10回と経験している。
思い出すのも嫌だ。
ゆえちゃん、なんてあだ名は生まれたときから定着してしまっていて、
通りすがりのおじさんに女の子と間違えられることもよくあった。
今でも、待ち合わせをすれば待ってる間に男どもからナンパされる始末。
こんな俺の外見も名前も、これ以上ないくらいのコンプレックスだ。

「・・・・・・」

自分で考えててマジ、ヘコんできた。
こんな俺が合コンに参加してどうなるんだ?


昼休みが終わって3限目の授業中。
俺は、なんとなくで先生の話を聞きながら授業を受けていた。
くるくると指でシャーペンを回す。
単位のためだけにとった興味も何もなに授業。
今日はこれで終わりだ。早く終わんないかな・・。

時計を見つつ、そんなことを考えながらボーっとして授業を受ける。
それでも、ノートだけはしっかりとってるけど。
けれどいつも以上に授業に身が入らなくて、ケータイを弄っていたら急に鳴ったから、
大げさなくらいに反応してしまった。

び、ビックリした・・・。えーっと・・?
見るとそれは深山からのメール。

『件名:合コン』

見るのやめようかな・・・。
でもホントに見ないわけにはいかないのでメールを開く。
知らんぷりしてサボったら後が怖い。

『今夜、6時にいつものトコ』

今日かよ。せっかく今日はもう家に帰れると思ってたのに。

あー・・。行かないわけにはいかないんだよな、やっぱり。
俺は心の中で「リョーカイ」と返事をしてケータイを閉じた。
この待ち合わせ場所なら、授業が終わってから行っても十分に間に合う。
遅れるとまたうるさいしな・・・。
にしても。なんで今回にかぎって俺を誘ったんだ?

思えば不思議な話だ。
アイツは俺が嫌がるのをわかってるから、いつもは俺に声をかけたりしない。
深山は基本的にいいやつなんだ。
・・・・考えても仕方ない、か。
授業も楽しくないが、合コンのことを考えても気が滅入る。
この二つを比べて、俺は残りの15分間授業に集中することにした。












「お、来たな!」

待ち合わせ場所に行くと既に合コンメンバーが集まっていた。

「ったく。なんで俺まで・・。これで全員なのか?」
「いや。まだ、あと一人来てない」

深山がメンバー表らしき紙を見ながらそう言った。
俺はそれを聞きながらメンバーを見渡す。

「お、ゆえちゃんじゃーん」
「うるせーよっ」
「めずらしーな。ゆえちゃんが合コンくるなんて」
「来たくて来たんじゃねーよ」

そんな軽口を叩く。
高校のときの同級生で、顔見知りばっかりだ。
大学はみんなバラバラなのによく集まったよな。
あぁ、昔からこのメンバーで合コンやってたっけ。

この面子ってことは、最後の一人は誰だ。
やっぱり高校の同級生か?
色々と名前と顔が浮かんでは消える。

結局わからないから深山に聞こうとしたとき、深山がこっちを見て声を上げた。

「お、来た来た。岬ー!」

え・・・?

俺は後ろを振り返った。
だって、岬って・・・。

「悪ぃ。遅れたか?」

そういって、声をかけてきたのは・・・

「・・・晃・・」
「夕映」

驚いた。いや、もう。ほんとに。
だって、晃って合コンとかに行ったことないって聞いてたから、
まさかこんなところで会うなんて思ってなかった。
晃も驚いているだろう。
だって、合コン嫌いの俺がこんなトコにいるんだから。

岬 晃。高校の時のクラスメートで俺の親友。
そして、俺とは正反対なやつだ。
容姿はもちろんかっこよくて、背は高くて、声は心地よく低いて。
そして、笑い方が優しくて、それでいてかっこよかった。
でも、大学入ってお互い忙しくて。
会うのは半年ぶり以上だ。

「久しぶり!元気だったか?」
「あぁ。悪かったな、連絡取れなくて」

俺は気にしてない、と笑みを浮かべた。
晃が顔をそらした気がするんだけど。気にせい?

「相変わらず仲がいいことでー」

からかう深山にうるさい、と一言返して。
俺は晃に会えたことがホントに嬉しくて、ただ純粋にそのことに喜んでいた。




俺と晃は二人で、ガードレールにもたれて話していた。
晃はちょっと大人っぽくなったと思う。雰囲気が。
昔から、大人っぽかったけど、更にというか。
笑い方とか、仕草とかが。

「珍しいな、夕映が合コンに参加するなんて。」

そう言う晃に俺は頷いた。

「あぁ。俺も参加するつもりはなかったんだけどさ。なんか今回は強制参加させられて」
「へぇ。」
「でも、俺も意外だったぜ?まさか晃が参加してるなんてな。
 実は深山主催の合コン常連だったりすんのか?」
「いや、初めてだ。別に彼女が欲しいわけでもないしな」
「え?いねーの?うっわー、以外!お前、凄くモテそうなのにっ」
「どこがだよ」

そう言って、晃が柔らかく笑う。
そして思う。
あぁ、でも、やっぱり変わってない。
根っこは俺の知ってる晃のままだ。

「そういう所が、だよ」

俺は小さい声で呟いた。

「ん?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ!」

ふい、とそらした顔を晃が追いかけて、覗いてこようとする。
顔が近いって!・・・って、何で俺はこんな事でドキドキしてるんだ?
今更だし、そんな・・恥ずかしがるようなことでもないだろ!?
って、思うんだけど、心はそう上手くはいかない。

深山がオレたちを呼んだ。
女の子達が来たらしい。

「あ、ほら!呼んでる。行こうぜ」

内心ホッとしながら、・・少し、なんでだか残念な気持ちが
なかったわけじゃないけど、俺は晃の腕を引いて促した。
だって、わかんねーけど、顔が熱いんだ。
きっと、赤くなってる。




女の子達は、喜んでいた。
まぁ、それなりの男がそろってるからな。
その眼中に俺は明らかに入っていなかったけど、そんなことはどうでもよかった。
ただ、女の子達に笑いかける晃のことが気になって、仕方なかった。

こうして、俺の初体験(合コン)が過ぎて行った。





恋が芽生えた?それともやっと自覚した?