本気のキスをしよう

第三回




「おい、夕映。しっかりしろよ」
「ん〜・・?あ。あきらだぁ〜」
「あぁ、俺だよ」
「岬、大丈夫か?ソイツ…」
「いや、ダメっぽいな。連れて帰るよ」

そう言って、夕映の身体を抱いた。
すると、女の子達から「え〜?」と不満そうな声が上がった。
それに夕映がむすっと不機嫌そうな顔を浮かべる。
彼女達には、見えてないけれど。
そんな夕映に、俺は苦笑を浮かべる。そして、彼女達に向き合った。

「ごめん。コイツ送っていくからさ」
「なんでー?岬くんはいいじゃん。一樹くんだって男の子なんだから一人で平気よ」
「そうそう」
「でも、ほら。一人で立てないみたいだし。ごめんね」
「やーだー。もっと遊ぼう?」

「うるせぇ!」

突然、夕映が叫んだ。みんなビックリして夕映を見ている。

「夕映・・?」
「晃は俺んだっ」
「は・・・」
「俺んだ!ベタベタすんじゃねぇよ」

目が据わっている。
酔った夕映は性質が悪い。覚えておこう。

「おい、夕映。みんなビックリして・・・」
「んっ!」

女の子達と睨みあっている夕映を落ち着かせようとしたとき。
唇が、塞がれていた。
キスなんてもんじゃない。ただ唇がぶつかっただけの事だ。
けれど・・・。

「・・・・・」
「わかったか!夕映は俺のだからなっ手を出すなよ!」

深山がひゅぅ〜と口笛を吹いたのがわかった。
あー、もう・・・。
俺はため息をつくと、立ち上がって夕映を抱き上げた。

「あきらっ」
「深山、あと頼んだ・・」
「おー。貸しな」

俺は、夕映を抱えて店を出た。
抱きかかえた夕映は全然軽かったが、二人分の荷物と夕映を抱え、
このまま歩いて帰るのは流石に難しい。
俺はタクシーを捕まえて乗り込んだ。
行き先を伝えると、運転手は特に話し掛けることもなく車を走らせてくれた。





「あきら〜」
「はいはい」

夕映は目を閉じて先程から俺に抱きついている。
大分落ち着いたらしいが酒は全く抜けていないらしい。
そんな夕映の頭をポンポンと撫でてやると気持ちよさそうに手に懐いてくる。
目線を降ろすと、伏せられた目に、赤いほっぺに、唇に、覗く舌に・・・。
ダメだ。見るな。

そんな夕映に、何度目か分からないため息を付く。

・・・俺の気も知らないで・・。

夕映は知らない。
俺がどんな風に夕映を見ているのか。
だから、こんな風に無防備に懐いてくる。
俺は、すごく困ってるのに。
さっきのキスは参った。本当に。
あの台詞も。酔っ払いの戯言だと思っているのに、期待をしてしまう。
まさか、心にもないことは言わないだろう、と。
少なくとも、ヤキモチを妬いてくれたのは本当だろう、と。





「夕映、もうすぐ着くぞ」
「ん〜・・?」

静かだと思ったら眠かったらしい。
ぐずるように岬の胸に擦り寄る。

「ほら、もう少し頑張れ」
「あきらぁ〜」

また抱きついてくる。
さっきも思ったけど、本当によった夕映は性質が悪い。


俺にもたれてくる夕映を抱いて、支払を済ませタクシーを降りる。
タクシーが行ってしまうと深夜の住宅街は静かで真っ暗だ。
夕映の家にも、もちろん電気は点いていない。
というか、夕映の両親は仕事が忙しいから、殆ど家にいないんだっけ。
家庭事情も相変わらずなのか。

「夕映、鍵は?」
「なに・・?」
「鍵、家の鍵。」
「んー・・」

地面に座った状態の夕映はボーッとした顔で俺のことを見上げてくる。

「勝手に探すぞ?」

俺は夕映の向かいにしゃがむと夕映の鞄の中を漁った。が、ない。鍵が。
まさか、どっかに落とした・・なんてことはないよな?

「夕映、鍵はどこにやったんだ?」
「かぎ・・・」
「そう、鍵」
「んーとなぁ」

首をかしげて考えると、あ。と声をあげ、ポケットから出した財布を
俺に差し出してくる。
俺はそれを受け取ると中を見た。

「あった」

安心したようにそう言うと、夕映はにっこり笑ったかと思ったら、俺の胸に倒れ込んだ。

「夕映?」

ビックリしながらも、しっかり抱きとめる。
・・・寝てる。
腕の中で気持ちよさそうに寝息を立てている。

「頼むよ、ホント・・・」

小さな呟きは誰に聞きとめられることも無く。
俺は、夕映を抱きかかえて、家の中に入っていった。





どーなるんだろうなー・・